観光で雇用は増加するのか
観光による雇用の増加に関して、スペインの地域労働市場を分析した "Do More Tourists Promote Local Employment?" と題する論文が明らかにされています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。
次に、論文のAbstractをジャーナルのサイトから引用すると下の通りです。
Abstract
We analyze the impact of tourist flows on local labor markets, following a novel identification strategy that uses temporary shocks in alternative international destinations to instrument for tourism flows across Spanish regions. We find that a one standard deviation increase in tourist inflows leads to a 1 percentage-point increase in employment in the tourism industry and in other services, but it does not increase total employment, labor force participation, or wages in local economies. Instead, the positive impact on services is compensated by a fall in employment in other industries, most notably manufacturing.
要するに、スペインでは観光客の流入が増えると、観光産業や関連の産業で雇用が増加するのは確かなのですが、その地域経済における総雇用、労働参加率、賃金は増加しない、すなわち、雇用がシフトするだけ、という結論です。特に、製造業雇用が減少して相殺されるということのようです。
上のグラフは、論文からFigure 10: Dynamic effect of shocks to alternative destinations on sector-specific employment を引用しています。
グラフを見れば、観光客流入と地域雇用の双方において、ショック前には特段のトレンドが見られません。代替目的地におけるテロ攻撃=terrorist attacks in alternative destinations へのエクスポージャーの増加というショックの発生時期は、当該四半期におけるスペイン各州における観光客流入の増加時期と一致しているのが見て取れます。そして、ショックが発生した四半期では、観光関連の雇用が増加し、他の産業の雇用の減少をほぼ反映しており、総雇用への影響は実質的にゼロとなっていることが確認できるとおもいます。要するに、他の観光地にテロが起これば、代替観光地に観光客が流入し、そこでは観光産業の雇用が増加しますが、純増ではなく他産業、特に、製造業からのシフトで観光産業の雇用が増加するだけ、という結論です。したがって、我が国インバウンド観光の増加も雇用の純増をもたらしているかどうかは疑わしい、という含意かもしれません。
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