意外と製造業の景況感が堅調だった6月調査の日銀短観
本日、日銀から6月調査の短観が公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは3月調査から+1ポイント改善して+13、他方、大企業非製造業は逆に▲1ポイント悪化の+34となりました。また、本年度2025年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+6.7%増と、3月調査の+0.1%増から上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
大企業製造業の景況感、2四半期ぶり改善 日銀短観6月
日銀が1日発表した6月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回2025年3月調査(プラス12)から小幅に改善しプラス13だった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。6月調査の回答期間は5月28日~6月30日で回答率は99%だった。6月12日までにおおむね7割の回答があったという。
トランプ米政権は4月5日に米国への全輸出国に基本税率10%の関税を発動した。トランプ関税の影響を本格的に反映するのは今回の短観が初めてとなる。民間エコノミストの予想は大企業製造業で小幅悪化を予測していた。
大企業製造業の景況感の改善は2四半期ぶり。米国の通商政策を背景とした不確実性は業況の下押しとなる一方、価格転嫁の進展で企業収益が好調なことが全体を押し上げた。
業種別にみると、鉄鋼が15ポイント改善しマイナス3となった。価格転嫁の進展に加え、原材料価格が低下したことが背景にある。紙・パルプも11ポイント改善しプラス29になった。
一方、自動車は5ポイント悪化しプラス8となった。悪化は24年9月調査以来、3四半期ぶり。トランプ政権が自動車や自動車部品に対して追加関税を発動し、日銀担当者は「米国の通商政策をうけた不透明感の高まりや需要減退を指摘する声が聞かれた」と指摘する。
自動車の先行きについてはプラス7と1ポイントの悪化だった。米関税の影響を懸念する声がある一方で、価格転嫁がさらに進むことで収益が改善するとの見方がある。
大企業非製造業の景況感は3月のプラス35から小幅に悪化しプラス34だった。悪化は2四半期ぶり。民間エコノミストの予想はプラス34だった。
販売価格の上昇や消費に対する懸念が悪化要因となった。日銀担当者は「対個人サービスなどでは、関税の影響を受けた消費者マインドの悪化や先行きの不透明感を指摘する声があった」と説明する。
業種別では、小売が3ポイント悪化しプラス18となった。日銀担当者は「一部で円高によるインバウンドの落ち込みを指摘する声があがった」と話す。
企業の物価見通しは全規模全産業で1年後は前年比2.4%と前回調査と比べて0.1ポイント下方修正された。3年後は2.4%、5年後は2.3%と横ばいだった。
企業の事業計画の前提となる25年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=145円72銭だった。前回調査は147円06銭で、円高方向に修正された。
いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

先週、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内ながら、ヘッドラインとなり大企業製造業の業況判断DIは悪化、との予想が緩やかなコンセンサスであったと私は考えています。例えば、私が見た範囲で、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ロイターによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回3月調査から▲1ポイント悪化の+10と予想されていました。本日公表された大企業製造業の景況判断DIの+10という実績は、横ばい圏内の動きという意味でも、動きの幅のマグニチュードでも大きなサプライズはありませんでした。ただ、プラスかマイナスかの符号は違っていただけに、やや上振れした印象が持たれるのは当然です。また、大企業非製造業では逆に▲1ポイント悪化して+34となりました。
業種別に少し詳しく見ると、大企業製造業では、素材業種が鉄鋼、紙・パルプ、石油・石炭製品などのプラスを背景に前回調査より+4ポイント改善した一方で、加工業種は▲2ポイント悪化を示しています。中でも、トランプ関税との関係で注目され、我が国リーディングインダストリーのひとつである自動車は前回調査から▲5ポイント悪化の+8であり、先行きもさらに▲1ポイント悪化すると見込まれています。大企業非製造業では、物品賃貸や不動産、あるいは、通信といった業種で前回調査から下振れしています。ただし、これらの業種いずれもDIの水準としてはプラスを維持しています。景況感に関しては 鉱工業生産指数(IIP)や商業販売統計などを見る限り、概ねハードデータとソフトデータの整合性は十分あるような気がします。ただ、トランプ関税などに起因して先行き不透明感は大きく、景況感についても、製造業・非製造業おしなべて大企業・中堅企業・中小企業ともに先行きは悪化すると予想されています。

続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学における生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感がほぼ払拭されました。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。グラフを見ても理解できる通り、大企業・中堅企業・中小企業ともコロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが高水準だった背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が安定的に上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人で不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性がある、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないために、そう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、繰り返しになりますが、低賃金労働者が不足しているだけであって、外国人を含めて低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性が十分あるのではないかと感じます。

続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。規模別に見ると、大企業が3月調査の+3.1%増から上方修正されて+11.5%増、そして、中堅企業も+0.3%増から上方修正されて+3.4%増、中小企業でも▲10.0%減から上方修正されて▲5.6%減と、人手不足を設備投資による資本ストック増で要素間代替を試みるような動きが観察されます。大企業に比べて規模の小さい企業での雇用増を図ることが厳しく、設備投資で代替させようとの動きと私は受け止めていますが、中小規模の企業は現時点ではまだマイナス計画です。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の6月調査では全規模全産業で+6.7%増の高い伸びが計画されています。当然jのように、3月調査よりも上積みされています。デジタルトランスフォーメーション(DX)だけでなく、カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)、さらに、グローバリゼーション=国際化などに対応した投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。ただ、GDPベースの設備投資やその先行指標である機械受注などのハードデータと日銀短観に示されたソフトデータの間でまだ不整合があるような気がします。計画倒れにならないことを願っています。

最後に、日銀短観から離れて、本日、内閣府から6月の消費者態度指数が公表されています。消費者態度指数のグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。6月統計では、前月から+1.7ポイント上昇して34.5を記録しています。また、消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「耐久消費財の買い時判断」が+2.8ポイント上昇して28.2、「暮らし向き」が+2.2ポイント上昇し32.4、「雇用環境」が+1.0ポイント上昇して38.3、「収入の増え方」も+0.6ポイント上昇して38.9と、消費者態度指数を構成する4項目すべてが上昇しました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「弱含んでいる」で据え置いています。先月4月統計で従来の「足踏みがみられる」から、「弱含んでいる」に1ノッチ下方修正したのですが、本日公表の6月統計では「持ち直しの動きがみられる」と明確に1ノッチ上方修正しました。さらに、物価上昇に伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答が48.8%を占める一方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答も32.9%に上っており、これらも含めた物価上昇を見込む割合は92.1%と高い水準が続いています。ただし、物価上昇予想は上昇率の低い方にややシフトしています。
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