ジワジワと悪化する8月の雇用統計
本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも8月の統計です。雇用統計のヘッドラインは、失業率は前月から+0.3%ポイント上昇して2.6%、有効求人倍率も前月から▲0.02ポイント悪化して1.20倍を、それぞれ記録しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。
8月の完全失業率2.6%、5カ月ぶり上昇 有効求人倍率は1.20倍
総務省が3日発表した8月の完全失業率(季節調整値)は2.6%で、前月と比べて0.3ポイント上昇した。上昇は5カ月ぶり。より良い条件を求めて離職する動きが増えているもようだ。厚生労働省が同日発表した8月の有効求人倍率(同)は1.20倍で、前月から0.02ポイント低下した。低下は2カ月ぶり。物価高や省力化投資などで求人を控える動きがある。
完全失業者数(同)は179万人で前月より9.1%増えた。このうち自己都合による「自発的な離職」が9万人増加した。離職して好条件での職探しをする動きが増えていると総務省の担当者は説明する。倒産や定年といった「非自発的な失業」は7万人増えた。
有効求人倍率は全国のハローワークで職を探す人について、1人あたり何件の求人があるかを示す。有効求人数は1.0%減った。有効求職者数は0.7%増えた。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月と比べて6.2%減った。主要産業別でみると、生活関連サービス・娯楽業が16.1%減、卸売・小売業が12.7%減だった。卸売・小売業は前年に大口の求人があり、反動による落ち込みがみられた。
厚労省の担当者は「最低賃金の引き上げに向けた対応を検討するために求人を控える動きも一部であった」と話す。
長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。

ロイターによる事前予測調査では、失業率が前月から+0.1%ポイント悪化の2.4%、有効求人倍率は前月から横ばいの1.22と予想されていましたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、失業率が2.4%、有効求人倍率は1.22倍でした。本日公表された実績で、失業率2.6%、有効求人倍率1.20倍はともに、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの下限を超えて悪化し、ちょっとしたサプライズと受け止められている印象です。ただし、人口減少局面下の人手不足を背景に、失業率・有効求人倍率ともに、通常の景気後退局面のような急速な悪化ではなく、その意味では、雇用の底堅さを示す水準が続いているように見えます。何といっても、失業率はまだ2%台半ばですし、有効求人倍率は1を超えています。
総務省統計局の労働力調査の季節調整していない原系列の統計で詳しく見ると、失業者数は前年同月から+7万人増加しているのですが、引用した記事にもあるように、そのうち自己都合による自発的な離職が+6万人増となっており、勤め先や事業の都合による+2万人を大きく上回っており、よりよい転職先を探しての離職の動きと見ることもできます。ただし、雇用の先行指標である新規求人についても、これも季節調整していない原系列の厚生労働省の統計を産業別に詳しく見ると、前年同月に比べて2ケタの減少を示しているのが、生活関連サービス業、娯楽業の▲16.1%減、卸売業、小売業の▲12.7%減、宿泊業、飲食サービス業の▲10.7%減となっています。卸売業、小売業の減少は前年からの反動と説明されているようで、いくぶんなりとも、ほかはインバウンド観光客の停滞に起因する部分もあるように見受けられますが、引用した記事の最後のパラにあるような最低賃金の引上げの影響がどこまであるのかは私には不明です。
最後に、繰り返しになりますが、本日公表された雇用統計を総じて見ると、いつまでも雇用の改善が続くわけではないながら、一気に悪化する従来の景気後退局面とは異なるように見えます。
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