今週の読書は来年度の1-2年生向け授業を意識し計5冊
今週の読書感想文は以下の通りです。来年度に1-2年生向け授業を担当しますので、それを意識した計5冊となります。
まず、一橋大学経済学部[編]『新・教養としての経済学』(有斐閣)では、一橋大学経済学部の教授・准教授陣が、大学経済学部の初学者、あるいは、相当にアドバンスな意識の高い高校生を対象に、経済学とはどういう学問かをやさしく解説しています。宮田庸一・阿部俊弘『実践のための統計学』(アイ・ケイ コーポレーション)では、章別に、1変数=ユニバリエイト、2変数=バイバリエイト、単回帰、重回帰、と順を追って解説が加えられた後、本格的に確率や統計の方に展開し、確率分布、標本分布、統計的推計、仮説検定などと統計学の学習を進めます。川本真哉・齋藤隆志・水落正明『データ分析を使ったレポート・論文ハンドブック』(中央経済社)は、データ分析を用いた論文やリポートの内のデータ分析部分だけではなく、そもそものテーマの探し方などから始めて、最後の論文の内容や体裁などまで、詳細なガイドブックとなっています。青柳碧人『乱歩と千畝』(新潮社)では、タイトルから容易に想像されるように主人公は江戸川乱歩と杉原千畝です。その主人公2人のパーソナル・ヒストリーを追い、2人の人生に邂逅する横溝正史や松岡洋右、あるいは、ほかにも名の知られた数多くの小説家や政治家・外交官が登場します。似鳥鶏『みんなで決めた真実』(講談社)では、近未来の日本を舞台に、刑事事件、特に殺人事件については情報公開が進んで、いわばエンタメ化してテレビ放送として裁判が実況中継され、その裁判では名探偵が登場してテレビ局のシナリオに沿ってトリックを暴いて謎解きを披露する、というCase Documentar=CDが一般化しています。
今年2025年の新刊書読書は1~11月に293冊を読んでレビューし、12月に入って先週の6冊も含めて299さつ、今週の5冊を加えると合計で304冊となります。昨年に続いて、今年も年間で300冊に達しています。これらの読書感想文については、できる限り、FacebookやX(昔のツイッタ)、あるいは、mixi、mixi2などでシェアしたいと予定しています。
まず、一橋大学経済学部[編]『新・教養としての経済学』(有斐閣)を読みました。編者については、今さら私ごときが言及する必要はないと思います。本書は2013年に出版された『教養としての経済学』の改訂版であり、大学経済学部の初学者、あるいは、相当にアドバンスな意識の高い高校生を対象に、経済学とはどういう学問かをやさしく解説しています。私も、一応、経済学部生ではなく他学部生のしかも1年生を相手にする授業がいくつかあり、そもそも経済学とはなにか、についても必要に応じて教えています。最適化や均衡といったいくつかのキーワードを基に、新たな価値が付加されたり、あるいは、保存されたりし、最後に、使い尽くされる財やサービスを労働や資本を用いて生産し、分配し、輸送したりする経済活動をシステムとして理解し、あるいは、解明しようと試みる学問である、と教えています。まあ、判ったような、判らないような定義です。本書では、第Ⅰ部で日本・世界経済の現状を概観した後、環境問題、データ分析、理論モデル、マクロ経済と金融、歴史、数学と統計学を各部で詳述しています。私自身はマクロ経済学が専門なのですが、本書では、マクロ経済についてはほとんど言及なく、マクロ経済とは景気循環や財政ではなく金融が大きな部分を占める、といわんばかりの扱いになっているのは少し残念です。GDP統計や成長とか、失業とか、もう少しマクロ経済のトピックが欲しかった気もします。極めて多数の教員や研究者が執筆に当たっていますので、精粗まちまちで、難易度もまちまち、参考文献も大量にあったりなかったり、というのは仕方ないものと考えるべきですが、いずれにせよ、こういった試みはそれほど多くないので、大いに参考になります。

次に、宮田庸一・阿部俊弘『実践のための統計学』(アイ・ケイ コーポレーション)を読みました。著者は、高崎経済大学経済学部の准教授と法政大学経済学部の教授です。どちらも経済系の研究者と考えてよさそうです。章別に、1変数=ユニバリエイト、2変数=バイバリエイト、単回帰、重回帰、と順を追って解説が加えられた後、本格的に確率や統計の方に展開し、確率分布、標本分布、統計的推計、仮説検定などと統計学の学習を進めます。基本的には、経済系のデータを分析するのに必要かつ十分な内容であり、ほかにも心理学、社会学、医学薬学なんかにも役立ちそうです。ただ、あくまで統計学であって、計量経済学とは違います。ですから、私なんかが決定的に不足していると考えるのは時系列データの分析です。すなわち、おそらく、マクロ経済学だけだという気はしますが、経済データは多くの場合、時系列で並んでいます。GDPは四半期で分析したり、年データとして扱ったり、失業率や物価指数は毎月発表される、といった具合です。年々や月々の変動を問題にするわけで、その変動は、GDPだと成長率、物価指数だとインフレ率、などと呼ばれるわけです。失業率が上昇するか、低下するかで、内閣支持率も上がったり下がったりする可能性があるわけです。そのあたりの、マクロ経済データを時系列として扱う分には少し不満が残ります。でも、統計学のテキストとしては、繰り返しになりますが、必要にして十分な内容となっていると感じました。ただし、私大文系の学生にはややもすれば欠ける要素として、高校レベルの数学的な素養が必要です。すなわち、数式は詳細に展開されており、実際の数値例も豊富に収録しています。微積分や三角関数、ましてや、虚数なんてのは出てきませんが、繰返しになりますが、高校レベルの数学力は必要です。しかも、これも繰返しになりますが、私の経験では、この「高校レベルの数学力」を十分身につけている経済学部生は決して多くありません。
次に、川本真哉・齋藤隆志・水落正明『データ分析を使ったレポート・論文ハンドブック』(中央経済社)を読みました。著者は、立教大学経済学部教授、明治学院大学経済学部教授、関西大学経済学部教授です。すなわち、すべて経済学部の教員であり、本書も経済系の内容と考えてよさそうです。データ分析を用いた論文やリポートの内のデータ分析部分だけではなく、そもそものテーマの探し方などから始めて、最後の論文の内容や体裁などまで、詳細なガイドブックとなっています。ただ、私の勝手な感想ながら、私自身が探しているのが1-2年生向けのデータ分析の解説書でしたので、やや難易度が高い気がします。私の勤務校である立命館大学のように、卒業論文を提出する必要のある4年生向け、ないし、大学院修士課程初年度性向けとしての用途なのではないか、という気もします。ただ、義務教育段階とは違って、大学まで至ればレベルは千差万別であって、本書のレベルは1-2年生向けと考える大学もあるのかもしれません。
次に、青柳碧人『乱歩と千畝』(新潮社)を読みました。著者は、エンタメ小説家であり、『むかしむかしあるところに、死体がありました。』で第17回本屋大賞にノミネートされ、『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』などのヒット作があります。本書は、大正期から昭和の戦争を挟んだ時期というかなり長いタイムスパンを持つ小説であり、タイトルから容易に想像されるように主人公は江戸川乱歩と杉原千畝です。小説ですので、あくまでフィクションであり、どこまで歴史的な事実に基づいているのかは別にして、主人公2人は5歳違いで同じ愛知5中と早稲田の同窓であり、著者も早大ご出身ではなかったかと思います。早稲田近くの食堂でカツ丼を食べる際に主人公2人がいっしょになったあたりから小説が始まります。後は、極めて有名な2人ですので、江戸川乱歩は「二銭銅貨」でデビューしてミステリ作家になり、杉原千畝は外交官となります。その主人公2人のパーソナル・ヒストリーを追い、2人の人生に邂逅するミステリの編集者・作家である横溝正史や戦前期に外務大臣を務めた松岡洋右、あるいは、ほかにも名の知られた数多くの小説家や政治家・外交官が登場します。終戦後に江戸川乱歩は明智小五郎シリーズ、特に、少年探偵団のラジオドラマなどで有名になりましたし、世界大戦中に杉原千畝は本省の意向に沿わない形で、ヒトラーのドイツを逃れたユダヤ人に日本の通過ビザを出して、多くのユダヤ人を救っています。互いの人生が交差してラストに進みます。
次に、似鳥鶏『みんなで決めた真実』(講談社)を読みました。著者は、ミステリ作家であり、2006年に『理由あって冬に出る』で第16回鮎川哲也賞に佳作入選してデビューしています。アンソロジーに収録されている短編を別にすれば、単行本や文庫本としては初読の作家さんかもしれません。本書はミステリであり、最後は謎解きや事件真相の解明となりますが、舞台は近未来の日本であり、刑事事件、特に殺人事件については情報公開が進んで、いわばエンタメ化してテレビ放送として裁判が実況中継され、その裁判では名探偵が登場してテレビ局のシナリオに沿ってトリックを暴いて謎解きを披露する、というCase Documentar=CDが一般化しています。ですので、犯人は適当にしつらえられて役割が割り振られ、無実であるにもかかわらず有罪を宣告されたりしてしまいます。しかし、そこはエンタメ化しているため、執行猶予のついた判決を得て、逆に、犯人としての立場からCDの放送でコメンテータを務めたり、本を出版したりするようになっています。そして、本書の主人公は法学部に通う大学生の貞末悠人であり、主人公がたびたび訪れる介護施設に入居している芳川昭は、すでに引退していますが、血縁でもない主人公から「じっちゃん」と呼ばれて慕われており、かつての名探偵で現在のCDで名探偵が披露する謎解きの間違いを指摘します。そして、同じ施設の老女の孫がJAXAの宇宙飛行士を目指して2次選考まで通過していながら、CDで犯人にされてしまいます。この裁判でじっちゃんの芳川昭が真実を解明して、しかも、徹底的にCDエンタメを根底から成り立たないような活躍をします。
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