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2026年3月13日 (金)

日本経済は石油価格上昇に脆弱なのか?

広く報じられている通り、米国とイスラエルがイラン攻撃を始め、ホルムズ海峡が閉鎖されて、石油価格の指標となるWTI先物価格が乱高下しています。一般的な感触として、日本はエネルギーを産出しないので石油価格上昇に脆弱、という印象がありますが、私の知る限りで、経済学のフォーマルな実証研究では、日本経済は石油価格上昇に強い、という多くの結果が得られています。まず、今となっては古典的ともいえますが、逆にいえば、やや古い研究成果ながら、次の論文が石油価格と日本経済の関係についての21世紀初頭における研究の嚆矢となっています。

Hamilton (1996) で示された Hamilton's measure of oil price shock を日本に適用すると、石油価格上昇による産出への負のインパクトのうち30-50%は金融政策の引締めに起因する "between 30 and 50 percent of the negative impact of oil price shocks on Japanese output is attributable to monetary tightening" と結論しています。逆に、純粋な供給要因による石油価格上昇は負のインパクトの半分くらい、ということになります。

もう少し新しい祝迫先生と中田先生の一連の論文でも、構造VARを用いて日本の景気変動を計測したところ、日本の輸出やひいてはGDPに対する影響は世界経済の需要ショック "world economic activity (an aggregate demand shock)" であり、石油価格のショックの影響はほとんどない "exogenous variation in oil production has little effect" などと、特に最初の論文で結論しています。論文の引用情報は以下の通りです。

OECD加盟各国と比較しての欧州中央銀行(ECB)による実証分析結果では、日本は石油価格上昇の負のインパクトが見られない "oil price increases are found to have a negative impact on economic activity in all cases but Japan" との結論を得ています。以下の論文です。

もちろん、逆に、石油価格上昇の負の影響を計測した論文もあります。


この論文では、Kilian (2009) で示された石油価格ショックの分解を用いた分析を行っています。供給要因に起因する外生的な石油価格上昇はGDPの減少をもたらす "an exogenous change in oil prices on the supply side decreases GDP" 一方で、好景気などによる需要要因に起因する石油価格上昇はGDPの増加につながる、と結論しています。

最後の高橋先生の論文がおそらく例外なのですが、石油価格上昇そのものの日本経済への影響はそれほど大きくない、というのが、多くのアカデミックな分野のエコノミストのコンセンサスだと思います。ただし、シンクタンクや金融機関のエコノミストはもっと実際的で、石油価格の上昇のダメージをより過大評価していると私は考えています。ただし、これにはもっともな理由があります。すなわち、祝迫-中田論文で示されている日本経済が石油価格上昇そのものよりも世界経済の冷え込みによる影響の方が大きいというのがアカデミックなエコノミストのコンセンサスですが、石油価格上昇はECBのワーキングペーパーにもあるように世界経済に負のショックをもたらすわけですから、日本経済は石油価格上昇のショックもさることながら、石油価格上昇のショックが世界経済を悪化させることにより、負の影響を大きく受ける、ということなのだろうと思います。これは、いわゆるリーマン・ショック後の金融危機から始まった景気後退やコロナ禍の景気後退もよく似た構造であって、日本経済は世界経済のネガな影響を強く受ける、という結果であろうと私は受け止めています。

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