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2025年10月31日 (金)

3か月ぶり増産となった鉱工業生産指数(IIP)と名目では増加を続ける商業販売統計と底堅い雇用統計

本日は月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、さらに、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。いずれも9月の統計です。IIPのヘッドラインとなる生産指数は季節調整済みの系列で前月から+2.2%の増産でした。2か月ぶりの減産となります。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.5%増の12兆6130億円を示し、季節調整済み指数は前月から+0.3%の上昇となっています。雇用統計のヘッドラインは、失業率は前月から横ばいの2.6%、有効求人倍率も前月と同じ1.20倍を、それぞれ記録しています。まず、ロイターのサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産9月は2.2%上昇、3カ月ぶり増 半導体製造装置などけん引
経済産業省が31日公表した9月の鉱工業生産指数速報(2020年=100)は前月比2.2%上昇の102.8で、3カ月ぶりに上昇した。半導体製造装置などの増産が押し上げた。生産の基調判断は「一進一退」で据え置いた。
生産実績を押し上げたのは半導体製造装置などの生産用機械(前月比6.2%増)のほか、定期修理終了によるポリプロピレン増産が寄与した無機・有機化学(同9.1%増)など。大型案件があった橋りょうなど金属製品工業(同7.6%)も好調だった。
一方、航空機用発動部品など自動車を除く輸送機械(同6.6%減)、通信用ケーブル光ファイバ製品などの鉄鋼・非鉄金属工業(同0.5%減)が減産となった。
経産省の幹部によると、自動車業界から米関税の影響に関するコメントは特になかったという。
企業の生産計画に基づく予測指数は10月が1.9%上昇、11月が0.9%低下となっている。経産省が策定している、生産計画を上方修正している企業の割合から下方修正している割合を差し引いたマインド指標では、10月の調査結果は9月より改善しているという。ただ、経産省は生産について「依然として楽観視できる状況にはなく、要注視だ」(幹部)としている。
小売業販売額9月は前年比+0.5%、コメ値上げなどで2カ月ぶりプラス
経済産業省が31日発表した9月の商業動態統計速報によると、小売販売額は前年比0.5%増の12兆6130億円だった。コメ値上げなどでドラッグストアの販売増などが寄与した。
<スーパー販売、数量ベースではマイナス>
業種別の前年比では、ドラッグストアなどの医薬品・化粧品小売業と、家電などの機械器具小売業がそれぞれ5.9%増と伸びた。一方、ガソリンスタンドなどの燃料小売り業は4.9%減少した。飲食料品小売業も0.3%減だった。
業態別の前年比でもドラッグストアが5.1%と大きく伸びた。コメなど食品の販売増がけん引したが、「価格要因で数量ベースでは前年比横ばい」(経産省)という。
スーパーも4.2%増だったが、「増額は価格要因で数量ベースでは若干マイナス」(同)という。
家電大型専門店は基本ソフト(OS)「ウィンドウズ10」のサポート終了に伴うパソコン特需やスマートフォン、ゲーム機が好調で5.4%増加した。
一方、ホームセンターは昨年夏に防災買いだめ需要などが発生した反動で2.3%減だった。
完全失業率9月は2.6%、雇用情勢は底堅い 有効求人倍率1.20倍
政府が31日発表した9月の雇用関連指標は、完全失業率が季節調整値で2.6%で、前月と同水準だった。より良い条件を求める人々によって労働市場のパイは拡大しており、総務省は雇用情勢は悪くないとの見方を示している。有効求人倍率は1.20倍で、前月から横ばいだった。
ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.5%、有効求人倍率は1.20倍が見込まれていた。
総務省によると、9月の就業者数は季節調整値で6834万人と、前月に比べて24万人増加。完全失業者数(同)は181万人で、前月から2万人増加した。
正規の職員・従業員数(実数)は3760万人、このうち女性が1379万人。いずれも比較可能な2013年1月以降で最多となっている。
仕事をしておらず探してもいない「非労働人口」に区分されていた人々が、職に就いたり仕事を探したりするようになり、労働市場のパイが拡大している。総務省の担当者は「雇用情勢は引き続き悪くない」との認識を示した。
<有効求人数、有効求職者数ともに減少>
厚生労働省によると、有効求人数(季節調整値)は前月に比べて0.7%減少。卸売業や小売業では、省人化や物価高騰の影響などで求人を控える動きがみられたという。製造業は人件費や原材料費の上昇が経営を圧迫している。価格転嫁にも限界があるとの声や、米関税のマイナス影響を不安視する向きもあった。
一方、有効求職者数(同)は0.8%減少。現場からは景気の先行き不透明感から転職に慎重になっているとの声も上がっていたという。
大和証券のエコノミスト、鈴木雄大郎氏は、今後、最低賃金が大幅に引き上げられることから「中小企業を中心に一段とコストが増加することが見込まれる」と指摘。求人を出すことを控える動きが強まる可能性が高く、「求人数が一段と減少することで、有効求人倍率は緩やかに低下していく」とみている。
有効求人倍率は、仕事を探している求職者1人当たりに企業から何件の求人があるかを示す。9月は前月に続き22年1月(1.19倍)以来の低水準となったが、厚労省の担当者は「雇用情勢は特に悪化していない」との認識を示している。

いくつかの統計をまとめて取り上げましたので、とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2020年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはロイター調査による市場の事前コンセンサスはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+1.6%の増産が予想されていました。いずれにせよ、実績である+2.2%減は市場予想からやや上振れした印象です。ただし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのレンジ上限が+2.7%でしたので、大きなサプライズというわけではありませんでした。ですので、だからかどうかは不明ながら、統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断については、「一進一退」で据え置いています。昨年2024年7月から1年余り連続の据置きです。先行きについては記事にもある通り、製造工業生産予測指数を見ると、足下の10月は補正なしで+1.9%の増産、翌10月は▲0.9%の減産となっています。上方バイアスを除去した補正後では、10月の生産は▲0.5%の減産と試算されています。
経済産業省の解説サイトによれば、9月統計における生産は、増産方向に寄与したのは生産用機械工業が前月比+6.2%増で+0.52%の寄与度、無機・有機化学工業が+9.1%増で+0.37%の寄与度、金属製品工業が+7.6%増で+0.30%の寄与度、などとなっています。他方、減産方向に寄与したのは、輸送機械工業(除、自動車工業)が前月比▲6.6%減で△0.21%の寄与度、鉄鋼・非鉄金属工業が▲0.5%減で▲0.03%の寄与度、となっています。
引用した鉱工業生産(IIP)に関する記事の最後に、「依然として楽観視できる状況にはなく、要注視だ」との経済産業省の発言がありますが、この統計を見ている限り、米国の関税政策の影響はそれほど大きくない、ということになるのかもしれません。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整済みの2020年=100となる指数をプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売のヘッドラインは季節調整していない原系列の前年同月比で見るのがエコノミストの間での慣例なのですが、見れば明らかな通り、伸び率はとうとう先月の8月統計で▲0.9%と42か月ぶりのマイナスを記録していた後、9月統計では+0.5%に戻っています。8月統計では猛暑による外出手控えなどの気候の効果があったのかもしれません。引用した記事にある通り、売上の増減は価格の変化に起因していて、数量ベースではそうれほど大きな変化は見られないような印象も受けます。コメの売上増やガソリンの売上減は、数量ベースよりも名目ベースの変化の方が大きい印象です。ただ、あくまで印象であって統計的な裏付けがあるわけではありません。ということで、統計作成官庁である経済産業省では基調判断について、季節調整済み指数の後方3か月移動平均により機械的に判断していて、本日公表の9月統計までの3か月後方移動平均の前月比が▲0.8%の低下となりましたので、5月統計で下方修正した「一進一退」から、「弱含み傾向」に明確に1ノッチ下方修正しています。加えて、参考まで、消費者物価指数(CPI)との関係では、9月統計ではヘッドライン上昇率が+2.7%、生鮮食品を除く総合のコアCPI上昇率でも同じく+2.9%となっていますので、前年同月比がプラスに戻ったとはいえ、9月統計の実質消費はマイナスの可能性が高いと考えるべきです。さらに考慮しておくべき点は、国内需要ではなく海外からのインバウンド観光客により、部分的なりとも小売業販売額の伸びが支えられている可能性です。このインバウンド消費を考え合わせると、国内消費の実態は本日の統計に示された小売業販売額のマイナス以上のマイナスとなっている可能性は考慮しておかねばなりません。

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引用した記事にもあるように、ロイターの事前予測調査で完全失業率は2.4%、有効求人倍率は1.22倍が見込まれていましたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、失業率が2.4%有効求人倍率は1.20倍でした。本日公表された実績で、失業率2.6%、有効求人倍率1.20倍はともに、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスのほぼ下限といえますが、引用した記事の3パラ目にあるように、それほど雇用が悪化しているという見方は示されていません。というのは、失業率が上昇している背景は失業者数の増加であり、季節調整していない原系列の統計で見て、失業者数は8月が前年同月から+7万人、9月も+11万人となっている一方で、就業者数は8月+20万人、9月+49万人と、ともに失業者数の増加を超えて増加しているからです。では何が起こっているのかというと、非労働力人口が減少しています。8月は▲52万人減、9月は▲83万人減を記録しています。ですから、専業主婦や高齢者、だけとは限りませんが、労働市場に参入していなかった非労働力人口が労働市場に参入して、就業者と失業者ともに増加させていつ、というわけです。基本は、春闘の結果などを受けて、また、人手不足に対応して、賃金上昇に伴って労働市場への参入が増加している、と考えるのが伝統的な経済学の見方であろうと思います。何といっても、失業率はまだ2%台半ばですし、有効求人倍率は1を超えています。

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2025年10月30日 (木)

日本シリーズ第5戦は逆転負けで石井投手沈む

 十一 RHE
ソフトB00000002001 3100
阪  神01001000000 281

【ソ】有原、ヘルナンデス、松本晴、藤井、杉山、松本裕 - 海野、嶺井
【神】大竹、及川、石井、岩崎、村上 - 坂本

ソフトバンク日本一おめでとうとなりました。
シーズン中は無失点記録を作った石井投手でしたが、柳田選手のツーランに沈みました。まあ、下位打線の弱さが致命的でしたね。

来年は日本一奪還目指して、
がんばれタイガース!

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日銀「展望リポート」の経済見通しは大きな変更なし

昨日から開催されていた日銀の金融政策決定会合では政策金利の据え置きを決定しています。無担保コール翌日物金利の誘導目標は0.5%で維持されています。また、「展望リポート」では今年2025年の成長率や物価上昇見通しも、小幅な修正にとどまっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると下の通りです。

日銀、政策金利0.5%で据え置き決定 米関税影響の点検継続
日銀は30日開いた金融政策決定会合で、政策金利である無担保コール翌日物レートの誘導目標を0.5%で据え置くと決めた。米政府の関税引き上げに伴う米国経済の先行きへの慎重論があり、日本の経済や物価への影響について点検を続ける。
植田和男総裁が同日午後3時半に記者会見し、決定内容を説明する。1月の会合で0.5%への利上げを決めた後は6会合連続で金利を維持している。高市早苗政権が発足して初めての決定会合だった。
9人の政策委員のうち高田創審議委員と田村直樹審議委員が金利の据え置きに反対した。両者は9月会合に続いて今回も0.75%への利上げを提案し、反対多数で否決された。高田氏は「物価安定の目標の実現がおおむね達成された」と主張し、田村氏は「物価上振れリスクが膨らんでいる」と指摘した。
日銀は米国経済について関税の影響が目立って出ていないものの、今後は雇用や消費を下押しする可能性があるとみている。世界経済が減速すれば、日本企業の収益が落ち込み、来年の賃上げ機運がしぼむとの懸念がある。
米経済の実態は政府機関の閉鎖により経済統計の公表が止まっていることから確認が難しい。日銀内部ではなお見極めが必要との意見が多い。
10月会合では3カ月ごとに更新する「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」も決めた。2025~27年度の各年度の実質GDP(国内総生産)の成長率と、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年度からの上昇率について、最新の見通しを示した。
政策委員の見通しの中央値は、実質GDPで25年度と26年度が0.7%、27年度が1.0%となった。生鮮食品を除く消費者物価は25年度で2.7%、26年度で1.8%、27年度で2.0%とした。25年度の実質GDPの成長率を0.1ポイント引き上げるなど小幅な修正にとどまった。
関税の影響で一時的に成長ペースが伸び悩み、その後回復するシナリオは変わっていない。2%の物価安定目標を達成する時期については、26年度後半から27年度までの間になるとの見通しも維持した。
市場は12月の利上げを有力視している。東短リサーチと東短ICAPによると、市場が織り込む利上げ確率は30日午前時点で12月会合が60%、26年1月が22%、3月が14%となっている。植田総裁が利上げ方針についてどのように説明をするかにも注目が集まる。

続いて、政策委員の大勢見通しを「経済・物価情勢の展望 (2025年10月)」から引用すると以下の通りです。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。

     
  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
(参考)
消費者物価指数
(除く生鮮食品・エネルギー)
 2025年度+0.6 ~ +0.8
<+0.7>
+2.7 ~ +2.9
<+2.7>
+2.8 ~ +3.0
<+2.8>
 7月時点の見通し+0.5 ~ +0.7
<+0.6>
+2.7 ~ +2.8
<+2.7>
+2.8 ~ +3.0
<+2.8>
 2026年度+0.6 ~ +0.8
<+0.7>
+1.6 ~ +2.0
<+1.8>
+1.8 ~ +2.2
<+2.0>
 7月時点の見通し+0.7 ~ +0.9
<+0.7>
+1.6 ~ +2.0
<+1.8>
+1.7 ~ +2.1
<+1.9>
 2027年度+0.7 ~ +1.1
<+1.0>
+1.8 ~ +2.0
<+2.0>
+2.0 ~ +2.2
<+2.0>
 7月時点の見通し+0.9 ~ +1.0
<+1.0>
+1.8 ~ +2.0
<+2.0>
+2.0 ~ +2.1
<+2.0>

見れば明らかな通り、成長率も物価も前回リポートの7月時点と大きな変更はありません。ですので、再利上げの時期についての情報も乏しいと考えるべきです。他方で、高市内閣成立後に株価が大きく上昇していて、実体経済や物価に関係なく株価だけが上昇しているように私は受け止めています。ですので、この株高を材料に12月で再利上げに踏み切る、というのもひとつの見方だろうという気がします。ただし、米国の関税の影響は、12月の時点では明らかではないような気もしますが、そこは強行するかもしれません。

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2025年10月29日 (水)

3か月連続で前月差プラスとなり基調判断が引き上げられた10月の消費者態度指数

本日、内閣府から10月の消費者態度指数が公表されています。10月統計では、前月から+0.5ポイント上昇して35.8を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数、10月は3カ月連続上昇し35.8 基調判断引き上げ
内閣府が29日公表した10月の消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は前月から0.5ポイント改善し35.8となり、3カ月連続で上昇した。内閣府は、消費者マインドの基調判断を前月の「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直している」に上方修正した。判断の変更は今年6月以来。
>株価上昇が寄与した可能性<
消費者態度指数を構成する4つの指標すべてが前月比で改善した。
このうち「暮らし向き」は前月比1.1ポイントと大きく改善し、内閣府の担当者は「最近の株価上昇が影響した可能性がある」との見方を示した。ウクライナ情勢を受けた物価の上昇により「物価の見通し」と「暮らし向き」に逆方向の相関関係がみられていたが、「9月と比べて物価見通しに大きな変化はない」(内閣部幹部)ためという。
1年後の物価が上昇するとの回答比率は9月の93.4%から92.6%に低下した。前月比マイナスは4カ月ぶり。1年後の物価が5%以上上昇するとの回答は増えたが、5%未満、2%未満との回答比率はそれぞれ減少した。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「暮らし向き」が+1.1ポイント上昇し34.3、「収入の増え方」が+0.6ポイント上昇し40.0、「雇用環境」が+0.2ポイント上昇して40.1、「耐久消費財の買い時判断」が+0.1ポイント上昇して28.9と、消費者態度指数を構成する4項目すべてが上昇しました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直している」と上方修正しています。6月統計で従来の「弱含んでいる」から、「持ち直しの動きがみられる」に1ノッチ上方修正してから、本日公表の10月統計で上方修正と4か月ぶりの改定です。私が従来から主張しているように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があります。総務省統計局による消費者物価指数(CPI)のヘッドライン上昇率は今年2025年に入ってから1月+4.0%をピークに徐々に低下を続けており、8月+2.7%まで減速したのに続いて、直近の9月では+2.9%と小幅に加速しましたが、+2%台が続いています。依然として日銀物価目標の+2%を上回っていますが、やや落ち着いてきた印象もあります。インフレとデフレに関する消費行動は、1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、1990年代後半にデフレに陥る前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、バブル経済崩壊後の長い長い景気低迷機を経て、物価上昇により消費者が買い控えをする行動が目につくように変化したのかもしれません。
また、物価上昇に伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答がまだ50.5%を占めていますが、今年2025年4月には60%に達していたことを考えれば、徐々に割合が低下してきたことは事実です。他方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答が32.9%に上っており、これらも含めた物価上昇を見込む割合は92.6%と高い水準が続いています。加えて、引用した記事の最後のパラにも現れているように、物価上昇予想は上昇率の高い方へのシフトが見られます。これも、最近の物価統計などで実績としての9月のCPI上昇率が加速している影響が現れている可能性があると考えるべきです。

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2025年10月28日 (火)

日本シリーズ第3戦は逆転負けで1勝2敗

  RHE
ソフトB000101000 262
阪  神100000000 160

【ソ】モイネロ、藤井、松本裕、杉山 - 海野
【神】才木、及川、岩崎、石井 - 坂本

日本シリーズ第3戦は、逆転負けで1勝2敗となりました。
初回こそ佐藤輝選手のタイムリーで先制しましたが、まあ、それだけでした。先発才木投手が逆転されると、そのまま逃げ切られました。打線の下位打線、6番以下というよりも、5番大山選手から弱体化している印象です。6番レフトはこのくらいの位置づけなんでしょうか。疑問です。まあ、明日が勝負の第4戦ですね。明日、高橋投手で負けたりすると、あっさりとスイープされそうな気もします。

明日こそ、
がんばれタイガース!

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気候変動の定量分析から判明している経済への影響

全米経済調査会(NBER)から "The Global Economic Impact of Climate Change: An Empirical Perspective" と題するワーキングペーパーが明らかにされています。タイトル通り、気候変動が経済に及ぼす影響について定量的に把握されているものをサーベイしています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

  • Hsiang, Solomon (2025) "The Global Economic Impact of Climate Change: An Empirical Perspective," NBER Working Paper No.34357, October 2025

    続いて、NBERのサイトからABSTRACTを引用すると下の通りです。

    ABSTRACT
    Empirical research has revolutionized how we understand the global economic impacts of climate change. Recent empirical analyses have tested theoretical ideas, challenged prior estimates, and revealed important and unexpected impacts. Further, the credibility and replicability of empirical results have played a critical role in guiding high-stakes climate policies. Here, I describe the landscape of empirical economic research on global impacts, I explain elements of modern analyses, I summarize recent findings on a range of topics, and I point towards promising new areas of investigation. In particular, I focus on empirical perspectives for six "grand challenges" in the field: understanding climate change's global impact on economic output, health, conflict, food security, disasters, and migration. Overall, I argue that interwoven empirical findings across outcomes are aligning to paint an increasingly coherent picture of a future global economy impacted by climate change. Taking the literature as a whole, the global consequences of unmitigated climate change are likely to be substantial, unequal, negative in net economic value and potentially destabilizing.

    要するに、本論文でグランドチャレンジ=grand challenges と呼んでいる6項目、すなわち、経済産出、健康、紛争、食料安全保障、災害、そして、移民 (economic output, health, conflict, food security, disasters, and migration) に及ぼす地球経済への影響を取りまとめています。続いて、論文から Figure 2: Empirical dose-response relationships for select studies on six "grand challenges" of climate change impact research を引用すると下の通りです。

    photo

    見れば明らかなのですが、AとBが経済産出=economic output、CとDが健康=health、Eが紛争=conflict、Fが移民=migration、GとHが食料安全保障=food security、 IとJが災害=disasters、となります。6項目すべてで気候変動の影響を受けるわけですが、いくつかの項目では一定の閾値を超えると急速に悪化するものが発見されています。典型的には食料安全保障であり、特に、農作物の収穫については30℃を超えると急速に悪化し、したがって、なんだろうと思いますが、栄養失調=malnutritionも連動して悪化します。iPhoneがないと死んでしまう若者は決して無視すべきではありませんが、食料はもっと直接的に人命や健康に影響を及ぼします。
    通常、経済学のアカデミックな論文は、最後は Conclusion ということで結論や今後の課題で締めくくるのですが、本論文は Discussion を置いています。気候変動は国産のSDGsの中でももっとも真剣に取り組むべき課題のひとつです。

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2025年10月27日 (月)

ふたたび+3%に上昇率が拡大した9月の企業向けサービス価格指数(SPPI)

本日、日銀から9月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は前月8月の+2.7%から、9月は+3.0%と4か月ぶりにふたたび+3%台を記録しています。ただ、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIの上昇率は+2.9%の上昇となっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、伸び4カ月ぶり3%台回復 人件費転嫁続く
日銀が27日に公表した9月の企業向けサービス価格指数速報は、前年比3.0%上昇し111.3(速報値=2020年平均100)となった。上昇幅は8月の2.7%上昇(改定値)から拡大し、4カ月ぶりの高い伸びを記録した。「高人件費率サービス」が3.3%上昇と高水準を維持しており、日銀の担当者は「引き続き人件費の企業向けサービス価格への転嫁が進んでいる」との見方を示した。
指数の前年比プラスは2021年3月以降、55カ月連続。振れ幅が大きい国際運輸費を除いても、9月は2.9%上昇と6月以来の伸びの高さとなった。
調査対象の146品目のうち指数が上昇したのは114品目、下落は18品目。差し引き96品目で、8月の94品目からやや増えた。
内訳をみると、「宿泊サービス」がインバウンド需要の鈍化を大阪・関西万博の来客者の増加が補い前年比11.1%上昇。「郵便・信書便」は値上げにより24.5%、「土木建築サービス」は人件費の高騰で4.5%、「警備」も4.4%それぞれ上昇した。旅行サービスの貸し切りバスも需要が強かった。
日銀の担当者は、「不確実性が高い」としつつ、人件費、労務費、物流費を価格に転嫁する動きの持続性、インバウンドを含めた人流回復とサービスの先行きを見極めたいと指摘。また、引き続き米関税政策による海外経済や地政学リスク、国際商品・海運市況を注視していくとしている。

注目の物価指標だけに、やや長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルから順に、ヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、真ん中のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格とサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。一番下のパネルはヘッドラインSPPI上昇率の他に、日銀レビュー「企業向けサービス価格指数(SPPI)の人件費投入比率に基づく分類指数」で示された人件費投入比率に基づく分類指数のそれぞれの上昇率をプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、モノの方の企業物価指数(PPI)のトレンドはヘッドラインとなる国内物価指数で見る限り、今年2025年4月統計まで+4%超の上昇率が続いた後、5月統計で+3%台に縮小し、6月統計でさらに+2%台に減速し、6~9月の4か月連続で+2%台を記録しています。他方、本日公表された企業向けサービス物価指数(SPPI)は、指数水準としてコンスタントに上昇を続けている一方で、今年2025年年央までは国内企業物価指数ほど上昇率が大きくなかったのが見て取れます。企業向けサービス価格指数(SPPI)のヘッドラインの前年同月比上昇率は、今年2025年3月に+3.4%の上昇率でピークを記録してから、PPI国内物価と同様に6~8月統計で3か月連続で+2%台後半となった後、本日公表の9月統計で再び+3%に上昇率が加速しています。まだ、日銀物価目標の+2%を大きく上回って高止まりしています。もちろん、日銀の物価目標+2%は消費者物価指数(CPI)のうち生鮮食品を除いた総合で定義されるコアCPIの上昇率ですから、本日公表の企業向けサービス価格指数(SPPI)とは指数を構成する品目もウェイトも大きく異なるものの、+3%前後の高い上昇率はデフレに慣れきった国民や企業の意識からすれば、かなり高い物価上昇と映っている可能性が大きいと考えるべきです。人件費投入比率で分類した上昇率の違いをプロットした一番下のパネルを見ても、低人件費比率のサービス価格であっても+2%超の上昇率を示しており、高人件費率のサービスでは+3%台の上昇率となっています。すなわち、人件費をはじめとして幅広くコストアップが価格に転嫁されている印象です。その意味では、政府や日銀のいう物価と賃金の好循環が実現しているともいえますが、実態としては、物価上昇が賃金上昇を上回っており、国民生活が実質ベースで苦しくなっているのは事実と考えざるをえません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づいて本日公表された9月統計のヘッドラインSPPI上昇率+3.0%への寄与度で見ると、宿泊サービスや労働者派遣サービスや建物サービスといった諸サービスが+1.24%ともっとも大きな寄与を示していて、ヘッドライン上昇率の半分近くを占めています。加えて、ソフトウェア開発や情報処理・提供サービスやインターネット附随サービスなどといった情報通信が+0.63%、さらに、SPPI上昇率高止まりの背景となっている項目として、昨年2024年10月から郵便料金が値上げされた郵便・信書便、石油価格の影響が大きい道路貨物輸送、さらに、国内航空旅客輸送などの運輸・郵便が+0.58%、ほかに、不動産+0.19%、広告が+0.11%、リース・レンタルが+0.10%、金融・保険が+0.05%などとなっています。

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2025年10月26日 (日)

日本シリーズ第2戦は1勝1敗となり甲子園で仕切り直し

  RHE
阪  神100000000 170
ソフトB36001000x 0140

【神】デュプランティエ、岩貞、伊原、ドリス、湯浅、畠 - 坂本、梅野
【ソ】上沢、ヘルナンデス、松本晴、木村光 - 海野

日本シリーズ第2戦は、デュプランティエ投手が打ち込まれて1勝1敗でした。
初回こそ佐藤輝選手のタイムリーで先制しましたが、まあ、それだけでした。1回ウラには早々に3失点で逆転され、2回はデュプランティエ投手と岩貞投手の2人で何と6失点で、早々に試合は壊れました。まあ、甲子園で仕切り直しですね。

甲子園では、
がんばれタイガース!

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2025年10月25日 (土)

日本シリーズ第1戦は村上投手のナイスピッチングで先勝

  RHE
阪  神000002000 261
ソフトB100000000 180

【神】村上、及川、石井 - 坂本
【ソ】有原、藤井、松本裕、杉山 - 海野、嶺井

日本シリーズ第1戦は、村上投手のナイスピッチングで先勝でした。
初回こそ失点しましたが、7回までこの1失点だけでしのぎきり尻上がりに調子を上げて、6回の逆転劇を演出しました。打線は、6回に1-2番で願ってもないチャンスを作り、4番佐藤輝選手のタイムリーで勝ち越しました。8-9回は及川投手と石井投手で、まあ、何と申しましょうかで、岩崎投手を温存して逃げ切りました。

明日も、
がんばれタイガース!

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今週の読書は経済書をはじめいろいろ読んで計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、マイケル・キーン & ジョエル・スレムロッド『課税と脱税の経済史』(みすず書房)は、税金や課税、そして、合法的な租税回避と違法な脱税という税に関するテーマを、シュメール時代の粘土板から始まって、ブロックチェーンの利用やデジタル課税に至るまで追って、数千年に渡る歴史的物語となっています。エマニュエル・トッド『西洋の敗北』(文藝春秋)では、ウクライナ戦争や中東の武力衝突などに関して、歴史人口学、家族人類学、社会構造の観点から解き明かそうと試みており、タイトル通りに、西洋は終焉しつつあって敗北し、歴史は大きな転換点にある、という結論を導いています。織守きょうや『ライアーハウスの殺人』(集英社)では、祖父母から莫大な遺産を相続した主人公が孤島に洋館を建てて、かつて小説の新人賞に応募した作品を酷評したミステリ好きの仲間を招待して殺害を試みますが、初日から計画が狂い始めて、ラストには大きなどんでん返しが待っています。一本木透『七人の記者』(朝日新聞出版)では、主人公の大学新聞部の記者が大学内で総長候補とされている有力男性教授のセクハラ問題を追及するうち、大学出身の政治家らが絡む私学助成金の不正受給疑惑に突き当たり、取材を進めて真実を明らかにしますが、大手メディアには無視されてしまいます。エマニュエル・トッド『西洋の敗北と日本の選択』(文春新書)では、前著の『西洋の敗北』を受けた形で、今後の日本の対応を考えていて、日本にとっての米国はパートナーとか同盟国ではなく、米国は日本から見て主人であり、日本は米国の属国であると強調しています。アレステア・レナルズ『反転領域』(創元推理文庫)では、19世紀、ノルウェー沿岸を航行して極地探検に向かう探検隊のデメテル号を舞台にし、ノルウェー沿岸のフィヨルドのどこかにある古代建築物を探しますが、発見したところで重大な事故が起こり、物語が大きく反転します。
今年2025年の新刊書読書は1~9月に242冊を読んでレビューし、10月に入って先週までの分を加えて255冊、さらに今週の6冊を加えると合計で261冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、マイケル・キーン & ジョエル・スレムロッド『課税と脱税の経済史』(みすず書房)を読みました。著者は、まず、キーン氏は東京大学の東京カレッジ潮田フェロー、といわれてもピンとこないのですが、国際通貨基金(IMF)財政局の次長として20年以上に渡り、加盟各国に対するアドバイスなどで税制に携わってきたようです。また、スレムロッド教授は、ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネスのビジネス経済学および公共政策教授であり、国際税制学会の会長も務めた経験あるそうです。本書の英語原典のタイトルは Rebellion, Rascals, and Revenue であり、2021年の出版です。本書は5部構成なのですが、税金や課税、そして、合法的な租税回避と違法な脱税という税に関するテーマを、シュメール時代の粘土板から始まって、ローマ期の皇帝カリグラの奇抜な税制、さらには近年のタックスヘブンに関する「パナマ文書」の暴露、あるいは、ブロックチェーンの利用やデジタル課税に至るまで、数千年に渡ってタイトル通りに課税と脱税の歴史的物語となっています。それほど税制に関する理論的な展開はありませんが、例えば、窓に課税されると窓の少ない建築になったり、といった税に起因する生活面も含めた経済活動の歪みの例を物語として収録しています。本書には言及ありませんが、税による建築の変化としては、「うなぎの寝床」なんてのが日本にあったと社会科なんぞで教えているような気がします。ただ、税が典型的ではありますが、経済政策というのは、基本的に、均衡に向かう自然な経済活動に対して、何らかの歪みをもたらすことを目的としています。政策当局としては、経済活動で達成される自然な均衡が望ましくないという判断を持って、その近郊をずらす、というか、違う均衡に持っていこうとするわけです。典型的には、二酸化炭素排出を減らすべく炭素税を重課する、といったところです。本書では、理論面はそれほど重視してはいませんが、ラムジーによる弾性値の低い財に課税すべきという一般原則に言及しています。ただ、この原則は理論的には支持されても、弾性値の低い財なんてのは基礎的な必需財ですから、政策としては一般国民から評価されるとは限りません。税の帰着、すなわち、例えば、消費税は消費者が払っているのか、それとの生産者が払っているのか、といった理論的に難しい課題は、難しいと本書では正直に答えているだけです。それでも、読み物としては十分楽しく構成されています。ですので、アカデミアというよりも一般の読者の方が楽しめるかもしれません。

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次に、エマニュエル・トッド『西洋の敗北』(文藝春秋)を読みました。著者は、フランス出身のの歴史人口学者・家族人類学者であり、ご専門の分野に限定されず幅広い評論活動をしているように、私は受け止めています。本書のフランス語の原題は La Défaite de i'Occident であり、2024年の出版です。基本的に、本書では、著者の専門分野に基づいて、ウクライナ戦争や中東の武力衝突などに関して、歴史人口学、家族人類学、社会構造の観点から解き明かそうと試みています。その結論を先取りすると、タイトル通りに、西洋は終焉しつつあって敗北し、歴史は大きな転換点にある、ということです。その昔に、レッド・ツェッペリンが反対のタイトルのアルバムだか、曲だかを出していたような気がしますが、時代が変わったのでしょう。ということで、まず、ウクライナ戦争についてはロシアの勝利を予想しています。本書が執筆された時点で米国政権はバイデン大統領でしたが、金融化・サービス化した米国経済では戦争遂行に必要な工業生産力が低下しており、兵器や軍需産業の生産力が十分ではない、という分析結果が反映されています。ウクライナ戦争については単なる地域紛争という見方を排して、西洋が敗北しつつある証拠のひとつと捉えています。ただ、もちろん、その「西洋」というグループには、当然に、日本も入ります。その日本も入る西洋において、経済的な工業生産力の減退のみならず、出生率の低下やその背景となっている宗教や信仰の衰退、すなわち、本書でいうところの宗教ゼロ状態、ないし、プロテスタンティズム・ゼロ状態を強く指摘しています。要するに、西洋的な価値基盤となっているプロテスタンティズムに基づく労働倫理、あるいは、宗教的な共同体が、国家モデルとして変質しており、それが自由と民主主義、工業化による経済発展モデル、また、途上国などに対するグローバルなリーダーシップの発揮、といった西洋近代の枠組みを揺るがしている点を強調しているわけです。ということで、私は本書の論調に賛同するものではありませんが、例えば、ウクライナ戦争においては、ロシアが侵略者であり、一方的に攻め込まれたウクライナを無条件に支援する必要性というものを本書では否定していて、ウクライナを failed nation とみなして、ロシア側の侵攻に対する部分的ながらも正当性にも目配りしています。こういった反対の見方や意見についても、ある程度は情報として接しておくことは重要だと感じます。

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次に、織守きょうや『ライアーハウスの殺人』(集英社)(集英社)を読みました。著者は、ミステリ作家です。本書では、孤島のクローズド・サークルでの密室殺人やデスゲームを主題とし、複雑怪奇などんでん返しがラストに用意されています。主人公は、芦川彩莉であり、まだ20歳前のJKだったころに、祖父母の残した莫大な遺産が転がり込んできて、孤島を購入して洋館を建てます。まあ、このあたりのでだしは、江戸川乱歩の『パノラマ島奇談』と似ていなくもありません。建てられた洋館には隠し通路なんかのギミックがあり、なぜか、来鴉館と命名され本書のタイトルにつながるわけです。その来鴉館に何人かを招待します。芦川彩莉は、小説の新人賞に応募した作品をウェブ上で知り合ったミステリ好きの仲間から酷評された過去があり、酷評したショーゴ、詩音を殺害するターゲットとして招待します。自分の考えたプロットで殺害する、ということです。ゲームの雰囲気を出すために刑事や霊能者といったキャラクターも必要と考え、生前から祖父母がお世話になっていたという矢頭刑事と自称霊能者の真波も招待されます。他方で、芦川彩莉の協力者は、祖父母のところで働いていた家政婦のアオイと新たに雇ったメイドのアリカです。お金のためなら何でもしてくれるアオイには殺人計画の真実を話してあり、ポンコツで危機管理能力に欠ける雇い主とは違い、冷静沈着で頼りになります。アリカには、あくまで体験型クローズドサークルミステリのゲームであると説明してあり、女優としての演技力に期待されています。殺害のターゲットとなるショーゴを初日の夜に空き部屋におびき寄せて殺害する予定が、芦川彩莉はうっかり寝落ちしてしまったにもかかわらず、なぜかショーゴは翌朝に予定通りに死体となって、予定通りにアオイに発見されます。そして、主人公である芦川彩莉のプランが少しずつ狂い始めます。ということで、ミステリですのであらすじはこのくらいにしておきます。はい、読み進めば理解できるのですが、なかなかに複雑な人間関係であり、みんなが嘘をついているというわけの判らない結末を迎えます。ラストのどんでん返しは大がかりなのですが、ちゃんとついていける読解力を必要とします。私が思い浮かべたのは、O. ヘンリーの短編集にあるジェフ・ピーターズとアンディ・タッカーのコンビのシリーズ何話かが本書のトリックに似ている、という点でした。

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次に、一本木透『七人の記者』(朝日新聞出版)を読みました。著者は、社会派の作家なのですが、朝日新聞の記者のご経験もあるようです。私はAIをテーマにした『あなたに心はありますか?』を読んだことがあります。本書は大手メディアへの失望感が露わになっているのですが、なぜか、朝日新聞出版から出ています。主人公は宝城大学の新聞部に所属する美ノ輪七海です。宝城大学は、都の西北ではなく都内北部に位置するとされていますが、学生数4万人マンモス大学であり、政治家やジャーナリストを輩出しているということですので、何となくの雰囲気でいえば早稲田大学をモデルにしているように私は感じました。主人公の七海は、大学内での総長候補とされている有力男性教授のセクハラ問題を追及するうち、宝城大学出身の政治家らが絡む私学助成金の不正受給疑惑に突き当たります。タウン誌「ふるさと宝城」編集長の虎吹徹三や大学の新聞部OBのカメラマン天多教之に相談を持ちかけて、タウン誌の事務所を拠点に取材を始めます。そこに、新聞・テレビ・WEBニュースのジャーナリスト経験者が集まって、6人で「有志記者連合」を結成して取材を進めます。加えて、美ノ輪七海の弟のユズルが、ひきこもりながら、本書でも言及されている Belling the Cat よろしく、公開されているソースからさまざまな情報特定の割出しに乗り出します。しかし、大手メディアは政権や広告主からの圧力で、少なくとも幹部や上層部は政権に歯向かう気はなく、しかも、WEB版での配信やSNSでの拡散も、「サイバー攻撃等対処法」に基づいて稼働しているJUSTICEなるシステムが、本来のサーバー攻撃の防御、あるいは、ファクトチェックに基づくフェイクニュースや誹謗中傷のへの対応、といった機能を超えて、政権に不利な情報を瞬時にbanすることとなってしまい、情報が国民に伝わりません。最後に、決定的な証拠を入手し、決して意外ではない団体やジャーナリストが協力し、都会の大手メディアではなく地方メディアから情報が伝わり始めて、きわめて印象的なラストを迎えます。一般の多くの読者には息詰まる展開だろうと思うのですが、まあ、私のような横着者は少しだらけてしまう部分もありました。当然に予想される決着です。ですので、爽やかな勧善懲悪的な結末と受け止める読者もいれば、私のようにかなり現実のメディアと権力者の関係に近い実態にうんざりする読者もいそうな気がします。タイトルは、作者があとがきでも言及していますが「七人の侍」へのオマージュということです。

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次に、エマニュエル・トッド『西洋の敗北と日本の選択』(文春新書)を読みました。著者は、フランス出身のの歴史人口学者・家族人類学者であり、ご専門の分野に限定されずに幅広い評論活動をしているように、私は受け止めています。本書は、すでに月刊誌の『文藝春秋』に掲載された記事や対談を収録しています。基本は、『西洋の敗北』を受けての日本への対応、適用ということになります。ですので、ウクライナ戦争での米国の敗北は政権がバイデン大統領からトランプ大統領に交代しても同じ結論です。というのも、生産せずにドルを印刷して世界から輸入して成り立っていることに変わりはないからです。ですので、ウクライナ戦争を終わらせることができるのは米国ではなくロシアである、と本書で明言しています。最近の動向をニュースで見る限り、そうかもしれない、と私自身も考え始めています。もちろん、タイトル通りに本書では、日本が世界、あるいは、西洋の中でどのように位置づけられているかが明記されています。すなわち、現在は西洋社会の一員であるものの、明治維新は独立を保つために近代化を進めたわけであり、21世紀におけるBRICsの先駆けであったとの認識が示されています。そして、日本にとっての米国はパートナーとか、同盟国ではあり得ず、米国は日本から見た主人であり、日本は米国の属国であると強調しています。はい、日本国内でも決して少なくない知識人はそう考えているのではないかと思います。ですから、著者は以前から日本は核兵器を保有すべきという主張でしたが、本書でも、核兵器は持たない、か、自ら保有するものであって、日本が米国の核の傘にあるという見方を明確に否定しています。ですから、米国をあてにできない中で、日本は中国と対峙しなければならないわけですので、日本はかなり困難な状態に置かれていることを十分認識すべきという主張です。ただし、日本やドイツを直系家族構造、大雑把に、長子に重点を置く家督相続制を意味しているのだろうと思いますが、そのように位置づけ、中国やロシアの兄弟が平等な兄弟家族構造と対比させて世界の構造をひも解く、という視点は私の理解は及びませんでした。いずれにせよ、前著の『西洋の敗北』と同じで、決して賛同するわけではありませんが、私自身の見方と違う主張として、ある程度の尊重はします、という読書姿勢でした。

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次に、アレステア・レナルズ『反転領域』(創元推理文庫)を読みました。著者は、英国のSF作家です。ウェールズの人らしいのですが、ゴルフで有名な地にあるセント・アンドリューズ大学で天文学の博士号を取得しているということです。英語の原題は Eversion であり、2022年の出版です。舞台は小型帆船デメテル号であり、ノルウェー沿岸の極地探検に向かっています。19世紀なのですが、蒸気船ではなく帆船のようです。本書の登場人物はそれほど多くなく、船医のサイラス・コードが主人公として視点を提供します。ほかに、警備を担当するラモン、地図制作担当のレイモン・デュパン、探検隊隊長はトボルスキー、器具制作担当にブリュッカー、ファン・フュフト船長と副長のヘンリー・マーガトロイド、モートロックは船員で、なぜか、女性の言語学者であるエイダ・コシルが乗船しています。探検隊は、ノルウェー沿岸のフィヨルドのどこかにある古代の巨大建築物を探しています。このあたりを通ったエウロパ号が以前に発見したのですが、その発見情報はまだ公表されていない、という設定です。デメテル号は流氷の入り江へ船首を進め、そこでエウロパ号を発見します。明らかに難破船となっており、巨大建築物を最初に発見したとされるのですが、エウロパ号が遭難したとは誰も聞いていません。ですので、デメテル号に不穏な空気が立ちこめ、中には、船長に騙されたという者まで現れます。もめている最中に、デメテル号は舵が利かぬまま前方の岸壁に迫り、コード医師は折れたマストの下敷きで亡くなってしまいます。ここからストーリーが大きく「反転」します。タイトル通りの展開です。そのあたりは読んでみてのお楽しみです。なお、私の不十分な英語力ながら、"eversion" よりも "inversion" の方が「反転」の意味でよく使うような気がします。"eversion" は、例えば、巾着袋を裏返しにするようなイメージで、一般的な「反転」は "inversion" ではないか、と思います。ただし、本書の中の会話でも、「inversion、いや eversion か?」という趣旨のセリフを見た記憶がありますので、このタイトルは作者が熟考した上で選んだのだろうと私は想像しています。ただ、ストーリーの進み方としては、むしろ、Evolution がよかった気もしないではありません。いずれにせよ、久しぶりにしっかりしたSF小説を読んだ気がします。

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2025年10月24日 (金)

上昇率が加速した9月の消費者物価指数(CPI)

本日、総務省統計局から9月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+2.7%からやや加速して+2.9%を記録しています。日銀物価目標の+2%からかなり大きな+3%近いインフレが続いています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から41か月、すなわち、3年余り続いています。ヘッドライン上昇率も+2.9%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+3.0%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者物価、9月2.9%上昇 4カ月ぶり伸び拡大
総務省が24日発表した9月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が111.4となり、前年同月と比べて2.9%上昇した。上昇率の拡大は4カ月ぶり。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.9%の上昇だった。
政府が前年に電気・ガス料金の補助を実施した反動で、エネルギー価格は2.3%の上昇と3カ月ぶりにプラスに転じた。電気代は3.2%、都市ガス代は2.2%上昇した。今夏の電気代・ガス代補助は前年の「酷暑乗り切り緊急支援」より規模が小さかった。
生鮮食品を除く食料は7.6%上昇した。2カ月連続で伸び率が縮小した。コメ類の上昇率は49.2%で、8月の69.7%より下がった。
コメ類は前年の夏ごろから出回り量の減少や物流費の高騰によって価格上昇が目立ち始めた。前年同月と比べた伸びは一服しつつあり、生鮮食品を除く食料の上昇率を押し下げる方向に働いた。備蓄米は集計の対象外で、コシヒカリなど銘柄米の値動きを調べている。
チョコレート(50.9%)や、昨秋からの鳥インフルエンザの影響があった鶏卵(15.2%)などは高い伸びが継続している。
訪日客などの旅行需要の拡大で宿泊料は5.8%上昇した。1月に保険料水準が引き上がった影響で自動車保険料は4.1%上がった。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やや長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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引用した記事の最初のパラには、「QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は2.9%の上昇」とあるのですが、私が調べた範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+3.0%ということでした。よく判らないのですが、実績とジャストミートしたということのようです。また、エネルギー関連の価格については、引用した記事にもある通り、「電気・ガス料金負担軽減支援事業」により、低圧電気料金は8月2.4円/kWh、9月2.0円/kWhの補助がなされています。また、都市ガスについては8月10.0円/㎡、9月8.0円/㎡の補助が、9月使用分まで実施されます。加えて、「燃料油価格定額引下げ措置」によるガソリン価格の引下げ、額としては、調査対象期間である9月4日以降の支給額はガソリン・軽油で10.0円/Lとなっていますが、この引き下げ措置が昨年よりも小幅であったため、今年は電気・ガス料金が高止まりしていた、ということのようです。ということで、品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率である+2.9%に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、繰り返しになりますが、政府補助金などによりエネルギーの寄与度は今月9月統計からプラスに転じています。ヘッドラインCPI上昇率に対するエネルギーの寄与度は前月の8月統計の▲0.27%に対して、9月は+0.17%となっています。したがって、いわゆる寄与度差は+0.44%あります。ヘッドライン上昇率で見て、8月統計から9月統計にかけて+0.2%ポイントの上昇率の加速があったわけですが、それを大きく上回る寄与度さを示しており、逆にいえば、エネルギーを除く物価は上昇率が減速している、と考えるべきです。例えば、生鮮食品を除く食料価格の上昇は引き続き大きく、前年同月比で+7.6%、寄与度で+1.83%に上りますが、前月8月統計の上昇率+8.0%、寄与度+1.90%からはホンの少しだけスローダウンしています。ただし、生鮮食品を除く食料だけで9月のヘッドラインCPI上昇率2.9%のうちの⅔超を近くを占めていることは変わりありません。特に、食料の中で上昇率が大きいのはコメであり、生鮮食品を除く食料の寄与度+1.83%のうち、コシヒカリを除くうるち米だけで寄与度は+0.25%に達しています。引用した記事とは少し分類が異なりますが、上昇率は前年同月比で+48.6%ですから、一時のピークは超えた可能性がありますが、まだまだきわめて高い上昇率と考えるべきです。コメが値上げされれば、当然に、おにぎりやすしの価格も上がります。ただ、消費者物価の全体、というか平均として上昇率としてはまだ日銀の物価目標である+2%を超えているものの、物価上昇がピークアウトしつつある可能性もあります。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+7.6%、寄与度+1.83%に上ります。その食料の中で、これも繰り返しになりますが、コシヒカリを除くうるち米が大きく値上がりしていて、寄与度も+0.25%あります。新米が出回り始めたとはいえ、銘柄米はまだまだ高止まりしています。消費者物価指数(CPI)は継続性を重視して、品目指定で価格を調べているので、安価な備蓄米などはCPIには影響を及ぼしません。うるち米を含む穀類全体の上昇率は+18.0%、寄与度は+0.44%に上ります。コメ価格の推移は下のグラフの通りです。主食のコメに加えて、カカオショックとも呼ばれたチョコレートなどの菓子類も上昇率+12.2%、寄与度+0.33%に上っています。特に、その中でも、チョコレートは上昇率+50.9%、寄与度0.19%に達しています。コメ値上がりの余波を受けたおにぎりなどの調理食品が上昇率+6.1%、寄与度+0.23%、調理食品の中でもおにぎりが上昇率+17.8%、寄与度0.03%に上っています。同様に、すしなどの外食も上昇率+4.1%、寄与度+0.20%を示しています。ほかの食料でも、ブラジルの天候不良による需給逼迫により、コーヒー豆などの飲料も上昇率+10.1%、寄与度0.17%、鶏肉などの肉類が上昇率+4.8%、寄与度+0.13%、乳卵類も上昇率+8.5%、寄与度+0.12%、などなどと書き出せばキリがないほどです。食料はエネルギーとともに国民生活に欠かせない基礎的な財であり、実効ある物価対策とともに、価格上昇を上回る賃上げや最低賃金の大幅な引上げを期待しています。

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2025年10月23日 (木)

本日のドラフトの結果

本日のドラフトの結果です。
何はともあれ、創価大の立石くんを3球団競合の中でj引き当てたのはラッキーでした。2巡目まで谷端くんが、また、3巡目まで岡城くんが残っていたのも、これまた、ラッキーだったんではないでしょうか。佐藤輝選手はチャンスがあれば大リーグに挑戦するんでしょうし、近本選手なんぞは今オフにはFA権を行使するかもしれません。即戦力ではないとしても、大学生の内野手や外野手を指名しておいて、2-3年後が楽しみです。

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とりあえず、目先の日本シリーズを
がんばれタイガース!

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対米輸出6か月連続減を記録した9月貿易統計

昨日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月+4.2%増の9兆4137億円に対して、輸入額も+3.3%増の9兆6483億円、差引き貿易収支は▲2346億円の赤字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

貿易収支、対米輸出が6カ月連続減 関税影響なお根強く
財務省が22日発表した貿易統計速報によると、9月の貿易収支は2346億円の赤字となった。赤字は3カ月連続。貿易収支のうち対米輸出は6カ月続けてマイナスとなり、米関税政策の影響が根強い現状を浮き彫りにした。
ロイターの予測中央値は222億円の黒字だった。公表された収支額は、予想に反して赤字となった。
貿易収支のうち、輸出は前年同月比4.2%増の9兆4137億円と、5カ月ぶりに増加した。半導体電子部品や鉱物性燃料、原料品の輸出がプラスに寄与した。
地域別では、対米輸出が前年同月比13.3%減の1兆6049億円だった。対米輸出のうち、自動車の輸出額は24.2%減と前月よりは減少幅が和らいだが、数量ベースでは引き続き14.2%減った。
輸出関税の引き下げを受けて「価格面での落ち込みが和らいでいるが、関税の悪影響は完全に払しょくできていない」(SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミスト)との見方が出ている。
欧州連合(EU)やアジア向けの輸出額はプラスを維持した。中国向けもプラスに転じた。
一方、輸入は3.3%増の9兆6483億円で、3カ月ぶりに増加した。電算機類や通信機、航空機類が押し上げ要因となった。
同時に発表した2025年度上半期(4-9月)の貿易収支は1兆2238億円の赤字だった。
トランプ米政権は4月に自動車関税や貿易相手国に対する相互関税のうち一律10%の基本関税を発動。発動から半年間に当たる上半期に対米輸出額は10.2%減の9兆7115億円となり、9半期ぶりに減少。このうち自動車は22.7%減少した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは小幅な貿易黒字が見込まれていたところ、実績の▲2000億円を超える赤字はややや上振れした印象です。予測レンジの下限が▲2614億円でしたので、このレンジ下限付近ということになります。季節調整済みの系列でも、9月統計では▲3000億円を超える赤字を記録しています。ただし、いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた1950-60年代の高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。すなわち、引用した記事のタイトルのように、トランプ関税で日本の輸出が減少したり、貿易収支が赤字の方向に振れることではなく、貿易を含めた資源配分の最適化ができなくなってしまう点が問題と考えるべきです。ただ、私のような考え方は、政府でも、経済界でも、メディアでも少数派なんだろうということは理解しているつもりです。ひょっとしたら、学界ですら少数派なのかもしれません。
本日公表された8月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+1.4%増ながら、金額ベースでは▲8.6%減と減少しています。石油価格が大きく下落している商品市況を反映しています。さらに、エネルギーを上回る注目を受けている食料品は金額ベースで+9.9%増となっていて、輸入総額の前年同月比伸び率が+3.3%ですので、輸入が増加している印象です。特に、食料品のうちの穀物類は数量ベースで+5.7%増、ただし、金額ベースでも+8.1%増となっています。コメの高値継続と何の関係があるのかは現時点では不明です。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで▲0.3%減ながら、金額ベースでは+4.8%増を記録しています。輸出に目を転ずると、トランプ関税で注目の自動車が数量ベースで+5.8%増となったものの、金額ベースでは▲0.6%減となっています。引用した記事にもあるように、自動車輸出のうちの米国向けは、数量ベースで▲14.2%減、金額ベースで▲24.2%減となっています。自動車輸出において数量ベース減を上回る金額ベース減は明らかに、日本のメーカーあるいは輸出商社の方で関税の一部を相殺するような価格設定により、販売台数の減少を食い止めようとしていることを表していると考えるべきです。どこまでこういった関税負担がサステイナブルであるかは私には不明です。米国向け自動車関税は15%に引き下げられており、その差額の大きな部分をメーカーが負担させられている形です。電気機器は金額ベースで+12.6%増、一般機械も+3.5%増と落ち込んでいます。輸出だけは国別の前年同月比もついでに見ておくと、引用した記事にもあるように、米国向け輸出が前年同月比で▲13.3%減となった一方で、中国向け輸出が+5.8%増、中国も含めたアジア向けの地域全体では+9.2%増を記録しています。また、他方で、EU向けは+5.0%増となっています。

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2025年10月22日 (水)

130周年の時代祭を見に行く

今日は、あいにくのお天気で寒かったのですが、時代祭を見に行きました。いつもの通り、何人かダオ学院の留学生の引率みたいなものです。時代祭は平安神宮の大祭であり、平安神宮そのものの歴史が浅いので、時代祭も今年は130年という節目だそうです。京都が日本の首都として長きに渡って培ってきた伝統工芸技術の粋を、動く歴史風俗絵巻として内外に披露することを主眼としています。
下の写真はいわゆる錦の御旗と平安神宮と時代祭130年の幟です。錦の御旗は、ご案内の通り、鳥羽・伏見の戦いで官軍が持ち出したところ、幕府軍がこれを見ただけで総崩れになった、といういわれのあるものです。

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2025年10月21日 (火)

ニッセイ基礎研究所リポート「縮小を続ける夫婦の年齢差」

昨日10月20日、ニッセイ基礎研究所から「縮小を続ける夫婦の年齢差」が明らかにされています。pdfでもアップロードされています。
このリポートの著者は、いわゆる「婚活」の実態を研究し続けてきたそうで、実に的確にも、「日本の少子化(出生大幅減)の主因は婚姻減(未婚化)である」と主張しています。はい、私も同じ考えで、フランスのように婚外子が決して無視できない国情であればともかく、日本では婚外子がきわめて少ないといえますので、したがって、少子化の対策の大きな眼目のひとつは婚姻の増加であると考えています。その上で、男性上位婚に対して社会的に理解がそれほど進んでおらず、したがって、いわゆる「婚活」のマッチングが適正ではないのではないか、という疑問があります。

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上のグラフは、リポートから 夫婦の平均年齢差の推移 を引用しています。見れば明らかですが、通常のイメージから考えて、夫婦の年齢差はきわめて小さく、しかも、最近時点まで縮小してきている、という事実が読み取れます。初婚同士では1.4歳の違いしかなく、再婚も含めた婚姻全体でも2歳を下回ってきています。
最後に、このリポートでは言及ありませんが、米国のマッチングアプリのビッグデータなどから、ウッダーソンの法則が経験的に成り立つと考えられています。すなわち、女性は自分の年齢に近い男性、女性は30歳までは自分より少し上の男性を好む傾向にあるけれど、40歳に達した後は自分よりもやや年齢が下の男性を魅力的に感じる一方で、男性はほぼすべての年代で、20代前半の女性に魅力を感じる、というのがウッダーソンの法則です。ウッダーソンの法則は、例えば、ダイヤモンド・オンラインのサイトでデータとともに解説されています。このウッダーソンの法則を考え合わせると、日本の夫婦間の年齢差の縮小がどのような含意を持つのか、とても気にかかるところです。

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2025年10月20日 (月)

帝国データバンク「大阪・関西万博の開催効果」のアンケート

ちょうど1週間前の10月13日に閉幕した大阪・関西万博の経済効果について、先週10月26日に帝国データバンクから「大阪・関西万博の開催効果」と題する企業アンケート調査の結果が明らかにされています。pdfでもアップロードされています。まず、帝国データバンクのサイトからSUMMARYを引用すると下の通りです。

SUMMARY
2025年大阪・関西万博は、約7割の企業が日本経済に『一定のプラス効果』をもたらしたと評価した。2割超の企業が「期待以上」と評価し、「成長の起爆剤」としての役割を一定程度果たしたと言える。特に近畿をはじめ、西日本で地域経済への波及効果が顕著であった。企業による日本社会・経済に与えた評価点は平均72.2点と、概ね肯定的に受け止められた。この成果を持続的な成長につなげることが今後の課題となる。

続いて、帝国データバンクのサイトから 日本経済にとって開催前に期待されていたプラス効果の有無 の円グラフと『一定のプラス効果』の割合(地域別) の棒グラフを引用すると下の通りです。

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上のパネルの円グラフの プラス効果の有無 については、評価の難しいところです。「期待以上」と回答した企業が23.4%、「期待どおり」は44.0%、「あまり期待どおりではなかった」27.4%となっています。「期待どおりではなかった」が「期待以上」をやや上回っているわけです。しかも、「一定のプラス効果」でくくっても67.5%ですので、⅔にしかすぎません。ビミョーなところといわざるを得ません。加えて、下のパネルの棒グラフの地域別評価を見ると、一定のプラス効果が近畿に偏っている印象もあります。SUMMARYで引用したように、評価点の平均は72.2点であり、大学の評価でいえば、もちろん、合格点なのですが、ABCのBというところです。最後に、いくつかコメントも紹介されているのですが、平均的な70点をつけた例は千葉県の建設業者で、「関西方面の宿泊や交通需要が高まった。しかし、出張費用の増加による影響が表れた」ということであり、別の首都圏企業で50点をつけた埼玉県の旅館・ホテル業者は、「万博の影響でレジャー客の宿泊が減少。大阪ではプラスの経済効果があったのかもしれないが、それは他地域の犠牲の上に成り立っていることを心にとどめてほしい」という意見もあります。万博の開催効果はゼロサムであって、ネットのプラス効果が感じられない、ということなのかもしれません。

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2025年10月19日 (日)

パ・リーグのCSは明日の最終戦で決着

  RHE
日本ハム000331000 780
ソフトB000000100 162

阪神の日本シリーズの対戦相手はどこだろうかとNHK-BSを見ていたのですが、パ・リーグのCSは明日の最終戦にもつれ込んだようです。
果たして、ソフトバンクか、日本ハムか、どちらがでてくるんでしょうか。私個人としては、ちょっぴり、阪神OBの新庄監督の日本ハムに親近感あったりします。

日本シリーズも、
がんばれタイガース!

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2025年10月18日 (土)

今週の読書は経済書のほかは文庫で計6冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、山田和郎『日本企業はお金持ちになったのか?』(中央経済社)は3部構成であり、最初に現金に関する基礎知識や理論的背景を解説した後、日本企業の現金保有をデータ分析し、最後に、現金保有に関する発展的なトピックとして株主が企業の保有する現金を額面からディスカウントして評価する現象などを取り上げています。田中秀明[編著]『地域の新戦略』(日本経済新聞出版)では、人口減を食い止める、ないし、人口を増加させる取組みはことごとく失敗してきたとし、そういった基本認識の上に、今後30年から数十年の間に、「人口が半減する」可能性が十分あることから、中央政府及び地方政府の政策や制度設計を議論しています。アンソニー・ホロヴィッツ『マーブル館殺人事件』上下(創元推理文庫)では、名探偵アティカス・ピュントのシリーズを30歳過ぎの若手作家エリオット・クレイスが書き継ぐので、主人公のスーザン・ライランドが編集することになりますが、そのエリオットが自動車のひき逃げで亡くなり、スーザンが疑いを受けます。ピーター・トレメイン『修道女フィデルマの慧眼』(創元推理文庫)は、キリスト教が伝わってから約200年後の7世紀半ばのアイルランドを舞台として、5王国の内最大のモアン国の王妹であり、法廷弁護士ドーリィの資格を持つ修道女フィデルマが謎解きに当たるミステリ短編5話を収録しています。寺地はるな『タイムマシンに乗れないぼくたち』(文春文庫)は、純文学ですのでオチはなく、若い世代が抱えがちな居心地の悪さ、孤独感、自分の個性といった揺れる心の機微をていねいに描写しています。私は、いつも第3者の役回りで深く関わることを避け、周囲の人の対立やすれ違いを調整する灯台のような主人公の「灯台」が印象的でした。
今年2025年の新刊書読書は1~9月に242冊を読んでレビューし、10月に入って先週と先々週の分を加えて249冊、さらに今週の6冊を加えると合計で255冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、山田和郎『日本企業はお金持ちになったのか?』(中央経済社)を読みました。著者は、京都大学経営管理大学院准教授であり、たぶん、私がいたころよりずっと後の時期でしょうが、長崎大学経済学部のご経験もあるようです。本書は、タイトル通り、日本企業の現金保有に関して財務省「法人企業統計」を主として用いたデータ分析を行っています。かなり学術書の色彩が強いのですが、Binned Scatter 図を多用してビジュアルにも理解しやすい内容に仕上がっています。ですので、金融機関などにお勤めのビジネスパーソンにも十分に読みこなせるのではないか、と私は考えています。なお、Binned Scatter=ビン分割散布図は、私もMatLabで書いたことはあるのですが、多分、きわめて大規模なサンプルに対して用いるものであり、私のような時系列分析を主戦場にして、せいぜいが100やそこらの時系列データのサンプル数しか使わないエコノミストには馴染みがありません。ということで、本書は3部構成であり、最初に現金に関する基礎知識や理論的背景を解説した後、日本企業の現金保有をデータ分析し、最後に、現金保有に関する発展的なトピックとして株主が企業の保有する現金を額面からディスカウントして評価する現象などを取り上げています。実際のデータ分析は読んでいただくしかありませんが、いくつか、私からの反論、というか、意見として3点上げておくと、まず、メインバンク制の動揺と企業の現金保有の関係について、本書では、おそらくデータで確認できないので否定的な見方を示しています。p.34のわずか1ページだけで「メインバンク制だけで日本企業の現金保有全般についてすべてを説明できるわけではない」という、当たり前の結論を示しています。繰り返しになるものの、データ分析で確認できないので否定的な見方を示しているのではないかと推測していますが、やや的はずれな結論です。少なくとも、メインバンク制を含め、バブル経済崩壊後に明らかになった日本の銀行システムの脆弱性が企業の現金保有の傾向を強めていることは否定しようがないと思います。いざとなったら銀行は助けてくれないかもしれない、だから現金保有を手厚くする、ということです。規模の小さな企業で現金保有が高まっているのも傍証のひとつです。ついでに、何かを主語に「xxだけで...すべてを説明できるわけではない」なんて表現を学生が卒論で書いたりしたら、私は修正するよう指導するかもしれません。次に、同様のデータ化しにくい株主構成の影響をどう考えるかです。第8章で着目している株主還元問題では、外国人株主比率が高まったのが要因のひとつとしてあるのではないか、と私は考えてます。これも、定量的な分析がしにくいので、何ともいえませんが、本書で着目すらしていないのはやや疑問です。最後に、第9章で議論している内部留保に関する議論では、もはや経験的にアベノミクスで破綻したトリックルダウン説としか思えない議論が展開されていて、企業の内部留保に肯定的な評価を下しています。ただ、最後の最後に、第8章に戻ると、長らくデータから日本企業の過小投資説が支持を集めてきて、本書でもそういった見方を示していますが、アベノミクスの下で超低金利が長らく継続され、動学的非効率の状態が続いてきたことを考えれば、ひょっとしたら、日本は過剰投資に陥っている可能性はないのか、今後、資本ストックを取り崩した方が厚生が高まる可能性はないのか、という疑問は私の中にくすぶっています。繰り返しになりますが、データからは日本は投資不足であり、したがって、労働生産性も上がらず、賃金引上げもままならない、という状態にあります。これはこれで確かです。現時点では、過剰投資説はやや否定的に考えていますが、決定的に違うとは考えていません。自分でも、まだ十分こなし切れていません。

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次に、田中秀明[編著]『人口半減ショック 地域の新戦略』(日本経済新聞出版)を読みました。著者は、明治大学公共政策大学院教授です。本書は2部構成であり、前半で地方の自立と財政責任を、そして、後半で役割分担とサービスの供給システムを、それぞれテーマとして議論しています。まず、本書冒頭では、これまでの地方再生政策が期待された成果を上げていないと結論し、その大きな原因は東京集中の分析ができていないからであると主張しています。したがって、序章第3節で東京一極集中の是正に成功していない問題を分析しようと試みていますが、本書ではそもそも東京一極集中の是正が妥当な政策であったかどうかを疑問視しています。はい、大学を卒業した後に生まれ故郷の京都を離れて東京に働きに出て、60歳の当時の定年まで国家公務員をしていた身としては、本書で指摘している「特に若い人たちに首都圏に移動しないように奨励するべきなおだろうか」(p.028)という問いには、経験的に否定的な回答であるといわざるを得ません。その上で、深刻な問題と考えるべきは、人口減少ではなく、15-64歳の現役世代の人口減であると指摘しています。はい、これもその通りです。その上で、人口減を食い止める、ないし、人口を増加させる取組みはことごとく失敗してきたわけであり、本書のサブタイトルにもある「賢く縮む」が随所に主張されます。そういった基本認識の上に、今後30年から数十年の間に、これまた、タイトルにあるような「人口が半減する」可能性が十分あることを踏まえて、中央政府及び地方政府が考えるべき政策や制度設計を議論しようと試みています。前半の第Ⅰ部では、分権か集権かの択一ではなく自立した地方行政を目指すべきという結論です。デジタル・インフラは中央政府が整備する必要があるとしても、中央政府と地方政府の責任分担や政治制度のあり方を考え、特に、地方財政については中央と地方の間の財源や補助金の見直しについて議論しています。例えば、我が国の地方行政システムは、ナショナル・ミニマムではなく、東京都同一水準のナショナル・マキシマムを保障しようとしている、と批判しています。また、第4章では米国の連邦制度についても取り上げていますが、私は不勉強にしてこの部分は理解が進みませんでした。第Ⅱ部では、第5章で東京一極集中の是正よりも、むしろ、集積の促進が必要な場面もある点を強調し、サンライズルールによる試算も提供しています。第7章では、医療や介護について全国一律の価格設定に対して疑問を呈していますし、第7章や第8章では、「国土の均衡ある発展」も批判されており、全国一律のインフラや行政サービスではなく、将来の縮小を見据えたうえで、どこの何を配置し、何を縮小させていくのかの視点も必要との議論が展開されています。最後に、都道府県を越えた道州制についての考えは、チャプターごとに著者が異なるので、本書を通じた全体の印象はそれほど統一感ないのですが、私自身がやや疑問、というか、否定的に捉えていますので、確証バイアスも含めて、批判的ないし否定的な印象を持ちました。最後の最後に、私自身はまったく無関心なのですが、ふるさと納税に関しての見方も欲しかった気がするのはやや俗っぽい見方かもしれません。

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次に、アンソニー・ホロヴィッツ『マーブル館殺人事件』上下(創元推理文庫)を読みました。著者は、イギリスを代表する作家だそうで、女王陛下の少年スパイ!アレックスのシリーズやダイヤモンド・ブラザーズのシリーズといったジュブナイル小説でも有名ですし、ホームズや007ジェームズ・ボンドのパスティーシュも書いていて、私もジュブナイル小説を別にすればいろいろと楽しんでいたりします。加えて、創元推理文庫から出版されている『カササギ殺人事件』から始まるスーザン・ライランドを主人公とするシリーズや『メインテーマは殺人』から始まるホーソーンを主人公とするシリーズも、私は欠かさず読んでいると思います。本書はスーザン・ライランドを主人公とするシリーズであり、『カササギ殺人事件』と『ヨルガオ殺人事件』に続く第3巻です。したがって、というか、何というか、主人公のスーザンが編集者でもあるので、小説の中に小説が入っているメタ構造になっています。頭の回転が鈍い私にはやや難しい構造です。ということで、あらすじは、主人公のスーザン・ライランドがギリシアから英国に帰国します。そして、「コーストン・ブックス」の発行人で、事実上の上司であるマイケル・フリンから連絡を受け、亡くなったアラン・コンウェイが書き続けてきた名探偵アティカス・ピュントのシリーズを30歳過ぎの若手作家エリオット・クレイスが『カササギ殺人事件』の直後という時代設定で書き継ぐので、編集者としてサポートするよう依頼されます。メタ構造で『ピュント最後の事件』が作中作として挿入されます。実は、エリオット・クレイスは英国でとても有名だった絵本作家のミリアム・クレイスの孫であり、幼少期を本書のタイトルとなっているマーブル館で過ごしています。しかし、マーブル館にも、祖母のミリアムにも決していい思い出はなかったようで、BBCラジオのインタビューで暴露したりします。エリオット・クレイスによる『ピュント最後の事件』は、作者の幼少期のクレイス家をモデルにしている可能性が示唆されます。そして、ミリアム・クレイスの没後20年記念パーティーでちょっとしたトラブをがあった直後に、パーティー会場から出たところでエリオット・クレイスが自動車のひき逃げでなくなってしまいます。何と、その犯人として主人公のスーザン・ライランドが疑われます。イアン・ブレイクニ警部と嫌味たらしいエマ・ワードロウ巡査が捜査に当たります。ということで、ミステリですので、あらすじはこのあたりまでとします。何だか、終わり方を見ると、完結編という気もするのですが、作者はこの後の第4巻も企画していると聞き及びます。私が読んだシリーズ3巻まででは、本書がもっとも面白かったですが、相変わらず、それほど読後感はよくありません。また、本書では前の『カササギ殺人事件』の結末に何度も言及していて、その旨は扉にも明記されています。最後の最後に、私も読んだオスマン『木曜殺人クラブ』が「ハリー・ポッター以来の大ヒット」と紹介されていて、ホントなんだろうか、英国ではそうなんだろうか、と思ってしまいました。

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次に、ピーター・トレメイン『修道女フィデルマの慧眼』(創元推理文庫)を読みました。著者は、英国生れの著名なケルト学者であるとともに、修道女フィデルマのシリーズの小説家でもあります。私は、本シリーズのうち、邦訳されて創元推理文庫から出版されているものはすべて読んでいると思います。このシリーズの主人公はタイトル通りに修道女のフィデルマであり、舞台となる7世紀半ば、キリスト教が伝わってから約200年後のアイルランドで5つある王国のうちの最大であるモアン王国の王妹であり、アイルランド全国で有効な法律であるブレホン法の司法制度における最高位を占めるオラヴに次ぐ上位弁護士のアンルーであり、時には、裁判官も務める法廷弁護士であるドーリィの資格も持っている才女です。しかも、まだ20代であるとの設定です。本書は邦訳としてはシリーズ第6巻だそうで、5話を収録する短編集となっています。基本、ミステリであり、ほぼほぼすべての短編で人が死にます。その謎をフィデルマが解き明かすわけです。収録順にあらすじは、まず、「祝祭日の死体」では、やや不本意な様子が見えますが、フィデルマは200年前の聖人の亡骸が安置されている地への巡礼に加わり、その聖人の棺の亡骸の上で修道女の死体を発見します。「狗のかへり来りて……」では、20年前の殺人事件、すなわち、フィデルマが訪れた修道院に伝わる聖遺物箱を盗もうとした庭師とはち合わせして殺されたとされる修道女と、その庭師を裁判もせずに私刑で殺してしまった事件について、フィデルマが真相を解明します。「夜の黄金」では、フィデルマの兄が王として統治しているモアン国と緊張関係にある第2の大国のラーハンの大祭にフィデルマが賓客として招かれた際、酒の飲み比べ競争で突然死した鍛冶屋の捜査にフィデルマが当たります。「撒かれた棘」では、フィデルマが小さな村を訪れた際に殺人と窃盗の事件が発生し、16歳の少年が容疑者として拘束されています。アイルランドの最下級の身分であるボーハーに属するため、その少年は弁明や釈明を諦めていますが、フィデルマが真相解明に当たります。最後の「尊者の死 」では、かつては勇猛果敢な修道士としてアイルランド全土の尊敬を集めていた尊者ゲラシウスが、90歳も間近で小修道院で殺害されます。近くに集まってきている放浪者の強盗ではないかと小修道院長は推理しますが、フィデルマが真相を明らかにします。

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次に、寺地はるな『タイムマシンに乗れないぼくたち』(文春文庫)を読みました。著者は、純文学の作家です。本書も純文学の短編7話から構成されています。『別冊文藝春秋』に収録されていた短編が2022年に単行本として出版され、さらに、今年になって文庫でも出版されています。純文学ですので、オチはありません。若い世代が抱えがちな居心地の悪さ、孤独感、自分の個性といった揺れる心の機微をていねいに描写しています。収録順にあらすじは、以下の通りとなります。まず、「コードネームは保留」では、楽器店で働く南優香が主人公です。経理の仕事をしながら、自分を殺し屋という設定で日々を送っていますが、「あなたの考えはわたしと違うけど、でもあなたの考えは理解した」という優香のスタンスは、相手を不安にさせてしまうと感じています。表題作の「タイムマシン乗れないぼくたち」では、小学6年生の宮本草司が主人公です。両親が離婚して引越をし、いろいろあって学校に馴染めず博物館を居場所とし、ある日、30代のスーツ姿のサラリーマン男性と出会います。「灯台」では、鳥谷芽久美が主人公です。いつも第3者の役回りで深く関わることを避け、カップルや周囲の人の人間関係の間に立ち、対立やすれ違いを調整する灯台のような存在です。「夢の女」では、短命な家系の久保田草介と結婚し、短命だった草介を亡くした明日美が主人公です。亡くなった亭主のパソコンから出来の悪い小説のテキストを発見し読み進むと、アスミなる女性が登場して気にかかりますが、夫の叔母が誘ってくれた万博公園で思い出がよみがえって、現実を受け入れ始めます。「深く息を吸って、」では、「きみ」が主人公で第3人称で語られます。主人公は、容姿に恵まれなず、成績もパッとしない中学生で、学校でも家庭でも孤独感を抱えていますが、映画俳優へのあこがれが心の支えとなり、少しずつ自分の存在を肯定する感覚を持つようになります。「口笛」では、小宮初音が主人公です。生家に住んで化粧品メーカーながら地味な仕事をしていますが、事情があって、兄の娘を夕刻に保育園に迎えに行く役割を担っています。周囲の期待や「こうあるべき」という見方に影響されつつも、そういった束縛を逃れて、口笛を吹くように自由な瞬間を求める心の動きが静かに描かれています。最後の「対岸の叔父」では、大学生のころのアルバイトから、そのままホームセンターの店長として働いている史が主人公で、妻の法の大林家に連なる叔父の稀男がタイトルになっています。高校を卒業してから定職につかずに、芸術的なオブジェを作っている変わり者です。その叔父の息子ですから、たぶん、従兄弟に当たる伸樹との交流を通じて、普通や正常と異端の境界を考え、矯正の対象となる異常ではないことに気づきます。

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2025年10月17日 (金)

CSをアッサリ勝ち抜いて次は日本シリーズ

  RHE
横  浜002100000 030
阪  神30100000x 471

【横】ケイ、宮城、石田裕、入江 - 山本、松尾
【神】高橋、石井、岩崎 - 坂本

CSファイナル第3戦も、一方的な勝利でした。
初回に佐藤輝選手のスリーランで先制し、3回にも大山選手のツーベースで追加点と、重量打線の本領発揮で序盤からリードし、投げては先発高橋投手が、あわやノーヒットノーランかという好投で、アッサリと横浜を退けました。日本シリーズはソフトバンク優勢ながら、私の密かな希望で、新庄監督の日本ハムとやって欲しい気もします。

日本シリーズも、
がんばれタイガース!

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気温が上昇するとインフレ期待も上がる?

欧州中央銀行(ECB)から "How do rising temperatures affect inflation expectations?" と題して、気候変動による気温上昇とインフレ期待との関係を分析した論文が公表されています。何だか、大熊市の太陽黒点と景気循環の関係みたいで、少し疑問がないでもないのですが、取りあえず、論文の引用情報は下の通りです。

続いて、Abstractを引用すると下の通りです。

Abstract
Global temperatures are rising at an alarming pace and public awareness of climate change is increasing, yet little is known about how these developments affect consumer expectations. We address this gap by conducting a series of experiments within a large-scale, population-representative survey of euro area consumers. We randomly assign consumers to hypothetical global temperature change scenarios, after which we elicit their expectations for inflation and key macroeconomic indicators under these conditions. We find that a 0.5℃ rise in global temperatures leads to a 0.65 percentage point increase in five-year-ahead inflation expectations, with effects particularly pronounced among consumers with greater awareness of climate change. Additionally, respondents expect adverse impacts of global warming on economic growth, employment, public debt, tax burdens, and their well-being. Despite these pessimistic expectations, many consumers demonstrate limited willingness to pay for mitigating further temperature increases. Instead, they place primary responsibility for climate action on governments. Our findings underscore the interplay between climate change and economic expectations, highlighting the potential implications for monetary and fiscal policy in a warming world.

はい、確かに、気候変動が進んでいる一方で、消費者の期待が何らかの影響を受けるかという研究は進んでいません。本論文では、地球の気温が0.5℃上昇すると、5年後のインフレ率の期待が0.65パーセントポイント上昇する "a 0.5℃ rise in global temperatures leads to a 0.65 percentage point increase in five-year-ahead inflation expectations" と主張しています。当然ながら、気候変動に対する意識の高い消費者の間では大きな影響が見られる、ということです。

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私が読んで理解した範囲で、引用したAbstractにも見られるマクロ経済要因と供給面の要因の2点が理由として上げられています。まず、成長率や失業率への悪影響や税負担の増加といったマクロ経済要因であり、Abstractにもあるように "adverse impacts of global warming on economic growth, employment, public debt, tax burdens, and their well-being" ということです。加えて、農作物や食料の供給制約、エネルギーなどの要因による生産コストアップ、そして、サプライチェーンの混乱、といった供給面からの影響であり、p.17 では "crop failures, higher production costs, and supply chain disruptions" と表現されています。一応、太陽黒点とは違って、それなりに合理的な経済要因が列挙されています。気温上昇とともに消費者のインフレ期待が上方シフトし、期待に基づいて実際にインフレも加速するのかもしれません。

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2025年10月16日 (木)

CSファイナル第2戦は延長にもつれたものの連勝で早くも王手

  RHE
横  浜0021000000 380
阪  神2000000102x 590

【横】竹田、中川、石田裕、伊勢、森原、佐々木 - 山本
【神】才木、畠、湯浅、、岩貞、石井、及川 - 坂本、梅野

CSファイナルは延長までもつれはしたものの、連勝で王手でした。
初回に森下選手と佐藤輝選手のショボいツーベースと大山選手の犠牲フライで2点をあげてから、雨の中の力投型のピッチャーはやっぱり苦しく、才木投手が牧選手の勝越しホームランで逆転されました。しかし、8回には本日3安打の4番佐藤輝選手が同点打を放ち、延長に入って10回には森下選手のツーランでサヨナラ勝ちとなりました。
まあ、横浜ファンには悪いんですが、たぶん、明日で決着ですね。

明日も、
がんばれタイガース!

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2か月連続で減少して基調判断が下方修正された8月の機械受注

本日、内閣府から8月の機械受注公表されています。民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から▲0.9%減の8900億円と、2か月連続の減少を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

8月の機械受注0.9%減、2カ月連続マイナス 基調判断を下方修正
内閣府が16日発表した8月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で0.9%減の8900億円だった。2カ月連続のマイナスとなった。製造業は2.4%減の4180億円、非製造業は6.4%減の4690億円だった。
基調判断は「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に下方修正した。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は0.3%増だった。
製造業は運搬機械などを含む汎用・生産用機械が21.9%減、化学工業が48.9%減と押し下げた。航空機といった「その他輸送用機械」も36.2%減った。いずれも前月からの反動減があったと内閣府の担当者は説明している。
自動車・同付属品は2.9%減と3カ月ぶりのマイナスとなった。内閣府は「4月ごろに米国の関税措置が発動した影響で一時落ち込んだ可能性がある。その後、基調として戻しているものの、関税が発動する前の年初の水準には持ち直していない」と指摘する。
非製造業では、リース業で社内システムなどに使う電子計算機が落ち込んだ。
民需(船舶・電力除く)に関して、毎月のぶれをならした3カ月移動平均は0.9%減と3カ月連続で減少した。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事の2パラめにある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比でわずかに増加すると見込まれていました。ロイターの記事「機械受注8月は2カ月連続減、判断「持ち直しに足踏み」に下方修正」でも、小幅な増加を見込んでいた旨が明らかにされています。実績の▲0.9%減は、レンジ下限の▲4.2%減を上回るレンジ内とはいえ、やや下振れした印象です。4~6月期の四半期ベースでは前期比+0.4%と3期連続のプラスでしたが、統計作成官庁である内閣府では、3か月移動平均で見て▲0.9%源であることから、基調判断を「持ち直しの動きに足踏みがみられる」下方修正しています。8月統計を業種別に季節調整済みの前月比で見て、製造業が▲2.4%減、船舶・電力除く非製造業も▲6.4%減となっています。4~6月期までのコア機械受注は3期連続のプラスでしたが、7~9月期見通しでは▲4.0%の減少に転ずると見込まれています。しかも、製造業・非製造業ともに前期比マイナスの見通しです。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を見込んでいる一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は見込み得る範囲の近い将来にはまだ続くことが歩く予想されますし、DXあるいはGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、為替への影響を別にしても、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかです。どう考えても、先行きについてリスクは下方に厚いと考えるべきです。

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2025年10月15日 (水)

CSファイナルは横綱相撲でまず1勝

  RHE
横  浜000000000 081
阪  神00000200x 261

【De】東、坂本、中川、佐々木 - 山本、松尾
【神】村上、及川、石井、岩崎 - 坂本

CSファイナルは横綱相撲で横浜にまず1勝でした。
前半5回までは横浜が押しに押していたのですが、先発村上投手が何とか踏ん張ってゼロに抑え、6回のワンチャンスをモノにして阪神勝利でした。1番近本選手が内野安打で出塁し、2番中野選手が送りバント、さらに三盗が決まってから森下選手のタイムリーで先制しました。佐藤輝選手がヒットでつないだ後、大山選手は倒れたものの、小野寺選手のタイムリーで追加点の2点目が入りました。タイムリーの2人がヒーローインタビューでしたが、近本選手の三盗も見事なものでした。近本選手がスタートを切った後に東投手が投球モーションに入った、というか、東投手が投球モーションに入る前に近本選手がスタートを切っていたんではないでしょうか。横浜はせっかくファーストステージの巨人戦で東投手を温存して乗り切ったのに、誠に残念でした。

明日も、
がんばれタイガース!

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国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」IMF World Economic Outlook 第1章を読む

日本時間の昨夜、世銀・IMF総会に合わせて、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook, October 2025 が公表されています。サブタイトルは Global Economy in Flux, Prospects Remain Dim となっており、決して楽観的な見通しではないことは示されています。すでに、分析編の第2章と第3章は先週の段階で取り上げましたので、リポートの眼目である第1章の見通しに着目したいと思います。まず、ヘッドラインとなる成長率見通しのテーブルをIMFのサイトから引用すると下の通りです。

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世界経済の成長率は、昨年2024年実績が+3.3%の後、今年2025年+3.2%、来年2026年+3.1%と徐々に減速すると見込まれています。ただし、前回見通しからは世界経済の成長率は+0.2%ポイント上方修正されています。なお、日本の成長率見通しは、今年2025年が+1.1%と、前回見通しから+0.4%ポイント上方修正されており、来年2026年も+0.6%と+0.1%ポイントの上方修正となっています。
いろんな要因が世界経済の成長率見通しの背景にはあるわけですが、もっとも注目されているのは何といっても米国の通商政策、トランプ関税です。最近も、中国のレアアース輸出規制に対抗する形で100%の追加関税を貸したと報じられました。ただ、これは今回のIMF見通しには反映されていないようです。こういった政策の不透明感や不確実性が成長を抑制するルートとして、リポート冒頭の p.5 では、リアル・オプション理論に基づく投資の先送りが生ずる可能性と予防的行動(precautionary behavior)による貯蓄増加と消費抑制を上げています。

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今回の見通しでは中期見通しにも目を配っており、具体的な成長率やインフレ見通しの計数は明らかにしていませんが、米国トランプ政権の政策の影響をいくつか議論しています。ひとつは国際開発援助(ODA)です。トランプ政権が米国国際開発庁(USAID)を廃止し、ODA縮小の方向に舵を切ったことにより、発展途上国の中では政府歳入に事欠く国も出る可能性すらあります。引用はしませんが、p.91 Figure 1.16. Official Development Assistance, Revenues, and Interest Burden でそのあたりの国をいくつか示しています。また、日本や欧米の先進国も含めて、移民政策、というか、移民制限により、先進国では労働力不足が生じる可能性があり、途上国では本国送金(remittances)が細る可能性もあります。上のグラフはリポートから Figure 1.17. Migrant Stock and Remittances を引用しています。繰り返しになりますが、先進国(AEs)では移民受入れが減少することによる労働供給ショックが、途上国では移民が稼いだ本国送金が減少するショックがあり得る、という結論です。明示的に、米国では移民政策の変更により労働供給が減少し、年間GDPが0.3%から0.7%の減少となる "In the United States, the new immigration policies could reduce the country's GDP by 0.3 percent to 0.7 percent a year" と p.20 で指摘しています。

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さらに、現在のAIブームについても下方リスクに転じる可能性を指摘しています。上のグラフは IMB Blog から AI investment surge in the US reminiscent of dot-com boom, could pause risks と題するグラフを引用しています。リポートでは、p.21 において、AIブームがもし崩壊すれば、2000-01年のドットコムバブルの崩壊に匹敵するほどの深刻さを示す可能性がある "A potential bust of the AI boom could rival the dot-com crash of 2000-01 in severity" と結論しています。

最後に、政策対応のうち、金融政策のセクションのタイトルは "Monetary Policy Priorities: Tailored, Transparent, Independent" すなわち、個別対応、透明性、独立性が金融政策の優先事項であると明示し、中央銀行の政府からの独立性をおびやかしかねない現在のトランプ政権の米国連邦準備制度理事会(FED)の理事人事介入について暗黙の批判を展開せんと試みているような気がします。

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2025年10月14日 (火)

観光で雇用は増加するのか

観光による雇用の増加に関して、スペインの地域労働市場を分析した "Do More Tourists Promote Local Employment?" と題する論文が明らかにされています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

次に、論文のAbstractをジャーナルのサイトから引用すると下の通りです。

Abstract
We analyze the impact of tourist flows on local labor markets, following a novel identification strategy that uses temporary shocks in alternative international destinations to instrument for tourism flows across Spanish regions. We find that a one standard deviation increase in tourist inflows leads to a 1 percentage-point increase in employment in the tourism industry and in other services, but it does not increase total employment, labor force participation, or wages in local economies. Instead, the positive impact on services is compensated by a fall in employment in other industries, most notably manufacturing.

要するに、スペインでは観光客の流入が増えると、観光産業や関連の産業で雇用が増加するのは確かなのですが、その地域経済における総雇用、労働参加率、賃金は増加しない、すなわち、雇用がシフトするだけ、という結論です。特に、製造業雇用が減少して相殺されるということのようです。

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上のグラフは、論文からFigure 10: Dynamic effect of shocks to alternative destinations on sector-specific employment を引用しています。

グラフを見れば、観光客流入と地域雇用の双方において、ショック前には特段のトレンドが見られません。代替目的地におけるテロ攻撃=terrorist attacks in alternative destinations へのエクスポージャーの増加というショックの発生時期は、当該四半期におけるスペイン各州における観光客流入の増加時期と一致しているのが見て取れます。そして、ショックが発生した四半期では、観光関連の雇用が増加し、他の産業の雇用の減少をほぼ反映しており、総雇用への影響は実質的にゼロとなっていることが確認できるとおもいます。要するに、他の観光地にテロが起これば、代替観光地に観光客が流入し、そこでは観光産業の雇用が増加しますが、純増ではなく他産業、特に、製造業からのシフトで観光産業の雇用が増加するだけ、という結論です。したがって、我が国インバウンド観光の増加も雇用の純増をもたらしているかどうかは疑わしい、という含意かもしれません。

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2025年10月13日 (月)

ノーベル経済学賞

今年のノーベル経済学賞は、以下の3人に授与されます。

nameaffiliationmotivation
Joel Mokyr
Born: 26 July 1946, Leiden, the Netherlands
Northwestern University, Evanston, IL, USAfor having explained innovation-driven economic growth
Philippe Aghion
Born: 17 August 1956, Paris, France
Collège de France and INSEAD, Paris, France, The London School of Economics and Political Science, UKfor the theory of sustained growth through creative destruction
Peter Howitt
Born: 31 May 1946, Canada
Brown University, Providence, RI, USA

なお、そうれほど詳らかには報道されていませんが、賞金はモキール教授に半分、アギオン教授とハーウィット教授に¼ずつと発表されています。
イノベーション主導の経済成長、という括りでも可能なのですが、モキール教授については経済史の観点から、アギオン教授とハーウィット教授については創造的破壊のプロセスを数学的モデルを用いて、それぞれ明らかにしています。はい、私はモキール教授は、どちらかといえば、経済史のご専門だと考えていたりしました。

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労働訓練プログラムと現金給付は若年雇用に有効か?

人的資本に関するジャーナルに、"Skills and Liquidity Barriers to Youth Employment" と題する論文が掲載される予定です。ルワンダという、ちょっと変わった国を対象にした研究なのですが、まず、論文の引用情報は以下の通りです。

続いて、ジャーナルのサイトからAbstractを引用すると以下の通りです。

Abstract
We present results of an experiment benchmarking a workforce training program against cash transfers for underemployed young adults in Rwanda. 3.5 years after treatment, the training program enhances productive time use and asset investment, while the cash transfers drive productive assets, livestock values, savings, and subjective well-being. Both interventions have powerful effects on entrepreneurship. But while labor, sales, and profits all go up, the implied wage rate in these businesses is low. Our results suggest that credit is a major barrier to self-employment, but deeper reforms may be required to enable entrepreneurship to provide a transformative pathway out of poverty.

要するに、訓練プログラム=training program は生産的な時間の使い方と資産投資を促進し、現金給付=cash transfers は生産資産、家畜の価値、貯蓄、そして主観的幸福感を高める、と結論しています。いずれも、起業家精神には強力な効果をもたらす一方で、暗黙の賃金率は低い=the implied wage rate in these businesses is low という結果に終わっています。起業家精神だけでは貧困からの脱却には不十分である可能性が示されていると、私は受け止めています。訓練プログラムが、bigpush によってもたらされた資本蓄積と結びついた生産的労働となる必要である、というふうに、私は解釈しました。

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2025年10月12日 (日)

OECD「国際教員指導環境調査 (TALIS)」

先週火曜日の10月7日、経済協力開発機構(OECD)から「国際教員指導環境調査 (TALIS)」Teaching and Learning International Survey 2024 の結果が公表されています。初等中等教育における教員の現状と課題を報告しています。私自身は大学教員ですので、直接の関係はありませんが、大学には、当然、初等中等教育を受けた学生が入学して来るわけですし、昨今の教師の待遇に関する議論も気にかかるところであり、pdfの全文リポートからいくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポート p.108 から Figure 3.2. Change in teachers' total working hours, from 2018 to 2024 を引用すると上の通りです。日本はどこに位置しているかといえば、一番左のもっとも長時間労働を強いられている国となっています。2018年から2024年までの6年間でかなり減少したとはいえ、教師の労働時間は週55時間ほどに上っており、悲しくも、先進国が加盟するOECD諸国の中では教師の労働時間は他を大きく引き離してトップとなっています。国内での教師の働き過ぎという議論とも整合的です。

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続いて、順番はさかのぼりますが、リポート p.59 から Figure 1.12. Teachers' use of artificial intelligence を引用すると上の通りです。教師が人工知能(AI)を使っているかどうかです。これは、フランスに次いで低い割合となっています。まあ、そうなのでしょう。政府といわず、企業といわず、もちろん、学校でも二歩は先進国の中ではAI利用がもっとも遅れた国のひとつとなっています。

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続いて、リポート p.250 から Figure 7.10. Change in teachers' satisfaction with employment terms (excluding salaries), from 2018 to 2024 を引用すると上の通りです。教師がお給料以外の面でどれだけ満足感を得られているかを国際比較しています。日本のポジションは一番右のもっとも教師の満足度が低い国となっています。これも、国内での議論と整合的なのだと思います。

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続いて、リポート p.252 から Figure 7.12. Change in teachers' salary satisfaction, from 2018 to 2024 を引用すると上の通りです。では、教師がお給料にどれくらい満足しているかの国際比較では、何とか、どん尻は逃れていますが、OECD加盟国の中では決して高くなく、お給料の面でも満足度は低い、といえそうです。

初等中等教育の現場における日本の教師の悲しくも哀れな現状が明確に示されていると私は感じました。何かの折に書いた気がしますが、教育だけは何の裏付けもなしに現場を離れたところで方針が決定され、「しっかりやるべし」というように決定された方針に沿って教師が教えることが求められます。予算がないから道路ができない、という自明の因果関係を飛び越えて、予算があろうがなかろうが、設備が整っていようがどうだろうが、教師がやるべきという大量の業務と責任だけを初等中等教育機関の教師は押し付けられています。しかも、私のような高等教育機関の大学教員は教育において、かなり大幅な自由裁量が認められていますが、初等中等教育では「学習指導要領」というきわめて厳しい制約条件が課されます。救命胴衣や浮き輪などを何も持たされず、しかも、手足を縛られて水に投げ込まれ、しっかり泳げといわれているようなものです。日本の教育水準が大きく低下し、生産性も上がらず、先進国の地位から落ち始めていることを実感します。

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2025年10月11日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計7冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、川村雅則『雇用・労働はいまどうなっているか』(日本経済評論社)は、大学の労働経済学向けのテキストであり、労働や雇用について総務省統計局の労働力調査などを活用してデータも示しながら概観し、もっとも重要な論点のひとつである非正規雇用について、日経連の『新時代の「日本的経営」』を言及し解説しています。高瀬乃一『往来絵巻』(文藝春秋)は、「貸本屋おせん」のシリーズ第2巻であり、火事があって焼け出され、おせんの商売物である貸本もかなり被害にあった後の物語です。5話の連作短編集となっていて、父親の思い出もでてきますが、相変わらず、おせんがちょっとした謎解きに挑みます。柚月裕子『逃亡者は北へ向かう』(新潮社)は、東日本大震災直後の混乱で生じた事件を背景に、逃亡する犯人と追跡する刑事を取り上げたクライム・サスペンスです。逃亡する主人公の何ともいえない運の悪さ、ツキのなさ、自分ではどうしようもないネガな要素に巻き込まれて、逃げ出すすべもない様子に悲しみが募ります。中野円佳『教育にひそむジェンダー』(ちくま新書)では、小学校就学前の段階からすでにおもちゃや服の色などで男の子らしさや女の子らしさが想定されているところから始まって、成長の各段階の教育機関での無意識的な性的役割=マイクロアグレッションに関して考え、批判を加えています。イタイ・ヨナト『認知戦』(文春新書)では、認知戦や影響力工作の基本的な概念を説明し、従来の軍事戦や情報戦とは異なる認知戦、すなわち、感情や行動を操作しようとする軍事作戦について解説した後、実際の中国やロシアの認知戦について言及した後、日本はどのように対抗すればいいのかを論じています。越尾圭『なりすまし』(ハルキ文庫)では、主人公の和泉浩次郎の妻エリカが、ともに経営するブックカフェで殺害され、警察の捜査の過程でアリカが戸籍を偽っていたことが判明します。でも、実は、和泉浩次郎も戸籍を偽った「なりすまし」であり、エリカと戸籍を交換した協力者とともに事件の真相解明に挑みます。杉本昌隆『師匠はつらいよ』(文春文庫)は、藤井聡太七冠の師匠である著者のエッセイであり、「週刊文春」掲載のコラムを取りまとめています。藤井聡太少年との出会いから、「親の七光り」ならぬ「弟子の七光」に助けられる師匠という「自虐ネタ」を含めたユーモラスなエッセイ集に仕上がっています。
今年2025年の新刊書読書は1~9月に242冊を読んでレビューし、10月に入って今週の7冊を加えると合計で249冊となります。来週にも250冊を超えて、今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。また、これらの新刊書読書のほかに、鯨統一郎『ミステリアス学園』(カッパノベルズ)も読んでいます。ただ、新刊書ではない20年以上前の出版ので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、川村雅則『雇用・労働はいまどうなっているか』(日本経済評論社)を読みました。著者は、北海学園大学の教授です。ご自身の大学での授業「労働経済論」の教科書として執筆されたもののようです。ですので、大学生が主たるターゲットですが、広くビジネスパーソンやご関心ある向きにも役立ちそうな気がします。ということで、とても幅広く労働経済について大学の教科書としてふさわしい内容となっています。冒頭のいくつかの章で日本の労働や雇用について、総務省統計局の労働力調査などを活用してデータを示しながら概観した後、労働や雇用についてもっとも重要な論点のひとつである非正規雇用について論じています。非正規雇用拡大の直接の要因としてではありませんが、日経連の『新時代の「日本的経営」』について、p.75でキチンとした解説を加え、現在の総合職に相当する「長期蓄積能力活用型グループ」では、その昔の長期的な雇用慣行を維持しつつ、一般職に当たる「高度専門応力活用型グループ」は名ばかりで、特に女性の「寿退職」を前提に思わせる雇用であり、そして、現在の非正規雇用に当たる「雇用柔軟型グループ」はまさに短期の使い捨て労働力に近い位置づけがなされている点がしっかりと学生諸君に理解できるような教科書となっています。非正規雇用に続いて、労使間の分配でも非正規雇用拡大の影響がクローズアップされており、労働への分配である賃金が伸び悩む一方で、企業への分配である内部留保が積み上がっている現状が適切に解説されています。また、労働時間についても我が国の労働時間規制の脆弱さと実際の労働時間の長さを学生に理解しやすい形で対比させていて、続く章ではその結果としての過労死についても正面から向き合っています。人口減少に伴って労働市場参加が増加した女性労働についても、男女格差の観点を含めて解説され、賃金、社会保障、労働組合、最後は政治との関わりまで、実に幅広く労働や雇用について、学生が労働経済学として理解すべき分野を広く解説している印象です。私自身は、オールラウンドな官庁エコノミスト出身ということもあって、専門的な深みのある授業というよりは、「四角い部屋を丸く掃く」ような授業ですから、ここまで幅広く解説を加えるのはムリがありますが、楽しくというよりは、学生がしっかり学べるように工夫されている印象です。そのうえで、1点だけ国際派エコノミストとして追加を考慮するポイントは、何といっても国際比較です。労働時間などで必要最小限の国際比較はなされていますが、せっかく労働時間規制が脆弱といっているのですから、解雇規制をはじめとして、経済協力開発機構(OECD)のEmployment Protectionなども使った国際比較も学生に教えておきたいところです。

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次に、高瀬乃一『往来絵巻』(文藝春秋))を読みました。著者は、小説家であり、本書は前作とともに「貸本屋おせん」のシリーズ第2巻です。ですので、主人公は和漢貸本屋梅鉢屋のおせんです。幼馴染みの振り売りの豊も登場し、南場屋六根堂などから本を仕入れて貸本業を営んでいます。千太郎長屋に住んでいましたが、本書は、前作で火事があって焼け出され、商売物の貸本もかなり被害にあった後の物語で、5話の連作短編集となっています。『オール讀物』で2025年までに発表された4話に、書下ろし1話で構成されています。謎解きのミステリ仕立てになっている短編もいくつかあります。収録順にあらすじは、まず、「らくがき落首」では、北町奉行の不手際を揶揄した小田切落首の張本人として南場屋喜一郎がしょっ引かれます。果たして、真犯人はだれなのかの謎解きが始まります。表題作の「往来絵巻」では、神田祭の絵巻物がおおよそ1年ほどかけて完成したのですが、子供狂言に従う底抜け屋台の囃子方は10人いるはずなのに、絵巻には9人しか描かれていません。町名主の佐柄木与左衛門が怒り出して謎解きが始まります。この短編はアンソロジーの『江戸に花咲く』(文春文庫)にも収録されていて、私は既読でした。「まさかの身投げ」では、薬種問屋信濃屋の旦那ともめて、鑑札の差止めを受けていた船宿奥川の吾平が芸者の菊乃と川に身投げをし、重罪人として処罰されたうえに、内儀が船宿の仕事を再開しようとして申立てをしても、心中を企てて身投げしたため受け付けられず、この心中身投げの真相の謎解きが始まります。「みつぞろえ」では、セドリの隈八十という男が『艶道東国聴聞集』を手に入れますが、「巻之天」と「巻の地」だけで、「巻之人」が欠けており、なぜか、植木職人の信吉が「巻之人」を持っているという謎を解いて、入手しようとします。最後の「道楽本屋」では、南場屋六根堂では、今でいう盗作などに当たる類板や重板の疑いありということで、地本問屋仲間行事から差止をいいわたされて、新春の目玉の読本が完成せずに困っているところ、その行事への訴えがおせんも聞いたことのない弁天堂からなされていると知り、調べを始めます。ということで、年配の絵師であった燕ノ舎がとうとう亡くなってしまう短編もあります。また、最後の短編では、おせんが父親の平治の人生最終盤を思い起こしたりします。私のように、このシリーズのファンであれば、ぜひとも押さえておきたいところです。

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次に、柚月裕子『逃亡者は北へ向かう』(新潮社)を読みました。著者は、小説家であり、私はこの作者の作品としては、『孤狼の血』、『慈雨』、『盤上の向日葵』検事佐方貞人シリーズの『検事の信義』ほか何冊か読んでいます。本書は、明示していませんが、東日本大震災直後の混乱で生じたいくつかの事件を背景にした逃亡する犯人と追跡する刑事を取り上げたクライム・サスペンスといえます。舞台は震災のあった東北であり、主人公の真柴亮は福島県で工員をしていましたが、震災前に職場の仲間と飲みに行って、半グレを相手に暴力事件を起こします。しかし、震災後に釈放され、アパートまでやって来た逆恨みした半グレの殺害容疑を受けて、北に向かってバイクで逃亡を始めます。小さいころに母親と自分を見捨てた父親から手紙を受け取り、入院している岩手県にある病院を目指します。真柴亮は逃亡中に言葉を話さない小学校就学前くらいの年齢の少年と出会い、この少年が間柴亮から離れません。他方、福島県警の所轄署の刑事である陣内康介は、震災で娘が行方不明になりながらも、震災直後の公務多忙で妻の捜索活動に加わることができず、夫婦関係はギクシャクします。また、息子の直人が行方不明になっている漁師の木村圭佑も捜索活動を始め、この間柴亮、陣内康介、木村圭佑の三者の視点からストーリーが展開されます。被災地の震災直後の大混乱、肉親や親しい人を亡くした大きな痛み、などなど、いろんな要素が絡み合ってラストに進みます。主人公の間柴亮の何ともいえない運の悪さ、ツキのなさ、自分ではどうしようもないそういったネガな要素に巻き込まれて、逃げ出すすべもない様子に悲しみが募ります。最初は、大昔のテレビドラマにあリ、その後、ハリソン・フォード主演で映画化もされた「逃亡者」のようなストーリーかと想像していましたが、震災というとてつもない撹乱要因が加わることで、展開が大きく違ってきています。ただ、2点指摘しておくと、まず、途中のストーリーは波乱万丈であり、大きな起伏や変化に富んでいるのですが、ラストはそれほどびっくりするようなどんでん返しが用意されているわけではありません。その意味で、やや尻すぼみで終わる感があります。ラストに至るまでの犯人と刑事の周辺の人間模様も、かなり古い感覚の読者の方がマッチングがいいかもしれません。次に、地理的な情報があまりにも不親切です。県名はさすがに福島県や岩手県などと実在の名称ですが、たぶん、市町村レベルになれば架空の市町村名にしているようです。福島県には会津若松市はありますが、会津市はないと記憶しています。ですので、東北地方にサッパリ土地勘のない私のような読者には読みこなすのが難しく感じます。もっとも、津波や遺体安置所の生々しい描写が満載の重くて暗いストーリーですので、地名は関係なく読み飛ばしておくのが吉かもしれません。

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次に、中野円佳『教育にひそむジェンダー』(ちくま新書)を読みました。著者は、日本経済新聞社でジャーナリストをし、立命館大学大学院先端総合学術研究科で修士を所得した後、少し省略して、現在、東京大学多様性包摂共創センターDEI共創推進戦略室准教授を務めています。本書では、就学前の段階から始めて、成長の各段階の教育機関での無意識的な性的役割に関して考察するとともに、批判を加えています。すなわち、小学校就学前の段階で、すでに、おもちゃや服の色などで男の子らしさや女の子らしさが想定されていて、小学校に入学後は授業をはじめとする学級活動、あるいは授業外のクラブ活動などで無意識的なマイクロアグレッションにさらされると主張しています。思春期に入る中学校・高校でも制服はもとより、進路選択まで性的な役割分担の影響を受け、大学入学後も依然として性差別やジェンダー格差が残り、典型的には女性の理系選択に困難が伴う、などの議論が展開されています。はい、私もまったくその通りであって、何の反論もないのですが、1点だけ、教育の場というのはいくぶんなりとも競争を取り入れており、その意味で、平等ではなく公平を旨としていて、一定の範囲で格差を認めています。例えば、入学試験で合格と不合格の差はありえます。ただ、本書のような合理的な根拠に基づかない男女差も広く見受けられるのも事実です。また、差別や格差一般を考える際に、何らかのグループ分けが行われている点は見逃すべきではないと考えています。本書では女性と男性という性別ですし、今夏の参議院選挙では日本人と外国人というグループ分けがひとつの争点にもなりました。私自身は性別については、合理的な範囲で一定のグループ分けの基準にはなり得る、と考えています。ですから、なんでも男女いっしょににというのは間違っている可能性が高いと考えています。ただ、しばしば、きわめて不適当な性別のグループ分けがなされていることも事実です。たぶん、男女を別にしても、何らかのグループ分けの根拠の合理性や正当性は、何につけあるんだろうと思いますが、その根拠を別のところにも援用する場合は慎重であるべきです。ただ、今はどうか知りませんが、私なんかのころの60年ほど前の小学校では、そもそも、学籍簿が男女別になっていたような気がします。男女の性別であれ、国籍別の日本人と外国人であれ、年齢別であれ、地域別であれ、キチンとグループ分けの趣旨に沿ったものであればいいのですが、そうでない根拠の不確かなグループ分けには懐疑的な見方を持って接する必要があるのかもしれません。

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次に、イタイ・ヨナト『認知戦』(文春新書)を読みました。著者は、イスラエル軍の諜報部員として作戦に加わった後、現在は公開情報を基にするOSINTインテリジェンス企業の創業者CEOだそうです。本書では、章ごとに、まず、認知戦や影響力工作の基本的な概念を説明し、従来の軍事戦や情報戦とは異なる認知戦、すなわち、感情や行動を操作しようとする軍事作戦について解説されます。第2章の著者の個人的背景は飛ばして、第3章で中国、第4章でロシアのそれぞれの認知戦について解説されます。そして、第5章ではまったく認知戦に無防備な日本でこういった認知戦や影響力工作にどのように対抗すればいいのかを論じています。いくつか、ハッとさせられるようなエピソードも含まれています。例えば、タクシー会社の中にはサーバーを中国においているものもある、と指摘しています。その昔、各省大臣をSPが警護していましたが、それほど情報のないころには、SPから大臣がどこにいるのかの連絡を受けるのは、それなりの価値ある情報であった、と私も聞いたことがあります。そういった意味で、位置情報を中国にあるサーバーに蓄積する危険性を本書でも論じているところです。ただ、私が根本的に疑問に感じたのは、クレマンソーのいうところの「戦争は将軍たちに任せておくにはあまりに重要すぎる」という点です。すなわち、本書では、特段の分析なしに中国やロシアを仮想敵国に仕上げていて、中国がどういった認知戦をしかけているかを考えた後に、その対抗策を列挙しているわけです。現時点で、日本は政治・外交・安全保障の各面で、たぶん、経済も、無条件に米国に従属・追随しているわけですが、その大きな基本方針や戦略ではなく、方針ありきで作戦行動を論じているのが本書である、と考えるべきです。ですから、トランプ大統領が政権についた後には、この既定路線がそのままの形で継続されるかどうかは、決して自明ではありません。ただ、もしも、新しく選ばれた高市自民党総裁がそのまま総理大臣になれば、外交や安全保障に関して、本書で展開されているような論調が強まる可能性は十分あると考えられます。

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次に、越尾圭『なりすまし』(ハルキ文庫)を読みました。著者は、作家であり、2019年、第17回『このミステリーがすごい!』大賞・隠し玉としてデビューしています。私は不勉強にして初読の作家さんでした。ということで、主人公は和泉浩次郎であり、妻のエリカとともにブックカフェを経営しています。和泉浩次郎が3歳半になる娘の杏奈をつれてブックカフェに出勤したところ、仕込みをするために先に出かけていた妻のエリカが惨殺されていました。当然、警察の捜査が進みます。警視庁の久保寺と所轄の石神井署の的場が操作を進めます。しかし、この捜査の過程で、妻の和泉エリカは戸籍を偽っていた「なりすまし」であることが明らかにされます。しかも、主人公の和泉浩次郎も実は戸籍を偽る「なりすまし」でした。以前は七瀬堅吾という名でしたが、兄が暴力団幹部を殺害し、戸籍を買ったわけです。果たして、エリカを殺害した犯人が誰なのか、動機は何か、というミステリの謎解きが始まります。和泉浩次郎は、以前の職場である東京城北新聞の先輩だった福浦達彦の協力を得て調査を進めますが、その矢先に、杏奈が保育園からの帰り道で保育師の神崎凛が目を離した隙に行方不明となり、死体で発見されてしまいます。また、妻のエリカが戸籍を交換した加々美咲月が真相解明の協力を申し出てきたりします。そういった協力も得つつ、和泉浩次郎が謎解きに挑戦します。ということで、ミステリですので、あらすじはこのくらいにしておきます。まず、何といっても、私のような一般ピープルからすれば、戸籍を偽っている「なりすまし」がここまで密に集まっているという設定に違和感を覚えます。これは、山口美桜の『禁忌の子』についても同じことを感じました。あれだけ登場人物の中で密に存在しているのはとても違和感を覚えます。戸籍に話を戻せば、例えば、宮部みゆき『火車』では戸籍を偽っている、というか、偽ろうとしているのは1人だけです。それが、このお話では、夫婦して戸籍を偽っているわけで、不自然に感じるのは私だけではないと思います。それから、そこそこのボリュームの長編ミステリにしては登場人物が少なく、怪しい人物が限られるという恨みもあります。殺人事件がそもそも特異な犯罪ですし、その上に戸籍の売買や交換もあるということで、盛り沢山な内容なのですが、その分、消化不良になりかねません。

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次に、杉本昌隆『師匠はつらいよ』(文春文庫)を読みました。著者は、将棋の棋士であり、ご本人の成績やタイトルなどよりも、何といっても藤井聡太七冠のお師匠さんとして有名なのではなかろうか、と思います。藤井聡太七冠は少し前まで八冠だったのですが、叡王を失冠して、今は七冠ではないかと思います。本書は、「週刊文春」に連載されているコラムを単行本に取りまとめて、さらに文庫化されたエッセイであり、もともとのコラムの掲載期間は2021年4月8日号から2023年4月27日号までであり、コロナ禍のさなかのほぼほぼ2年間、ということになります。私が読んだ範囲で、藤井聡太棋士は二冠から始まって、本書の最後の方では五冠となっています。すでに単行本としては続巻が出版されていますが、多分、私は文庫になるまで読まないような気がします。本エッセイの冒頭は著者と藤井聡太少年の出会いから始まります。広く知られている通り、将棋の棋士になるためには奨励会に所属せねばならず、そのためには誰か棋士に弟子入しなければなりません。藤井聡太七冠が著者に弟子入したのは小学生のころですから、藤井聡太七冠ご本人が師匠を選んだ、という部分もなくはないでしょうが、親の影響力も強かったのではないか、と私は勝手に想像しています。そして、本書でも「自虐ネタ」と著者ご本人が自ら認めているように、師匠をアッという間に抜き去って数々のタイトルを手にしたことは、これまた、広く知られている通りかと思います。いわゆる「親の七光り」というのはよく聞きますし、日本の国会議員の無視できない割合が二世議員、三世議員であることも広く知られていることと思いますが、本書の著者は、その意味では、「弟子の七光」を受けているわけです。ご自分でも、本書に収録されている範囲で例を引き出せば、羽生九段に対等で接することができるのは、棋士としての杉本八段ではムリであり、藤井聡太七冠の師匠としてであれば、何とか対等に接することができる、と述懐しています。勝負の世界に生きて、段位やタイトルや順位戦の結果たる級で明確にランクつけされる棋士という存在では、そうかなのもしれません。私も教師の端くれですので、他力本願ながら、誰かを教えた教員として名を挙げられないものかと考えないでもない今日このごろです。

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2025年10月10日 (金)

高い上昇率が続く9月の企業物価指数(PPI)

本日、日銀から9月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+2.7%の上昇となり、3月+4.3%、4月+3.9%、5月の+3.1%、6月+2.7%、7月+2.5%と7月まで上昇率が減速していましたが、8月統計では再び加速を見せて+2.7%、9月も上昇率としては前月8月から横ばいで+2.7%を記録しており、高い伸びが続いています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業物価指数、9月2.7%上昇 伸び率は横ばい
日銀が10日発表した9月の企業物価指数(速報値、2020年平均=100)は126.9と前年同月と比べて2.7%上昇した。伸び率は8月(2.7%上昇)から横ばいだった。非鉄金属の伸び率が拡大した一方、コメなどの農林水産物の上昇率が縮小した。民間予測の中央値(2.5%上昇)より0.2ポイント上振れした。
企業物価指数は企業間で取引するモノの価格動向を示す。サービス価格の動向を示す企業向けサービス価格指数とともに消費者物価指数(CPI)に影響を与える。
農林水産物は前年同月と比べて30.5%上昇し、伸び率は8月(41.0%上昇)から低下した。非鉄金属は9.6%上昇し、伸び率は8月(6.2%上昇)から拡大した。銅や金などの価格上昇が影響した。
日銀が公表している515品目のうち、価格が上昇したのは373品目、下落したのは121品目だった。21品目では価格が変わらなかった。

インフレ動向が注目される中で、長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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ヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率について、引用した記事には民間予測の中央値が+2.5%とありますが、私の見た範囲では、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.7%でした。実績と同じですが、ただ、これでも日銀物価目標の+2%を大きく上回っていることは事実です。上昇幅が縮小したとはいえ、上昇率が高止まりしている要因は、農林水産物とそれに連動した飲食料品の価格上昇です。引き続き、コメなどが高い上昇率を示しています。また、対ドル為替相場は7月+1.5%の円安、8月も+0.7%の円安に続いて、9月もわずかながら+0.2%の円安となっています。加えて、為替市場では高市自民党新総裁に対する思惑などから円安が急速に進んでいますので、注視が必要です。さらに、私自身が詳しくないので、エネルギー価格の参考として、日本総研「原油市場展望」(2025年9月)を見ておくと、9月のWTI原油先物価格は、上旬に60ドル、9月中旬から下旬にかけては、一時60ドル台後半に上昇した後、「原油価格は、来年にかけて50ドル台後半に下落する見通し」とされています。ただ、円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年2025年4月から8月まで5か月連続で2ケタの下落を続けていましたが、9月には△8.0%と下落幅を縮小させています。いずれにせよ、国内物価の上昇は原油価格ではなく国内要因による物価上昇であることは明らかです。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず、農林水産物は8月の+41.0%からやや減速しつつ、9月も+30.5%と高止まりしています。これに伴って、飲食料品の上昇率も8月の+4.9%から9月は+4.7%と高い伸びが続いています。電力・都市ガス・水道は8月の▲3.1%から、9月は+0.7%と前年比プラスに転じています。

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2025年10月 9日 (木)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」World Economic Outlook 分析編を読む

来週の世銀・IMF総会を前に、「世界経済見通し」World Economic Outlook 分析編がすでに公表されています。見通し編は来週の総会となる予定です。まず、分析編である第2章と第3章のタイトルは下の通りです。

Chapter 2:
Emerging Market Resilience: Good Luck or Good Policies?
Chapter 3:
Industrial Policy: Managing Trade-Offs to Promote Growth and Resilience

「世界経済見通し」World Economic Outlook の本編となる見通し編は来週の10月14日の公表であるとアナウンスされています。私のこのブログでは、英文も含めて学術論文やこういった国際機関のリポートなどの1次資料に着目するのも特徴のひとつですので、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、第2章 Emerging Market Resilience: Good Luck or Good Policies? から Figure 2.3. Effects of Risk-Off Shocks を引用しています。ここでいう Risk-Off Shocks とは投資家のリスク志向が急速に減退し、安全資産への逃避が強まるような金融資産市場におけるショックを指しています。有り体にいえば、投資家の危険回避度が高まると新興国や途上国の通貨を含む資産が売られて、金や先進国資産といったリスクの低い安全資産へ逃避するわけです。そして、そのリスクオフ・ショックに対して、新興国が高いレジリエンスを示した点について、外部環境というgood luck=幸運と政策枠組みの改善という適切な政策=good policiesの2つの要因を強調しています。上に引用した Figure 2.3. Effects of Risk-Off Shocks では、上のパネルで対外的な指標である資本移動、為替レート、借入金利のショックをプロットし、下は国内指標のGDPと物価を示しています。世界金融危機=Global Financial Crisis (GFC)の後では新興国におけるレジリエンスが高まっていることが読み取れます。

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続いて、上のグラフは、第2章 Emerging Market Resilience: Good Luck or Good Policies? から Figure 2.10. Factors Contributing to Emerging Markets' Resilience during Risk-Off Episodes を引用しています。新興国におけるレジリエンスが高まった理由を上げています。上のパネルで政策決定要因として、インフレ期待の適切なアンカリング、外貨準備の積増し、外貨借入れの期間などのミスマッチの低下、マクロ・プルーデンス政策の厳格化などを上げ、下のパネルで外部環境の幸運と金融・財政やマクロプルーデンスといった政策要因の寄与を計測した結果を示しています。

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続いて、上のグラフは、第3章 Industrial Policy: Managing Trade-Offs to Promote Growth and Resilience から Figure 3.1. Global Evolution of Industrial Policies を引用しています。各国政府は戦略的なセクターや企業を産業政策によって支援することにより、産業構造の再構築や生産性の向上を目指すことがあります。特に、エネルギー部門は最先端技術を活用するセクターなどとともに、産業政策のターゲットのひとつとなっています。上のグラフの通りです。

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続いて、上のグラフは、第3章 Industrial Policy: Managing Trade-Offs to Promote Growth and Resilience から Figure 3.10. Industrial Policies and Medium-Term Performance of Targeted Sectors を引用しています。補助金支給も直接的な支援策もそれほど効果を上げているとの分析結果は得られていません。産業政策の対象となっていない、したがって、すでに効率性の高いセクターからリソースを引き出してしまう可能性を指摘しています。

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2025年10月 8日 (水)

5か月連続で改善した9月の景気ウォッチャーと大きな黒字を計上した8月の経常収支

本日、内閣府から9月の景気ウォッチャーが、また、財務省から8月の経常収支が、それぞれ公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+0.4ポイント上昇の47.1、先行き判断DIも+1.0ポイント上昇の48.5を記録しています。経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+3兆7758億円の黒字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

街角景気、9月現状判断DIは5か月連続上昇 住宅など改善
内閣府が8日公表した景気ウオッチャー調査によると、街角の人々からヒヤリングした景気の現状判断指数(DI)は前月比0.4ポイント上昇の47.1となった。景気の良し悪しの境目とされる50は下回ったものの5カ月連続で改善した。基調判断は「持ち直しの動き」で据え置いた。
<住宅、小売り改善>
指数の前月比の内訳は、家計関連が0.3ポイント、雇用関連が2.6ポイント改善した一方、企業関連は0.5ポイント悪化した。
家計関連では、住宅が5.3ポイント改善した。「住宅着工数は微減で推移しているが、単価の上昇をカバーできる購入層が増えている」(南関東の住宅販売会社)などの指摘があった。
小売りも0.3ポイント、サービスは0.1ポイント改善した。「インバウンドはもちろん、日本人の観光客も購買意欲が出てきている」(北陸の商店街)、「コメは一定の供給量があり価格も上昇しているため売り上げの増加につながっている」(近畿のスーパー)とのコメントがあった。
一方、飲食関連は1.0ポイント悪化した。「来客数が激減、客がゼロの日もある」(東北のレストラン)などの声が出ている。
<米関税による実質値上げの影響>
企業関連では製造業が1.4ポイント悪化する一方で非製造業は0.4ポイント改善した。「本格的に関税による実質的な値上げの影響が出てきて、北米の半導体関連設備投資に陰りが見えてきた」(東海の一般機械器具製造業)との指摘がある一方、「大阪万博関連商材が飛ぶように売れている」(近畿のその他サービス)とのコメントもあった。
景気の先行きに対する判断DIも前月比1.0ポイント改善の48.5となった。家計では飲食、住宅関連が改善、サービス関連が悪化。企業は製造業、非製造業ともに改善した。
地域別の現状判断DIは、全国12地域中7地域で上昇。近畿が4.7ポイントともっとも大きく改善した。一方、東北が3.1ポイント悪化し、マイナス幅がもっとも大きかった。
経常収支8月は3兆7758億円の黒字、半年ぶり高水準 貿易収支が黒字転換
財務省が8日発表した国際収支状況速報によると、8月の経常収支は3兆7758億円の黒字と、過去最大の4兆0832億円を記録した2月以来半年ぶりの高水準だった。黒字は7カ月連続。
黒字幅は前月から拡大し、ロイターの事前予測(3兆5400億円)をやや上回った。一方、前年同月比では1903億円縮小。金融・保険や自動車製造の個別企業が昨年8月に大口配当を得ていた反動で、第一次所得収支の黒字が前年比で減少したことが理由。
ただ、8月の黒字額としては昨年に次ぎ過去2番目の大きさで「堅調」と財務省担当者は話した。
経常収支のうち、貿易・サービス収支は840億円の赤字となった一方、第一次所得収支は4兆2986億円の黒字だった。第二次所得収支は4388億円の赤字。
貿易収支は1059億円の黒字と、前年同月の赤字から黒字に転換。 自動車や鉄鋼、自動車部品の輸出が減少する一方、原粗油や医薬品、液化天然ガスなどの輸入も減少。輸入は輸出よりも大幅な減少となった。
貿易・サービス収支のうち、サービス収支は1899億円の赤字で前年比で赤字幅が拡大。ただ、インバウンド(訪日外国人)が8月は前年比16.9%増えて旅行収支の黒字は4195億円と、8月として過去最高を記録した。

長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、色分けは凡例の通りです。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは、最近では4月統計で前月から大きく▲2.5ポイント低下して42.6となった後、5月統計で反発して+1.8ポイント上昇の44.4、そして、本日公表の9月統計の47.1まで5か月連続で上昇を記録しています。先行き判断DIも同様に上昇を見せており、9月統計は前月から+1.0ポイント上昇の48.5となっています。先行き判断DIについても、現状判断DIとともに5か月連続の上昇です。本日公表の9月統計の季節調整済みの現状判断DIをより詳しく前月差で見ると、家計動向関連のうちの住宅関連が+5.3ポイント、小売関連が+0.3ポイント、サービス関連が+0.1ポイント、それぞれ上昇した一方で、飲食関連だけが▲1.0ポイント低下しています。飲食関連については基本的に夏休みの旅行シーズンが終了した影響が家計関連のマインドに出ていると私は考えています。別途、インバウンドも少し停滞気味という影響もあるかもしれません。企業関連では、非製造業が前月から+0.4ポイント上昇した一方で、製造業は▲1.4ポイントの低下を見せていますから、米国の通商政策の動向が尾を引いている可能性が十分あります。また、家計関連と企業関連とは別の雇用関連は前月から+2.6ポイントと、大幅に上昇しています。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を5月から「景気は、持ち直しの動きがみられる。」と上方修正していて、9月統計でも据え置かれています。ただし、国際面での米国の通商政策とともに、国内では価格上昇の懸念は大いに残っていて、今後の動向が懸念されるところです。景気判断理由の概要について、引用した記事にもいくつかありますが、内閣府の調査結果の中から、家計動向関連に着目すると、飲食関連では「最も大きい物価高の影響に加え、今夏は暑過ぎたので光熱費が増えたことや、夏休みで出掛けたりしてお金を使ったため、3か月前と比べて消費がやや控えめになっている。(南関東=一般レストラン)。」といった物価高の影響を上げた意見があったりしました。

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続いて、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。引用した記事にもあるように、ロイターによる市場の事前コンセンサスは3兆5400億円の黒字でしたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ほぼほぼ同じ水準の見込みでしたので、実績の+3.8兆円近い黒字はやや上振れた印象です。季節調整していない原系列の統計では、引用した記事にもあるように、貿易・サービス収支が▲840億円の赤字ながら、サービスを除いた貿易収支は+1059億円の黒字を計上しています。ただし、私が注目している季節調整済みの系列に着目すると、2024年11-12月に2023年10月以来の黒字を計上した後、今年に入って、2025年1月から8月まで赤字に戻っています。ただ、直近でデータが利用可能な8月統計では速報段階ながら▲1419億円と小幅な赤字にとどまっています。さらに、引用した記事にもある通り、日本の経常収支は第1次所得収支が巨大な黒字を計上していますので、貿易・サービス収支が赤字であっても経常収支が赤字となることはほぼほぼ考えられません。はい。トランプ関税によって貿易収支の赤字が拡大したとしても、第1次所得収支で十分カバーできると考えるべきです。ですので、経常収支にせよ、貿易収支・サービスにせよ、たとえ赤字であっても何ら悲観する必要はありません。エネルギーや資源に乏しい日本では消費や生産のために必要な輸入をためらうことなく、経常収支や貿易収支が赤字であっても何の問題もない、逆に、経常黒字が大きくても特段めでたいわけでもない、と私は考えています。ただ、米国の関税政策の影響でやたらと変動幅が大きくなるのは避けた方がいいのは事実です。

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2025年10月 7日 (火)

2か月連続で下降した8月の景気動向指数

本日、内閣府から8月の景気動向指数が公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数は前月から+1.3ポイント上昇の107.4を示した一方で、CI一致指数は▲0.7ポイント下降の113.4を記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから報道を引用すると以下の通りです。

景気指数、8月0.7ポイント低下 判断「下げ止まり」据え置き
内閣府が7日発表した8月の景気動向指数(速報値)は足元の経済状況を示す一致指数(2020年=100)が113.4と前月比で0.7ポイント低下した。低下は2カ月連続だった。
指数を基に機械的に決める基調判断は「下げ止まり」で据え置いた。下げ止まりの判断は16カ月連続となった。
指数を構成する指標のうち輸出数量指数が落ち込み、全体の指数を0.37ポイント押し下げた。米国やアジア向けの輸出が振るわなかった。
生産指数(鉱工業)も0.25ポイントの押し下げ要因となった。パソコンの生産が低迷した。米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ10」のサポート終了に伴う買い替え需要などを背景に生産活動は高めの水準で推移していたが、8月は一服した可能性がある。
商業販売額は小売り、卸売りともに全体の指数を押し下げた。前年の夏に台風や南海トラフ地震臨時情報の影響で備蓄用品の販売が伸びており、その反動がみられた。

いつもながら、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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8月統計のCI一致指数は、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスによれば、前月から▲1.0ポイントの低下が見込まれていましたので、実績の▲0.7ポイントの下降はやや上振れた印象です。また、3か月後方移動平均は2か月連続の下降で前月から▲0.73ポイント下降し、7か月後方移動平均も前月から▲0.43ポイント下降し、これまた、2か月連続の下降となっています。統計作成官庁である内閣府による基調判断は、5月統計から「下げ止まり」に下方修正されましたが、今月8月統計でも「下げ止まり」に据え置かれています。私は従来から、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そう簡単には日本経済が景気後退局面に入ることはないと考えていて、それはそれで正しいと今でも考えていますが、米国経済に関する前提が怪しくなってきた印象で、米国経済が年内にリセッションに入る可能性はそれなりに高まってきており、日本経済も前後して景気後退に陥る可能性が十分あると考えています。理由は、ほかのエコノミストとたぶん同じでトランプ政権が乱発している関税政策です。米国経済において関税率引上げはインフレの加速と消費者心理の悪化の両面から消費を大きく押し下げる効果が強いと考えています。加えて、日本経済はすでに景気回復・拡大局面の後半に入っている点は忘れるべきではありませんし、多くのエコノミストが円高を展望して待ち望んでいる金融引締めは景気を下押しすることが明らかであり、引き続き、注視する必要があるのは当然です。
CI一致指数を構成する系列を前月差に対する寄与度に従って詳しく見ると、トランプ関税の影響をモロに受けている輸出数量指数が▲0.37ポイントの寄与ともっとも大きなマイナスであり、次いで、生産指数(鉱工業)も▲0.30ポイント、商業販売額(小売業)(前年同月比)が▲0.22ポイント、投資財出荷指数(除輸送機械)が▲0.19ポイントなどが下降の方向で寄与しています。逆に、上昇の方向の寄与は、耐久消費財出荷指数が+0.35ポイントのほかは、トレンド成分の営業利益(全企業)の+0.15ポイントくらいのものです。ついでに、前月差+1.3ポイントと上昇したCI先行指数の上昇要因も数字を上げておくと、消費者態度指数が+0.53ポイント、東証株価指数が+0.43ポイント、マネーストック(M2)(前年同月比)が+0.30ポイントなどとなっています。自民党総裁に高市衆議院議員が選出されてから株価は高値を続けており、この先も景気動向指数の先行指数を牽引するかもしれません。

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医学誌 Lancet のエディトリアル

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先週金曜日10月4日受けの医学誌 Lancet に "The far-right and health: an evolving political crisis" と題するエディトリアルが掲載されています。まず、Lancet とは、私のような専門外のエコノミストでも知っている医学誌であり、以下の4誌が世界的にも最も有名な医学誌です。

その Lancet が「極右と健康」と題するエディトリアルを掲載しているわけです。pdfでもアップロードされてあり、わずかに1ページなのですが、最初の2センテンスだけ引用すると下の通りです。

The far-right and health: an evolving political crisis
Across Europe and North America, racism, xenophobia, and far-right nationalism have become normalised in public and political discourse, leading many people to feel anxiety and fear of violence, discrimination, and hatred. This developing political crisis is having a pervasive and devastating impact on the health and wellbeing of health workers and scientists, as well as the general population.

そして、最後のパラの2センテンス目は "We must take a stand against racism and prejudice." となっています。最後のパラの最後は "opposing the normalisation of racism and discrimination in political discourse, lead anti-racist activism, and make equity a defining goal of their mission." で締めくくられています。
もちろん、Lancet は医学誌であり、医療に携わる人びとを読者に想定していますが、私はエコノミストながら、このエディトリアルでいっている "We" に入れて欲しいと願っています。私も暴力、差別、ヘイトには強く反対しています。

新しく選ばれた自民党の新総裁が極右の方針を持って政治や行政に臨まないことを願っています。

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2025年10月 6日 (月)

ノーベル賞ウィークが始まる

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本日の生理学・医学賞、明日の物理学賞から、ノーベル賞ウィークが始まりました。来週月曜日はわつぃの専門分野であるノーベル経済学賞の発表があります。
そのノーベル賞ウィークを前に、科学部門ですから、文学賞と平和賞を除く4部門について、クラリベイト引用栄誉賞 Clarivate Citation Laureates 2025 が明らかにされています。本日の生理学う・医学賞、また、物理学賞や化学賞などは私にはサッパリ理解できませんので、経済学賞のみ注目しておくと以下の通りです。

nameaffiliationmotivation
David AutorMIT, United Statesfor for seminal analysis of wage structure, earnings inequality, educational advance, and technological change
Lawrence F. KatzHarverd University, United States
Marianne BertlandUniversity of Chicago Booth School of Business, United Statesfor joint research on racial discrimination, corporate governance, and other aspects of labor economics determined by psychology and culture
Sendhil MullainathanMIT, United States
Nicholas BloomStanford University, United Statesfor analyzing the impact of economic and political uncertainty on investment, employment and growth

このように並べられると、オーター教授とカッツ教授の研究が有力かな、という気がします。どうでもいいことながら、一昨年2023年に男女の賃金格差でノーベル経済学賞を受賞したゴルディン教授とカッツ教授はご夫婦ではなかったか、と私は記憶しています。間違っているかもしれません。あしからず。オーター教授とカッツ教授のAIを含むスキル偏重型の技術進歩が賃金、特に、不平等にどのような影響を及ぼしたかについての研究は広く参照されているところです。例えば、昨年2024年7月に取りまとめられた内閣府『世界経済の潮流』ではサブタイトルが「AIで変わる労働市場」ということで、こういった研究成果が大きく取り入れられています。
ただ、私の専門分野は時系列分ですので、私の勝手な思い込みで、その方面の権威であるカリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)のジェームズ D. ハミルトン教授を推したい気がしています。来週月曜日10月13日に公表される予定です。

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2025年10月 5日 (日)

10月からの食品値上げ

先週9月30日、帝国データバンクから「食品主要195社」価格改定動向調査の結果が明らかにされています。今年2025年4月に続いて10月も多くの品目が値上げされており、帝国データ場ぬでは値上げラッシュと表現しています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果のSUMMARYを3点引用すると下の通りです。

SUMMARY
  • 2025年10月の飲食料品値上げは、合計3024品目となった。
  • 食品分野別では、焼酎やリキュール、日本酒などアルコール飲料を中心とした「酒類・飲料」が最も多く、2262品目となった。2025年通年では、12月までの公表分で累計2万381品目となった。
  • 前年の実績(1万2520品目)を62.8%上回り、2023年(3万2396品目)以来、2年ぶりに2万品目を超えた。

続いて、2023年9月から今年2025年12月までの各月の値上げ品目数の推移と各年の平均値上げ率のグラフを帝国データバンクのサイトから引用すると下の通りです。

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主要な食品メーカー195社における、家庭用を中心とした10月の飲食料品値上げは3024品目となり、1回あたりの値上げ率平均は17%となっています。前年2024年10月は2924品目でしたから品目数では+100品目増加しています。2025年通年の値上げは、12月までの公表分で累計2万381品目となっています。前年2024年の実績(1万2520品目)を62.8%上回り、2023年(3万2396品目)以来、2年ぶりに2万品目を超える見込みです。1回当たり値上げ率平均は15%と、前年(17%)をやや下回る水準となっています。

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続いて、値上げ要因の推移と分野別値上げ品目数の推移のグラフを帝国データバンクのサイトから引用すると上の通りです。値上げ要因では、原材料の価格高騰に加え、光熱費の上昇による生産コスト増、人手不足による労務費の上昇、物流費の上昇などが複合的に重なっている印象です。また、品目別では、税制の変更といった要因もありますが、「酒類・飲料」(4871品目)は、清涼飲料水のほか、ビール、清酒、焼酎、ワインといった洋酒など広範囲で値上げとなり、前年比で8割を超える大幅増となっています。

なお、先行きについては、11月の食品値上げ予定品目数が9月末時点の調査では100品目未満にとどまっていて、11か月ぶりに前年同月を下回る見込みであり、10月まで続いた飲食料品の値上げラッシュは年末にかけて小休止を迎える、との調査結果を帝国データバンクは示しています。

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2025年10月 4日 (土)

今週の読書は新書が多くて計5冊

今週の読書感想文は以下の通りです。
まず、宮川勉[編]『日本経済の未来と生産性』(東京大学出版会)では、生産性に直接関係するマクロ経済だけではなく、産業構造や企業行動といったマイクロな経済学の対象とされるような企業や産業の動向、あるいは、労働や雇用といった人的資本などの幅広い観点から生産性に関する分析を行っています。額賀澪『天才望遠鏡』(文藝春秋)は、5話の短編から編まれた連作短編集であり、順調に歩みを進める天才とともに、かつては天才だったものの、やや輝きを失いつつある元天才も登場し、才能のあるなしや運のよしあしなどについて、さまざまな観点から天才観測の結果を示しています。中野剛志『基軸通貨ドルの落日』(文春新書)では、輸出主導国が貿易黒字を出す一方で、米国のような債務主導国が赤字となる国際的な不均衡に対して、関税政策を主要な政策手段として用いつつ、基軸通貨であるドルの地位の操作を通じて、不均衡是正を試みているのが現在のトランプ関税政策である、と結論しています。齋藤ジン『世界秩序が変わるとき』(文春新書)では、米国が新自由主義を放棄したトランプ政権に至って、世界の経済秩序が再編される中で、日本も周回遅れで世界経済にキャッチアップする可能性があると指摘しています。しかし、私はこの見方は間違っている可能性があると思っています。山下一仁『コメ高騰の深層』(宝島社新書)では、コメ価格高騰の原因として政府/農水省が持ち出したり、世間で考えられたりした原因、すなわち、インバウンド消費の増加といった需要サイドの要因、また、流通の目詰まりなどを否定し、減反政策の本格的な終了などが必要と結論しています。
今年2025年の新刊書読書は1~9月に237冊を読んでレビューし、10月に入って今週の5冊を加えると合計で242冊となります。今年も年間で300冊に達する可能性があると受け止めています。また、これらの新刊書読書のほかに、瀬尾まいこ『幸福な食卓』(講談社文庫)も読んでいます。ただ、新刊書ではないので、本日のレビューには含めていません。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。

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まず、宮川勉[編]『日本経済の未来と生産性』(東京大学出版会)を読みました。編者は、学習院大学経済学部教授であり、日本における生産性研究の第1人者です。本書は、一般社団法人日本経済研究所の特別研究「社会の未来を考える」の一環として企画された「豊かさの基盤としての生産性を考える」シリーズの研究成果を取りまとめており、出版社からの容易に想像される通り、本格的な学術書と考えるべきです。各チャプターは一線の経済学研究者が担当しています。序章や終章のエディトリアルを別にして、3部8章から構成されています。日本では賃金の停滞が長らく続いており、その根本的な要因が生産性の停滞であると指摘されてからも長い期間が経過しています。本書の根本的な問題意識として、まず、政府のいわゆる産業政策が高度成長期における成長産業の育成や資本や労働の円滑な成長産業への移転を目指すものから、今では衰退産業の維持に多くの資源が費やされてきた、と指摘しています。すなわち、石油に代替されようとしていた石炭産業とか、途上国からの追上げを受けていた繊維産業などを念頭に置いています。加えて、生産性向上によってもたらされるはずの豊かさのイメージが拡散して共有されなくなった、とも指摘しています。単なる所得の向上だけではなく、いわゆるウェルビーイングの観点からも生産性を考える必要を強調しているわけです。そういった観点から、本書では、生産性に直接関係するマクロ経済だけではなく、産業構造や企業行動といったマイクロな経済学の対象とされるような企業や産業の動向、あるいは、労働や雇用といった人的資本などの幅広い観点から生産性に関する分析を行っています。特に、現在の日本経済では人口減少と高齢化が経済成長の阻害要因となっている点は明白ですから、生産性向上のためにIT技術にとどまらずにAIの活用によるデジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、研究開発(R&D)投資の促進やオープンイノベーションの推進などの政策課題も分析し、さらに、企業の内部留保の活用まで幅広く企業活動を分析の対象としています。加えて、労働の観点からは、当然のように、女性や高齢者の雇用拡大に向けた政策課題も分析の対象となっています。もちろん、日本国内での閉じた動向だけではなく、国際比較の観点から日本経済の課題も浮き彫りにするよう試みられています。繰り返しになりますが、マクロ経済学的な分析にとどまらず、マイクロな企業活動の分析にも十分留意されています。基本的には学術書であると考えるべきですが、部分的には実務的なビジネスパーソンにも参考となる可能性もあります。ただ、やや気の長いお話が多くて、即効的な効果を期待するべきではない、という気もしました。もちろん、詳細は読んでいただくしかありません。

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次に、額賀澪『天才望遠鏡』(文藝春秋)を読みました。著者は、小説家であり、本書はデビュー10周年記念作品だそうです。タイトル通りに、天才を観察する形の連作短編集であり、5話を収録しています。収録順に各短編のあらすじを取りまとめると、「星の盤側」では、すべての短編に登場するフリーカメラマンの多々良が、玉松書房のスポーツ雑誌「ゴールドスピリット (略して、ゴルスピ)」の編集部を訪れるところから始まります。多々良は新しく就任した女性の小倉香菜編集長から、「将棋をスポーツとして撮る企画」として、藤井聡太を上回る史上最年少でプロ入りした中学生棋士の明智昴の初対局の撮影を依頼されます。対局相手は、かつての天才中学生棋士だった座間隆嗣で、今は多々良と同い年だったりします。「妖精の引き際」では、可憐なフィギュアスケート選手であり、冬季オリンピックで金メダルにも輝いた萩尾レイナが、かつていっしょにスケートを習っていた2歳年上の野森律をパリに訪ね、今ではすっかりスケートから遠のいた幼馴染と引き際について考えます。「エスペランサの子供たち」では、貧困家庭のための無料塾に通っている中学生の天羽勇仁が、カラオケの歌で無料塾の講師から才能を見出され、オーディションに挑戦することになります。貧困から抜け出せる可能性がありつつ、家族に反対されたり、同じような境遇にいた親友との関係に悩みます。「カケルの蹄音」では、スポーツ強豪の農業高校に陸上選手として推薦入学した志木翔琉がケガで競技を断念した後、目標を失ってだらけた生活を送るのですが、担任で馬術部顧問の教師の指導で引退した競走馬ズットカケルと出会い、自分の居場所や再生の糸口を探ります。「星原の観測者」では、同期で新人賞を受賞してデビューした釘宮志津馬と星原イチタカの2人の作家が登場し、社会性や社交性に欠けるものの釘宮は大人気作家として成功する一方で、星原は地味ながら忠実に仕事をこなす中堅作家として活動を続ける中、釘宮の作品が直木賞候補に入り、2人で飲んだ帰りに星原が事故で亡くなったため、釘宮は星原の母が経営するペンションを出版社の編集者とともに訪れます。あらすじには明記しませんでしたが、もう一度確認で、すべての短編にカメラマンの多々良が何らかの形で登場ないし言及されます。その意味で連作短編集といえます。順調に歩みを進める天才とともに、かつては天才だったもののやや輝きを失いつつある元天才も数多く登場し、才能のあるなしや運のよしあしなどについて、さまざまな観点から天才観測の結果を示し、なかなかに味わい深い短編集に仕上がっています。

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次に、中野剛志『基軸通貨ドルの落日』(文春新書)を読みました。著者は、本書のご紹介では評論家となっています。私の記憶が正しければ、経済産業省にお勤めのキャリア公務員ではないかと思います。ひょっとしたら、すでにお辞めになったのかもしれません。本書では、米国トランプ大統領の関税政策などのトランプ・ショックについて考えています。それを基軸通貨制をキーワードに読み解こうとしているわけです。ですので、冒頭の第2章で、通貨について考え、商品貨幣論を廃して信用貨幣論の立場を鮮明にし、ついでに機能的財政論も議論し、さらに第3章では基軸通貨制の特徴のひとつとして通貨の階層秩序を考えています。現代貨幣理論(MMT)的な通貨理論に基本を置いているといえます。通貨の階層秩序については、日本をはじめとする先進国のように、交換可能性の高いハードカレンシーを持つ国と違って、途上国などの場合は自国通貨よりも国際取引で用いられる、というか、輸入の際の支払いに用いられる基軸通貨の方がローカルな自国通貨よりも階層において上に位置するハイアラーキーがあり得ることを示しています。こういった通貨に関する議論を踏まえて、経済が輸出を軸に成長する輸出主導国と債務を軸に成長する債務主導国に分類される点を明らかにしています。前者の典型は中国であり、かつての日本やドイツもそうであったわけです。後者の典型が米国となるわけです。したがって、中国のような輸出主導国が貿易黒字になる一方で、米国のような債務主導国が赤字を出す国際的な不均衡が生じると指摘しています。その米国からの貿易赤字に伴う通貨流出に対して、関税政策を主要な政策手段として用いつつ、基軸通貨であるドルの地位の操作を通じて、不均衡是正を試みているのが現在の米国の通商政策である、という結論です。その結論に付随して、暗号資産やデジタル通貨なども視野に入れつつ、今後の世界経済が多極化し通貨秩序の再編につながる可能性を議論しています。ですので、ドルの基軸通貨制が終焉する可能性も見据えて、その際に生じる可能性のある危機的状況などへの目配りもなされています。ただ、私はもっとも注目すべき点は同種の新書である齋藤ジン『世界秩序が変わるとき』と対比して、本書ではトランプ政権は新自由主義的な政策を取っている、と結論している点です。齋藤ジン『世界秩序が変わるとき』は真逆の結論であり、トランプ政権は新自由主義から脱却し、したがって、日本経済は周回遅れでキャッチアップする可能性がある、という結論です。トランプ政権は新自由主義的な政策を採用している、という本書の方が圧倒的に正しいと私は受け止めています。そのあたりの詳細は、本書をお読みいただくしかありません。

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次に、齋藤ジン『世界秩序が変わるとき』(文春新書)を読みました。著者は、在ワシントンの投資コンサルティング会社共同経営者だそうです。ニューヨークではなくワシントンだそうで、私はこの著者の本は初めて読みます。ハッキリいって、知らない著者の本でタイトルは興味あるタイトルながら、詳細は忘れてしまったものの、どこかの経済週刊誌でエビデンス不足との書評を、たぶん、3月か4月くらいに見た記憶もあり、半ば無視していたのですが、世間的に話題になっているようなので読んでみた次第です。ただ、なかなかに難しい感想です。まず、同じ文春新書で出版されている中野剛志『基軸通貨ドルの落日』では、米国のトランプ政権の経済政策は新自由主義に基づいていると結論していますが、本書は真逆の見方であり、トランプ政権は新自由主義的な経済政策とは異なる政策を実行しようとしている、と見ています。すなわち、我が国も含めた本書の経済観を大雑把に示すと、日本の失われた20年とか30年とかは、新自由主義的な政策を採用せずに雇用を維持するために賃金引上げを犠牲にし、同時に、企業の効率性も雇用維持のために犠牲にして悪化させた結果である、という指摘です。しかし、米国が新自由主義を放棄したトランプ政権の経済政策に至って、ゲームのルールが変更されたり、あるいは、世界の経済秩序が再編されたりする中で、日本も周回遅れで世界経済にキャッチアップする可能性、というよりも、再逆転できるチャンスが出てきた、という点を強調しています。いわゆる「大きな政府」の利点が再確認され、新自由主義的な制度や思想が大いに変更される可能性があり、多元的な制度の可能性を見出しているわけです。そういった新自由主義の終焉をトランプ政権の関税政策、あるいは、英国のブレグジット、大陸欧州のポピュリズムの台頭、そして、ロシアのウクライナ侵攻などから読み取ろうと試みています。要するに、本書のエッセンスはそれだけであり、残りは著者の自慢話とかで埋め尽くされています。投資家向けに書いたリポートでいろんな動きを予言して予測がよく当たった、などです。ディスクローズされていないそういった情報を本書で示されても確認のしようがなく、私は眉に唾つけて読み進んでいました。ということで、繰り返しになりますが、私はエコノミストとして明らかに現在のトランプ政権の経済政策は新自由主義的であると考えています。本書がトランプ政権が「脱新自由主義」であると結論している点について、私も経済週刊誌の書評と同じように根拠を発見できなかったのですが、少なくとも、DOGEによる連邦政府への対応については、まったくその昔のレーガン政権と同じものを感じます。現時点で、新年度予算が成立せずに政府機能がシャットダウンしていますが、この先のトランプ大統領の政府に対する行動を見れば、さらに、新自由主義的な動きを発見することができると私は考えています。ですので、新自由主義が放棄されて、あるいは、それにより日本経済が復活する、ましてや、再逆転する可能性は小さいと思っています。

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次に、山下一仁『コメ高騰の深層』(宝島社新書)を読みました。著者は、農林水産省勤務の公務員ご出身で、現在はキャノングローバル戦略研究所の研究主幹、経済産業研究所の上席研究員(特任)だそうです。本書では、昨秋からのコメ価格の高騰に際して、さまざまな観点から農政を批判し、現状の解説を試みています。表紙画像のサブタイトルにあるように、まあ、何と申しましょうかで、JA=農協を悪役に祭り上げるように試みられています。まず、コメ価格高騰の原因として政府/農水省が持ち出したり、世間で考えられたりした原因、すなわち、インバウンド消費の増加、南海トラフ地震に備えた買占め、といった需要サイドの要因、また、流通の目詰まりなどを否定します。はい、これについては私も同意します。価格が変動する要因は需要サイドか供給サイドのどちらかにあるわけで、需要サイドの原因は可能性が低いと考えるべきです。ですので、供給サイドの原因、それも単なる流通の目詰まりではなく、生産量の減少が原因と考えるしかありません。ただ、本書では、この供給=生産不足について、減反政策がJAという生産者の圧力によって維持されてきていると主張しています。私も一定の部分は合意し、加えて、減反政策は安倍内閣で廃止という結論が出たにもかかわらず、実際上は継続されていた、という見方にも賛成なのですが、それではなぜ昨秋からここまで急速なコメ価格高騰が生じたのか、という説明には何かが不足するような気がします。したがって、ピンポイントで昨秋、というか、2025米穀年度の終了間際にコメ価格が高騰、きわめて大幅な上昇を見せた要因は本書では十分に解明されていない恨みがあります。また、コメ価格の先行き見通しについても来年2026年秋まで解消しない、という見方についてもややエビデンスに欠けていて、現状維持バイアスを感じます。また、さらに先を見据えた農政改革についても、実際的な面も含めた減反廃止はいいとしても、主要農家への耕作地集積とその主要農家への直接支払制度については、どこまで効果があるのか、決して十分な論証がなされているようには見えません。もちろん、専門外の私の見方が浅いだけかもしれませんが、実際に、本書の方策を取るには具体的にどうすればいいのかについて、もっとある説得的な議論が必要ではないか、という気がします。

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2025年10月 3日 (金)

ジワジワと悪化する8月の雇用統計

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも8月の統計です。雇用統計のヘッドラインは、失業率は前月から+0.3%ポイント上昇して2.6%、有効求人倍率も前月から▲0.02ポイント悪化して1.20倍を、それぞれ記録しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

8月の完全失業率2.6%、5カ月ぶり上昇 有効求人倍率は1.20倍
総務省が3日発表した8月の完全失業率(季節調整値)は2.6%で、前月と比べて0.3ポイント上昇した。上昇は5カ月ぶり。より良い条件を求めて離職する動きが増えているもようだ。厚生労働省が同日発表した8月の有効求人倍率(同)は1.20倍で、前月から0.02ポイント低下した。低下は2カ月ぶり。物価高や省力化投資などで求人を控える動きがある。
完全失業者数(同)は179万人で前月より9.1%増えた。このうち自己都合による「自発的な離職」が9万人増加した。離職して好条件での職探しをする動きが増えていると総務省の担当者は説明する。倒産や定年といった「非自発的な失業」は7万人増えた。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人について、1人あたり何件の求人があるかを示す。有効求人数は1.0%減った。有効求職者数は0.7%増えた。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月と比べて6.2%減った。主要産業別でみると、生活関連サービス・娯楽業が16.1%減、卸売・小売業が12.7%減だった。卸売・小売業は前年に大口の求人があり、反動による落ち込みがみられた。
厚労省の担当者は「最低賃金の引き上げに向けた対応を検討するために求人を控える動きも一部であった」と話す。

長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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ロイターによる事前予測調査では、失業率が前月から+0.1%ポイント悪化の2.4%、有効求人倍率は前月から横ばいの1.22と予想されていましたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、失業率が2.4%有効求人倍率は1.22倍でした。本日公表された実績で、失業率2.6%、有効求人倍率1.20倍はともに、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの下限を超えて悪化し、ちょっとしたサプライズと受け止められている印象です。ただし、人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率・有効求人倍率ともに、通常の景気後退局面のような急速な悪化ではなく、その意味では、雇用の底堅さを示す水準が続いているように見えます。何といっても、失業率はまだ2%台半ばですし、有効求人倍率は1を超えています。
総務省統計局の労働力調査の季節調整していない原系列の統計で詳しく見ると、失業者数は前年同月から+7万人増加しているのですが、引用した記事にもあるように、そのうち自己都合による自発的な離職が+6万人増となっており、勤め先や事業の都合による+2万人を大きく上回っており、よりよい転職先を探しての離職の動きと見ることもできます。ただし、雇用の先行指標である新規求人についても、これも季節調整していない原系列の厚生労働省の統計を産業別に詳しく見ると、前年同月に比べて2ケタの減少を示しているのが、生活関連サービス業、娯楽業の▲16.1%減、卸売業、小売業の▲12.7%減、宿泊業、飲食サービス業の▲10.7%減となっています。卸売業、小売業の減少は前年からの反動と説明されているようで、いくぶんなりとも、ほかはインバウンド観光客の停滞に起因する部分もあるように見受けられますが、引用した記事の最後のパラにあるような最低賃金の引上げの影響がどこまであるのかは私には不明です。

最後に、繰り返しになりますが、本日公表された雇用統計を総じて見ると、いつまでも雇用の改善が続くわけではないながら、一気に悪化する従来の景気後退局面とは異なるように見えます。

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2025年10月 2日 (木)

今シーズンの最終戦を終える

  RHE
ヤクルト000100100 250
阪  神10302000x 690

【ヤ】青柳、田口、木澤、清水、大西、 - 古賀
【神】村上、畠、岩貞、湯浅 - 坂本、原口、梅野

今シーズン最終戦でヤクルトに勝利でした。
個人タイトルのお話は後回しにして、原口選手の引退試合でした。最終打席ではセンターへのいい当たりで、最終回は打者1人だけでしたが、マスクをかぶってキャッチャーのポジションにもつきました。
個人タイトルは、何といっても、佐藤輝選手が40ホーマー、102打点とともに大台に乗せての二冠です。三振王まで含めていいのであれば三冠かもしれません。村上投手は奪三振に加えて、勝利数と勝率の三冠です。防御率はすでにお休みに入っている才木投手、出塁率は大山選手盗塁は近本選手といずれもリーグ優勝に華を添えています。主要タイトルでは、リーディングヒッターの打率こそ広島の小園選手に譲りそうですが、ぶっちぎりでリーグ優勝できる戦力であることが証明されたといえます。また、個人タイトルではありませんが、石井投手は連続試合・連続イニング無失点記録を来シーズンに向けて続けています。

クライマックスシリーズと日本シリーズも、
がんばれタイガース!

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小幅な上昇となった9月の消費者態度指数

本日、内閣府から9月の消費者態度指数が公表されています。9月統計では、前月から+0.4ポイント上昇して35.3を記録しています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

消費者態度指数9月は2カ月連続改善、生鮮食品価格の上昇一服が寄与か
内閣府が2日に発表した9月消費動向調査によると、消費者態度指数(2人以上の世帯・季節調整値)は前月比0.4ポイント上昇の35.3と2カ月連続で改善し、昨年12月以来の水準となった。基調判断は6月以来4カ月連続で「持ち直しの動きがみられる」とした。
消費者態度指数を構成する4つの意識調査のうち「暮らし向き」と「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」が改善、「収入の増えから」は横ばいだった。
内閣府では「生鮮食品の上昇一服が物価見通しなどに影響した可能性がある」とみている。
1年後の物価が上昇するとの回答比率は93.4%で前月と同水準だった。物価上昇幅の見通しについて、2%未満との回答は8月より増え、5%以上との回答は8月より減った。

いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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消費者態度指数を構成する4項目の指標について前月差で詳しく見ると、「耐久消費財の買い時判断」が+0.8ポイント上昇して28.8、「雇用環境」が+0.6ポイント上昇して39.9、「暮らし向き」が+0.5ポイント上昇し33.2、「収入の増え方」だけが前月から横ばいで39.4と、消費者態度指数を構成する4項目のうち3項目が上昇しました。統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。6月統計で従来の「弱含んでいる」から、「持ち直しの動きがみられる」に1ノッチ上方修正してから、本日公表の9月統計まで4か月連続して「持ち直しの動きがみられる」の判断です。私が従来から主張しているように、いくぶんなりとも、消費者マインドは物価上昇=インフレに連動している部分があります。総務省統計局による消費者物価指数(CPI)のヘッドライン上昇率は今年2025年に入ってから1月+4.0%をピークに徐々に低下を続けており、6月+3.3%、7月+3.1%につづいて、直近の8月ではとうとう+3%を下回って、+2.7%まで減速しています。依然として日銀物価目標の+2%を上回っていますが、やや落ち着いてきた印象もあります。インフレとデフレに関する消費行動は、1970年代前半の狂乱物価の時期は異常な例としても、1990年代後半にデフレに陥る前であれば、インフレになれば価格が引き上げられる前に購入するという消費者行動だったのですが、バブル経済崩壊後の長い長い景気低迷機を経て、物価上昇により消費者が買い控えをする行動が目につくように変化したのかもしれません。こういった消費者行動の経済分析が必要だという気がしています。
また、物価上昇に伴って注目を集めている1年後の物価見通しは、5%以上上昇するとの回答がまだ49.2%を占めていますが、今年2025年4月には60%に達していたことを考えれば、少し割合が低下してきたことは事実です。他方で、2%以上5%未満物価が上がるとの回答が34.0%に上っており、これらも含めた物価上昇を見込む割合は93.4%と高い水準が続いています。加えて、引用した記事の最後のパラにも現れているように、物価上昇予想は上昇率の高い方へのシフトが解消されつつあります。これも、最近の物価統計などで実績としてのCPI上昇率が加速している影響が現れている可能性が高いと考えるべきです。

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今年の論文を書き上げる

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紀要論文 "How Tourism Promotes Economic Development: A Case of Cambodia" を書き上げて提出しておきました。60歳で公務員を定年退職して、郷里の関西に戻って立命館大学経済学部の教員に再就職し、年1本だけ夏休みに学術論文を書いています。今年の分が出来上がったわけです。Summaryは以下の通りです。

Summary
After the independence from France, the Khmer Rouge's radical collectivization policies fallen Cambodia's society and economy down into a deep turmoil. Ending the civil war, Cambodia has recovered peace by the Paris Peace Agreement and began economic growth. However, the current Cambodia's economic stage is not so high compared with other Asian countries. Since the Angkor Site was inscribed as World Heritage by UNESCO in 1992, Cambodia's tourism resources are attracting attention and expected to boost growth. This study explores Cambodia's history and current economic situation and reviews tourism-promoting policies of both Cambodia's government and international organizations such as the Asian Development Bank (ADB) and the World Bank from the perspective of development economics. And the paper attempts an empirical analysis to evaluate tourism in Cambodia. Conclusion of the study indicates: 1) Cambodia has been failing to utilize the tourism for poverty alleviation; 2) the leapfrogging development is not always recommendable; and 3) even considering the tourism as growth engine, among many types of the special interest tourism (SIT), the gambling and the prostitution/sex trafficking are not eligible as a tourism resource.

今夏の論文は為替にしようと思っていたのですが、いろいろと経緯があって、決してレベルの高くない観光経済学の論文を書く必要に迫られて、わずか2-3週間ほどで書き上げました。今さら、観光収入、特にインバウンドの観光収入が経済開発や成長に寄与していることは明らかですから、その関係を数量分析しても仕方ないので、ターゲットをカンボジアにしてアンコール遺跡群に着目した上で、私らしい結論を3点引き出しています。英語のサマリーにもありますが、以下の通りです。
1) Cambodia has been failing to utilize the tourism for poverty alleviation;
カンボジアは観光を貧困削減に利用できていない。
2) the leapfrogging development is not always recommendable;
1次産業中心から製造業の2次産業をすっ飛ばして、観光などの3次産業中心の経済に至るリープフロッグ型の経済開発は必ずしもお勧めできない。
3) even considering the tourism as growth engine, among many types of the special interest tourism (SIT), the gambling and the prostitution/sex trafficking are not eligible as a tourism resource.
観光が成長のエンジンとなるとしても、特別な目的に絞った旅行=SITのうちで、ギャンブルと売春/性売買については観光資源として適格ではない。

最後の点について、私の論文では、特別な目的に絞った旅行=SITすべてを否定しているわけではありません。例えば、大リーグ観戦などのスポーツ観戦ツアーや日本でも受け入れているスキーを楽しむスポーツ実行ツアー、健康診断や治療を目的とするメディカル・ツアー、美術館を巡るアート・ツアー、もちろん、大自然を満喫するナチュラルワンダー・ツアーなどなど、SITにもいろんな種類があります。そのSITの中で、ギャンブルと売春/性売買は観光資源として適格ではない、という結論を導いています。まあ、メディカル・ツアーの中でも途上国の貧困層からの臓器売買を促進しかねないようなものは、ほぼほぼギャンブルや売春/性売買とご同様なのですが、そこまでは詳細な議論を展開しているわけではありません。その意味でも、やや低レベルの論文であるという事実は自覚しています。
割合と短期で仕上がったのは、大いにAIを活用したからです。どのように活用したかというと、ネット検索に代替して主として参考文献のリストアップでした。例えば、「観光経済学の学術論文の中で、ギャンブルに対する否定的な結論を導いているものを5本リストアップする」とかで、ネット検索よりもずいぶんと的確にリストアップしてくれました。当然、ネットにあるそういった論文へのリンクも示してくれて、リストアップしてくれた論文をpdfで入手した上で、私の方でサマライズしています。AIにサマライズさせてそのままコピー&ペーストするのは、少しだけ気が引けました。そのうちに、AIがさらに進化すれば、私のやっているレベルの論文なんて、適当にプロンプトすれば、AIが何から何まで全部やってくれそうな気がします。それは、それで怖い未来かもしれません。

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2025年10月 1日 (水)

大企業製造業の業況判断DIが2期連続で改善した9月調査の日銀短観

本日、日銀から9月調査の短観が公表されています。日銀短観のヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは6月調査から+1ポイント改善して+14、他方、大企業非製造業は横ばい+34となりました。また、本年度2025年度の設備投資計画は全規模全産業で前年度比+8.4%増と、3月調査の+6.7%増から上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

大企業製造業の景況感、2四半期連続の改善 日銀9月短観
日銀が1日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)で、大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)は、前回2025年6月調査(プラス13)から改善しプラス14だった。2四半期連続で改善した。
大企業非製造業の景況感は横ばい、プラス34
大企業非製造業の景況感は6月から横ばいのプラス34だった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」の割合を引いた値。9月調査の回答期間は8月27日~9月30日で回答率は99%だった。9月10日までにおおむね7割の回答があったという。
日米関税交渉が合意に達して以来、初めての短観となった。民間エコノミストの予想では、大企業製造業は改善、大企業非製造業は小幅悪化を見込んでいた。
大企業製造業では、日米の関税交渉の進展による不確実性の低下や、コスト高を販売価格に転嫁する動きの広がりが景況感の改善に寄与した。
業種別にみると、自動車が2ポイント改善しプラス10となった。トランプ米大統領は9月4日に日本に課した25%の自動車向け追加関税の税率を12.5%に下げる大統領令に署名し、同16日から適用が始まった。はん用機械も4ポイント改善しプラス27になった。
一方、トランプ政権の関税政策をめぐっては品目別の関税が広がりをみせ、米国に敵対的とみなす国々への税率引き上げも続く。日本企業には世界経済の減速など悪影響を懸念する声も根強い。
鉄鋼は11ポイント悪化しマイナス14、紙・パルプが3ポイント悪化の26となった。日銀の担当者は「米国の通商政策が景況感の改善と悪化の両方向の要因と指摘する声が聞かれた」と話した。
インバウンドの需要鈍く
大企業非製造業では、価格転嫁の進展がみられた一方、インバウンド(訪日外国人)の需要の鈍化や、物価高による消費の落ち込みが重荷となった。宿泊・飲食サービスは19ポイント悪化のプラス26となった。
先行きでは製造業が2ポイント悪化のプラス12、非製造業は4ポイント悪化のプラス28を見込む。関税による需要の落ち込みのほか、人件費の上昇や物価高による消費の減速が懸念材料としてあがる。
企業の物価見通しは全規模全産業で1年後は前年比2.4%、3年後は2.4%と前回調査から横ばいだった。5年後は2.4%と0.1ポイント上方修正された。
企業の事業計画の前提となる25年度の想定為替レートは全規模全産業で1ドル=145円68銭だった。前回調査は145円72銭で、円高方向に修正された。
日銀は経済・物価情勢をみながら追加利上げの機会を探っている。今回の短観はおおむね市場の事前想定通りの結果になり、少なくとも利上げを妨げる要因にはならないとの声が出ている。

いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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一昨日、日銀短観予想を取りまとめた際にも書いたように、業況判断DIに関しては、製造業・非製造業ともにおおむね横ばい圏内ながら、ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは小幅に改善、との予想が緩やかなコンセンサスであったと私は考えています。例えば、私が見た範囲で、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、ロイターによる市場の事前コンセンサスでも、大企業製造業が前回6月調査から+2ポイント改善の+15と予想されていました。本日公表された大企業製造業の景況判断DIの+14という実績は、横ばい圏内の動きという意味でも、動きの幅のマグニチュードでも大きなサプライズはありませんでした。ただ、大企業製造業の業況判断指数DIの改善幅が+2ではなく+1だった点、さらに、悪化すると見込まれていた大企業非製造業の業況判断指数DIが横ばいであった点を総合的に考える必要があります。何度か同じことを繰り返しましたが、米国との関税交渉が決着したので先行き不透明感が払拭されて、足元の業況判断指数DIは上向いた一方で、それにしても、米国の関税率が以前からは引き上げられているので、先行きの景況感は下向き、ということです。
業種別に少し詳しく足元の景況判断DIを見ると、基本的に引用した記事の通りながら、大企業製造業では、素材業種が前期から+12のままで横ばいであったのに対して、加工業種は+13から+15にやや改善しています。中でも、トランプ関税との関係で注目され、我が国リーディングインダストリーのひとつである自動車は前回調査から+2ポイント改善の+10となりましたが、先行きは▲2ポイント悪化すると見込まれています。はん用機械が+4ポイント改善して+25、造船・重機等も+9ポイント改善して+32,といったところが加工業種で見られます。他方、素材業種では、鉄鋼が▲11ポイント悪化して▲14、石油・石炭製品も▲9ポイント悪化の0などとなっています。景況感に関しては 鉱工業生産指数(IIP)や商業販売統計などを見る限り、概ねハードデータとソフトデータの整合性は十分あるような気がします。ただ、トランプ関税は決着したものの、国内景気や海外の地政学的要因などに起因して先行き不透明感は大きく、景況感についても、製造業・非製造業おしなべて大企業・中堅企業・中小企業ともに先行きは悪化すると予想されています。

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続いて、設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。経済学における生産関数のインプットとなる資本と労働の代理変数である設備と雇用人員については、方向としては過剰感がほぼ払拭されました。特に、雇用人員については足元から目先では不足感がますます強まっている、ということになります。グラフを見ても理解できる通り、大企業・中堅企業・中小企業ともコロナ禍前の人手不足感を上回っています。今春闘での賃上げが高水準だった背景でもあります。ただし、何度もこのブログで指摘しているように、名目賃金が物価上昇以上に上昇して、実質賃金が安定的に上向くという段階までの雇用人員の不足は生じているかどうかに疑問があり、その意味で、本格的な人手不足かどうか、賃金上昇を伴う人手不足なのかどうか、については、まだ、私は日銀ほどには確信を持てずにいます。すなわち、不足しているのは低賃金労働者であって、賃金や待遇のいい decent job においてはそれほど人手不足が広がっているわけではない可能性がある、と私は想像しています。加えて、我が国人口がすでに減少過程にあるという事実が、かなり印象として強めに企業マインドに反映されている可能性があります。ですから、マインドだけに不足感があって、経済実態として decent job も含めた意味で、どこまでホントに人手が不足しているのかは、私にはまだ謎です。実質賃金、すなわち、名目賃金が物価上昇に見合うほど上がらないために、そう思えて仕方がありません。特に、雇用については不足感が拡大する一方で、設備については不足感が大きくなる段階には達していません。要するに、繰り返しになりますが、低賃金労働者が不足しているだけであって、外国人を含めて低賃金労働の供給があれば、生産要素間で代替可能な設備はそれほど必要性高くない、ということの現れである可能性が十分あるのではないかと感じます。

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続いて、設備投資計画のグラフは上の通りです。規模別に見ると、大企業が6月調査の+11.5%増から上方修正されて+12.5%増、そして、中堅企業も+3.4%増から上方修正されて+5.6%増、中小企業でも▲5.6%減から減少幅が縮小してされて▲2.3%減と、人手不足を設備投資による資本ストック増で要素間代替を試みるような動きが観察されます。大企業に比べて規模の小さい企業での雇用増を図ることが厳しく、設備投資で代替させようとの動きと私は受け止めていますが、中小規模の企業は現時点ではまだマイナス計画です。いずれにせよ、日銀短観の設備投資計画のクセとして、年度始まりの前の3月時点ではまだ年度計画を決めている企業が少ないためか、3月調査ではマイナスか小さい伸び率で始まった後、6月調査で大きく上方修正され、景気がよければ、9月調査ではさらに上方修正され、さらに12月調査でも上方修正された後、その後は実績にかけて下方修正される、というのがあります。今回の6月調査では全規模全産業で+6.7%増の高い伸びが計画されています。当然jのように、3月調査よりも上積みされています。デジタルトランスフォーメーション(DX)だけでなく、カーボンニュートラルを目指したグリーントランスフォーメーション(GX)、さらに、グローバリゼーション=国際化などに対応した投資がいよいよ本格化しなければ、ますます日本経済が世界から取り残される、という段階が近づいているような気がして、設備投資の活性化を期待しています。ただ、GDPベースの設備投資やその先行指標である機械受注などのハードデータと日銀短観に示されたソフトデータの間でまだ不整合があるような気がします。計画倒れにならないことを願っています。

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