米国向け自動車輸出が落ち込んだ5月の貿易統計と反動減を示した4月の機械受注
本日、財務省から5月の貿易統計が、また、内閣府から4月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比▲1.7%減の8兆1349億円に対して、輸入額は▲7.7%減の8兆7726億円、差引き貿易収支は▲6376億円の赤字を計上しています。また、機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲9.1%減の9190億円と、3か月ぶりの前月比マイナスを記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。
5月輸出額、8カ月ぶり減少 米国向け自動車落ち込む
財務省が18日発表した5月の貿易統計速報によると、輸出額は前年同月に比べ1.7%減の8兆1349億円だった。8カ月ぶりに減少した。主に米国向けの自動車の輸出が落ち込んだ。トランプ米政権が4月に発動した追加関税の影響が広がり始めた可能性がある。
地域別の輸出額は、米国向けが11.1%減の1兆5140億円だった。このうち自動車の輸出額が24.7%減と大きく落ち込んだ。台数ベースでみると3.9%減にとどまっており、輸出価格が下がった影響が大きい。
日本車メーカーが関税の影響を和らげるため、価格を下げたり、価格の低い車種を優先して輸出したりした可能性がある。
米国向けの自動車部品や半導体製造装置などの輸出も落ち込んだ。米国からの輸入額は13.5%減った。対米輸出から同輸入を差し引いた貿易収支は4517億円の黒字で、5カ月ぶりに減少した。
中国向けの輸出は8.8%減の1兆4417億円だった。半導体製造装置や銅、ハイブリッド車(HV)などの輸出額が減った。
世界全体からの輸入額は8兆7726億円と7.7%減った。2カ月連続で減少した。原粗油は輸入数量が3.5%増、輸入額が18.9%減だった。資源価格の下落や円高が輸入額を押し下げた。
米国からの医薬品、中国からのパソコンや石油製品の輸入も増えた。
輸出から輸入を差し引いた貿易収支は6376億円の赤字になった。赤字は2カ月連続となる。
4月の機械受注、9.1%減 3カ月ぶりマイナス
内閣府が18日発表した4月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で9.1%減の9190億円だった。3カ月ぶりにマイナスに転じた。製造業、非製造業ともに前月比でマイナスだった。
基調判断は「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。QUICKが事前にまとめた船舶・電力を除く民需の市場予測の中央値は9.9%減だった。
内訳をみると、製造業が0.6%減の4566億円だった。17業種のうち、電気機械やはん用・生産用機械など7業種が前月比で減少した。
調査はトランプ米政権による関税措置が発動した4月の受注状況が対象となった。内閣府の担当者は「今月の数字上からは(政策の影響は)確認できない」と説明した。自動車・同付属品は20.3%減だったものの、鉄鋼業は39.9%増と伸びた。
非製造業(船舶・電力を除く)は11.8%減の4708億円だった。「その他非製造業」や金融業・保険業が落ち込んだ。
民需(船舶・電力除く)について毎月のぶれをならした3カ月移動平均は2.2%増でプラスを維持した。
包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも△8908億円と、△9000億円近い貿易赤字が見込まれていたところ、実績の▲6376億円の赤字はやや上振れした印象です。季節調整済みの系列でも、3-5月の貿易赤字は▲3000-3500億円ですし、5月は▲3055億円の赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。カナダで開催されていたG7会合における首脳会談では合意に至らなかったようですし、今後の進展が注目されます。
本日公表された5月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+3.5%増、金額ベースで▲18.9%減となっています。エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで▲3.4%減ながら、輸入総額は▲7.7%減ですので、品目別に見てそれほど減っていないともいえます。特に、食料品のうちの穀物類は数量ベースで+0.5%増、金額ベースでは▲6.8%減となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで▲10.4%減、金額ベースで▲24.2%減を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が数量ベースで+3.8%増となったものの、金額ベースでは▲6.9%減となっています。自動車輸出における数量ベース増の金額ベース減は明らかに、日本のメーカーあるいは輸出商社の方で関税分を負担して自動車価格に上乗せしていないことを表していると考えるべきです。どこまでこういった関税負担がサステイナブルであるかは私には不明です。電気機器も同じく▲3.5%減となっている一方で、一般機械が金額ベースで+3.1%増と伸びを示しています。引用した記事にあるように、「追加関税の影響が広がり始めた可能性」は否定できません。国別輸出の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で▲8.8%減となったにもかかわらず、中国も含めたアジア向けの地域全体では+0.4%増の堅調な動きとなっています。他方で、米国向けは▲11.1%減と大きく落ち込んでいます。ただ、西欧向けは+3.1%増となっています。繰り返しになりますが、今後の輸出については、米国トランプ政権の関税政策次第と考えるべきです。

続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。引用した記事では、「市場予測の中央値は9.9%減」とありますが、私が見ている範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも同じ前月比▲10.0%減でした。実績の▲9.1%減はやや上振れした印象ながら、大きなサプライズはありませんでした。いずれにせよ、3月統計で前月比+13.0%像を記録した後の4月統計の▲9.1%減ですから、先月の大幅増の反動と考えるべきです。ですので、記事にもあるように、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。季節調整済みの前月比で見て、製造業が▲0.6%減であった一方、船舶・電力除く非製造業は▲11.8%減となっています。1~3月期のコア機械受注は前期比で+3.9%増の2兆7632億円でしたが、4~6月期見通しでは▲2.1%の減少に転ずると見込まれていますので、4月統計はそれに沿った動きと見ることも出来ますが、トランプ関税次第では下振れする可能性も否定できません。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を示している一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は近い将来にはまだ続くことが歩く予想されますし、DXあるいはGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。でも、設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、繰り返しになりますが、米国のトランプ政権の関税政策や中東の地政学的リスクなどにより先行き不透明さが増していることは設備投資にはマイナス要因です。加えて、国内要因として、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかですどう考えても、先行きについては、リスクは下方に厚いと考えるべきです。
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