潜在成長率を引き上げるために資本ストックはどれくらい必要か
やや旧聞に属するトピックながら、先週5月13日、大和総研から「何故、わが国では潜在成長率が低迷しているのか?」と題するリポートが明らかにされています。我が国の潜在成長率を高めるために、労働投入、資本ストック、全要素生産性(TFP)の要素を底上げする必要を明らかにしています。中でも、資本ストックに着目したいと思います。まず、リポートで5点上げている[要約]の中で第3の資本ストックに関する項目だけ引用すると次の通りです。
[要約]
- 資本ストックに関しては、3つの側面から潜在GDPの増加に寄与することが期待される。第一に、資本ストックの量的な側面からは、実際の資本ストックと、当社が推計した「最適資本ストック(=資本と労働の相対価格の関係などから企業の利潤が最大化される資本ストック)」とを比較すると、わが国の資本ストックは290兆円程度不足している可能性が示唆される。第二に、質的な側面からも、設備の老朽化により、わが国の資本生産性(=GDP÷資本ストック)は主要国(フランス、ドイツ、イタリア、英国、米国の5カ国の平均)と比べて10%程度、押し下げられている。第三に、資本ストックの配分という側面でも、日本では資本ストックが低生産性分野に張り付いていることで、資本生産性が主要国と比べて18%程度、低下している。
量的な資本ストックの不足に関して、リポートから 図表 3 実際の資本ストックと最適資本ストック を引用ると次の通りです。
見れば明らかな通り、2010年過ぎあたりを境に、我が国企業は資本ストックを増加させるという意味での設備投資行動で最適化を達成できておらず、資本ストックが最適水準から過小となっていると試算されています。しかも、その過小な幅が年々拡大しているようで、大和総研の試算によれば、直近で▲290兆円、GDPのほぼ半分に達する資本ストック不足が生じています。なお、内閣府の最新の「固定資本ストック速報」では、民間企業設備のストックは877.9兆円ですから、最適資本ストックの約75%で生産をしていることになります。上の折れ線グラフから、「実際の資本ストック」の青いラインがほとんど横ばいで推移しているのが見て取れます。
量的な面に加えて、質的な面を考えると、フランス、ドイツ、イタリア、英国、米国の5か国平均と比較して、設備の老朽化で▲10%、さらに、低生産性分野への偏在で▲18%、合わせて、質的な面から▲18%もの資本生産性の低下を来たしています。なお、生産性本部の「労働生産性の国際比較 2025」によれば、日本の1人当たり労働生産性は98,344ドル、OECD平均129,635ドルの約75%であり、すなわち、▲25%低くなっています。でも、資本ストックが▲35%ほど不足し、老朽化と低生産性分野への偏在で合わせて▲28%の資本生産性が押し下げられている点も考慮する必要があります。
大和総研のリポートでは、労働投入量、資本ストック、全要素生産性(TFP)の3要素をバランスよく底上げする必要を主張していますが、私には疑問が大きいです。日常的に接する大学生を見ても、日本人というのは、粘り強さや協調性や時間を守るなどといった非認知能力がすぐれていて、もちろん、OECDのPISAに現れているように数学をはじめとする認知能力もすぐれていて、それなのに、企業で働き始めた途端に大きく労働生産性が落ちる、というのは、むしろ、企業サイドに問題があるのではないか、と疑問に感じるのは私だけでしょうか。
| 固定リンク



コメント