子育てコストと少子化について考える
未公刊の論文ながら、"The Child Cost Index" という子育てコストを推計した論文を読みました。1990年から2023年までの米国における広い意味での子育てコストを推計しています。まず、論文の引用情報は次の通りです。
繰返しになりますが、未公刊の manuscript ですので、今後、修正がある可能性は十分あります。続いて、論文のAbstractを引用すると次の通りです。
Abstract
Rising child-rearing costs are often cited in accounts of declining U.S. fertility, but there is little evidence on how the prices of child-rearing inputs have evolved in the aggregate. We construct a Child Cost Index (CCI) for 1990-2023 that combines purchased goods and services with parental time and tracks the price of this composite child-rearing bundle relative to adult consumption. Despite rapid inflation in childcare and tuition prices, the goods-and-services CCI closely tracks adult prices, as these increases are offset by children's lower exposure to shelter and by slower price growth elsewhere in the child basket. Households devote substantially more real resources to children than they did in 1990, but this increase parallels the growth of real adult consumption rather than reflecting a child-specific rise in prices. A similar offsetting pattern appears for parental time: the rising value of women's time is largely counterbalanced by declining motherhood penalties in earnings and work hours, so forgone market work adds little to relative cost growth. The main departure from this stability comes from the growing amount of leisure displaced by childcare; valuing that time raises the CCI, although the magnitude depends on the shadow value assigned to leisure.
この論文は、1990年から2023年の米国における子育てに必要な財・サービス、さらに、親の時間を統合した Child Cost Index (CCI) を推計し、子育てコストが成人(adult)の消費と比較してどの程度上昇したかを分析しています。論文の分析の結果、保育料や授業料は大幅に上昇したものの、それだけでもって「子育てコストが急騰した」と結論づけることはできない、と指摘しています。すなわち、住宅費では子どもの支出割合が成人より小さく、食料など価格上昇が比較的緩やかな上昇率の項目の比重も高いため、高騰した教育・保育費が他の項目によって相殺される、という主張です。その結果、財・サービスのみから構成されるCCIは、成人消費指数(Adult Consumption Index=ACI)とほぼ同じペースで推移し、子育ての相対価格は30年以上ほとんど変化していない、と結論づけています。
まず、上のグラフは、論文から Figure 3: Price index for child goods and services, CCI, 1990-2023 を引用しています。見れば明らかなのですが、子育てコスト指数(CCI)と成人消費指数(ACI)を比較しています。1990年から2023年まで30年間にわたって、ほぼ同様の動きを示しており、子育てコストがとりわけ大きく上昇したという根拠は観察されない、という結論です。繰返しになりますが、保育料や教育費の高騰がそのまま子育てコストの大きな上昇にはつながっておらず、住宅費や食料費によって相殺されている部分が少なくない、ということです。
続いて、上のグラフは、論文から Figure 7: Changes in parental time use, 1990-2023 を引用しています。この論文では、それでは、子育てコストはまったく親の負担になっていないのか、という疑問に回答しようと試みていて、その結論のひとつが示されています。すなわち、市場労働価値(labor-market outcomes)としては決して大きくない一方で、親が子育てにかける時間が増加し、その多くが余暇時間の減少として現れている、という主張です。狭義と広義の2通りの棒グラフですが、両親ともに余暇時間が減少していることが読み取れます。したがって、この余暇時間の減少がインプリシットに子育てコストに上乗せされている可能性が示唆されています。
最後に、論文を離れて、上のグラフは経済開発協力機構(OECD)の Net childcare costs のサイトから引用しています。Net childcare costs は、フルタイムの施設型保育の利用料金による家計の純減額(the net reduction in family budgets resulting from the use of full-time centre-based care)と定義されています。この意味で、米国はOECD加盟国の中でももっとも高い国のひとつであり、日本は逆に平均的ないし低い方に入ることが読み取れます。保育料金が高いからこそ、米国では本論文 Child Cost Index のような問題意識が生じるわけです。他方、日本では先進国の中ではそれほど保育料金が高いわけではありません。加えて、日本は婚外子の割合が低い点は広く認められていますから、子どもを出産した後の子育てコストへの支援ももちろん重要ですが、まず、結婚の意欲が持てて、実際に結婚生活が送れるような所得、そのための雇用がより重視されるべきである、と私は考えています。
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