世界的な出生率の低下の理由やいかに?
"The Rise of Female Autonomy and the Decline of Fertility: The Role of Mismatch" と題するワーキングペーパーを読みました。2023年のノーベル経済学賞を受賞したゴルディン教授による全米経済調査会(NBER)のワーキングペーパーであり、世界的な出生率の低下に関する要因を考えています。まず、論文の引用情報は次の通りです。
次に、NBERのサイトからワーキングペーパーのABSTRACTを引用すると次の通りです。
ABSTRACT
The fertility decline is everywhere in the world today and goes back decades for rich countries. Birthrates have been below replacement in the U.S. and Europe since the mid-1970s. Completed cohort fertility in the U.S. was lower for those born in 1955 than for 1975. The reasons for the initial declines involve greater female autonomy and a mismatch between the desires of men and women. Men generally benefit more from maintaining traditions; women often benefit more from eschewing them. When the probability is low that men will abandon traditions, some career women will not have children and others will delay.
このワーキングペーパーでは、世界的な出生率低下の主因を、従来の育児コストの上昇や保育・育休政策の不足だけでは説明できないとし、女性の自律性の向上と男女間の役割期待のミスマッチ(greater female autonomy and a mismatch between the desires of men and women)に求める新たな理論を提示しています。すなわち、男性は伝統の維持から利益を得る一方で、女性はしばしば伝統から脱却することが利益になる(Men generally benefit more from maintaining traditions; women often benefit more from eschewing them.)、というわけです。
要するに、女性は高等教育やキャリア形成、避妊技術の普及によって人生の選択肢を大きく広げましたが、男性の家庭内役割や育児へのコミットメントは同じ速度では変化しませんでした。この結果、高学歴女性ほど「仕事と家庭を両立できる保証」が得られない限り、出産を延期あるいは断念するようになります。ワーキングペーパーの分析はこれらの状況を単純な理論モデルで表現し、教育収益率が高まる一方で「信頼できる父親」の割合が増えなければ出生率は低下すると示します。それをもっともよく表している概念図が Figure 3: Fertility Choice in the Model for College-Eligible Women であり、ワーキングペーパーから引用すると次の通りです。

ゴルディン教授は多くの場合、大卒女性を考察するのですが、このグラフでも大卒女性を対象に、縦軸に大学教育の賃金プレミアム(college wage premium)、横軸に信頼できる父親の割合(share of dependable dads)を取り、グラフの右下が大卒女性が子どもを持つ領域、すなわち、期待されるチャイルド・ペナルティが十分低い領域(College Women Have Children; Expected child penalty is low enough)であり、逆に、左上は大卒女性が子どもを持たない領域、すなわち、期待されるチャイルド・ペナルティがあまりに高い領域(College Women Do Not Have Children; Expected child penalty is too large)となります。その境界線が示されています。
加えて、米国の歴史を分析し、ピルの普及が女性の教育・キャリア投資を促進した一方、男性側の意識改革が遅れたため出生率が急低下した、という議論を展開しています。また、日本・韓国・イタリア・スペインなど急速な経済成長を経験した国では、伝統的な性別役割分担が残ったため、女性の家事・育児負担が重く、出生率が極端に低くなったと論じています。したがって、少子化対策として育児補助金や住宅支援だけでは不十分であり、家庭内での男女の役割分担や、女性がキャリアと家庭を両立できる制度・社会規範の改革こそが重要であると結論づけています。
とても興味深い分析でした。でも、現在の高市内閣の政策当局からは無視される可能性が大きい、と私は受け止めています。
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