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2025年10月15日 (水)

国際通貨基金(IMF)「世界経済見通し」IMF World Economic Outlook 第1章を読む

日本時間の昨夜、世銀・IMF総会に合わせて、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し」World Economic Outlook, October 2025 が公表されています。サブタイトルは Global Economy in Flux, Prospects Remain Dim となっており、決して楽観的な見通しではないことは示されています。すでに、分析編の第2章と第3章は先週の段階で取り上げましたので、リポートの眼目である第1章の見通しに着目したいと思います。まず、ヘッドラインとなる成長率見通しのテーブルをIMFのサイトから引用すると下の通りです。

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世界経済の成長率は、昨年2024年実績が+3.3%の後、今年2025年+3.2%、来年2026年+3.1%と徐々に減速すると見込まれています。ただし、前回見通しからは世界経済の成長率は+0.2%ポイント上方修正されています。なお、日本の成長率見通しは、今年2025年が+1.1%と、前回見通しから+0.4%ポイント上方修正されており、来年2026年も+0.6%と+0.1%ポイントの上方修正となっています。
いろんな要因が世界経済の成長率見通しの背景にはあるわけですが、もっとも注目されているのは何といっても米国の通商政策、トランプ関税です。最近も、中国のレアアース輸出規制に対抗する形で100%の追加関税を貸したと報じられました。ただ、これは今回のIMF見通しには反映されていないようです。こういった政策の不透明感や不確実性が成長を抑制するルートとして、リポート冒頭の p.5 では、リアル・オプション理論に基づく投資の先送りが生ずる可能性と予防的行動(precautionary behavior)による貯蓄増加と消費抑制を上げています。

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今回の見通しでは中期見通しにも目を配っており、具体的な成長率やインフレ見通しの計数は明らかにしていませんが、米国トランプ政権の政策の影響をいくつか議論しています。ひとつは国際開発援助(ODA)です。トランプ政権が米国国際開発庁(USAID)を廃止し、ODA縮小の方向に舵を切ったことにより、発展途上国の中では政府歳入に事欠く国も出る可能性すらあります。引用はしませんが、p.91 Figure 1.16. Official Development Assistance, Revenues, and Interest Burden でそのあたりの国をいくつか示しています。また、日本や欧米の先進国も含めて、移民政策、というか、移民制限により、先進国では労働力不足が生じる可能性があり、途上国では本国送金(remittances)が細る可能性もあります。上のグラフはリポートから Figure 1.17. Migrant Stock and Remittances を引用しています。繰り返しになりますが、先進国(AEs)では移民受入れが減少することによる労働供給ショックが、途上国では移民が稼いだ本国送金が減少するショックがあり得る、という結論です。明示的に、米国では移民政策の変更により労働供給が減少し、年間GDPが0.3%から0.7%の減少となる "In the United States, the new immigration policies could reduce the country's GDP by 0.3 percent to 0.7 percent a year" と p.20 で指摘しています。

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さらに、現在のAIブームについても下方リスクに転じる可能性を指摘しています。上のグラフは IMB Blog から AI investment surge in the US reminiscent of dot-com boom, could pause risks と題するグラフを引用しています。リポートでは、p.21 において、AIブームがもし崩壊すれば、2000-01年のドットコムバブルの崩壊に匹敵するほどの深刻さを示す可能性がある "A potential bust of the AI boom could rival the dot-com crash of 2000-01 in severity" と結論しています。

最後に、政策対応のうち、金融政策のセクションのタイトルは "Monetary Policy Priorities: Tailored, Transparent, Independent" すなわち、個別対応、透明性、独立性が金融政策の優先事項であると明示し、中央銀行の政府からの独立性をおびやかしかねない現在のトランプ政権の米国連邦準備制度理事会(FED)の理事人事介入について暗黙の批判を展開せんと試みているような気がします。

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