2025年7月18日 (金)

4か月ぶりに上昇率が鈍化した6月の消費者物価指数(CPI)

本日、総務省統計局から6月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の前年同月比で見て、前月の+3.7%からやや減速して+3.3%を記録しています。伸び率鈍化とはいえ、まだまだ+3%台のインフレが続いています。日銀の物価目標である+2%以上の上昇は2022年4月から39か月、すなわち、3年余り続いています。ヘッドライン上昇率も+3.3%に達しており、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率も+3.4%と高止まりしています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

6月消費者物価上昇3.3%に鈍化 全国、ガソリン定額補助が伸び抑制
総務省が18日発表した6月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合が111.4となり、前年同月と比べて3.3%上昇した。5月の3.7%を下回り、4カ月ぶりに伸び率が鈍化した。ガソリンの小売価格を抑えるための定額補助が伸びを抑えた。コメ類の上昇幅は100.2%だった。
QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は3.3%の上昇だった。
エネルギー価格全体は2.9%上がり、5月の8.1%上昇からは伸び率が大幅に縮んだ。ガソリンが1.8%下がった。5月は4.8%上昇だった。下落は8カ月ぶりとなる。5月22日から1リットル当たり最大10円の定額補助が始まった影響を受けた。直近の原油安も反映された。
電気代は5.5%上昇だった。5月の11.3%上昇から伸びが縮小した。都市ガス代も2.8%上昇したが、5月の6.3%からは縮小した。燃料価格の下落などの影響を受けた。
生鮮食品除く食料は8.2%の上昇だった。8.8%上昇だった23年9月以来、1年9カ月ぶりの高い伸びとなった。6月に価格改定したチョコレートが39.2%値上がりした。ブラジルの天候不良で出荷量が減少したコーヒー豆が40.2%上がるなど、幅広い品目が上昇した。
コメ類は100.2%上がった。5月の101.7%からは上昇幅が縮小したが、引き続きコメ価格は1年前の2倍の水準にある。CPI上のコメ類には備蓄米は含まず、コシヒカリといった銘柄米の値動きを反映する。
コメをつかったおにぎりは19.1%、外食のすしは6.5%それぞれ上昇した。
携帯電話の通信料は11.9%のプラスだった。通信大手による新料金プランの導入などがあった。
水道代は2.3%値下がりした。東京都の水道の基本料金無償化の影響が出た。公立の高等学校授業料は94.1%下落した。

何といっても、現在もっとも注目されている経済指標のひとつですので、やたらと長い記事でしたが、いつものように、よく取りまとめられているという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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私が確認した範囲で、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3.4%ということでした。ただ、引用した記事には「3.3%」となっているのは不明です。いずれにせよ、実績の+3.3%の上昇率は予想の範囲内といえます。また、エネルギー関連の価格については、引用した記事にもある通り、5月22日から始まった「燃料油価格定額引下げ措置」によるガソリン価格の引下げなどが反映されています。この制度の詳細については、当然ながら、資源エネルギー庁の資料「新たな燃料価格支援策 (燃料油価格定額引下げ措置) について」が詳しいです。品目別に消費者物価指数(CPI)の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し詳しく見ると、まず、食料価格の上昇が引き続き大きくなっています。すなわち、先月4月統計では生鮮食品を除く食料の上昇率が前年同月比+7.7%、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度+1.84%であったのが、6月統計ではそれぞれ+8.2%、+1.96%と、一段と高い上昇率と寄与度を示しています。寄与度差は+0.11%ポイントあります。他方で、政府の「燃料油価格定額引下げ措置により、エネルギー価格の上昇率はやや鈍化しました。すなわち、エネルギー価格については5月統計で+8.1%の上昇率、寄与度+0.63%でしたが、本日公表の6月統計では上昇率+2.9%、寄与度+0.23%となっています。したがって、生鮮食品を除く食料とエネルギーだけで6月のヘッドラインCPI上昇率3.3%のうちの+2.2%ポイントほどを占めることになります。特に、食料の中で上昇率が大きいのはコメであり、生鮮食品を除く食料の寄与度+1.84%のうち、コシヒカリを除くうるち米だけで寄与度は+0.39%に達しています。引用した記事にもあるように、上昇率は前年同月比で+100.2%ですから、昨年から2倍に値上げされている、ということになります。また、電気代も高騰を続けており、5月統計の+11.3%の上昇ほどではありませんが、6月も+5.5%の上昇と、消費者物価平均を上回る上昇が続いています。
多くのエコノミストが注目している食料の細かい内訳について、前年同月比上昇率とヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度で見ると、繰り返しになりますが、生鮮食品を除く食料が上昇率+8.2%、寄与度+1.96%に上ります。その食料の中で、これも繰り返しになりますが、コシヒカリを除くうるち米が2倍超に値上がりしていて、寄与度も+0.39%あります。備蓄米が出回り始めたとはいえ、銘柄米はまだまだ高止まりしています。うるち米を含む穀類全体の上昇率は+29.0%、寄与度は+0.67%に上ります。コメ価格の推移は下のグラフの通りです。コメ値上がりの余波を受けたおにぎりなどの調理食品が上昇率+6.9%、寄与度+0.26%、同様にすしなどの外食も上昇率+4.5%、寄与度+0.22%を示しています。主食のコメに加えて、カカオショックとも呼ばれたチョコレートなどの菓子類も上昇率+9.0%、寄与度+0.24%に上っています。特に、その中でも、チョコレートは上昇率+39.2%、寄与度0.14%を示しています。ほかの食料でも、鶏肉などの肉類が上昇率+6.0%、寄与度+0.16%、コーヒー豆などの飲料も上昇率+8.7%、寄与度0.15%、などなどと書き出せばキリがないほどです。食料やエネルギーは国民生活に欠かせない基礎的な財であり、実効ある物価対策とともに、価格上昇を上回る賃上げを目指した春闘の成果を期待しています。
最後に、総務省統計局の小売物価統計を元にした農林水産省資料「小売物価(東京都区部)の推移(総務省小売物価統計)」から引用した コメの小売価格 のグラフは下の通りです。昨年2024年年央くらいまで長らく5キロで2000~2500円のレンジにあったのですが、最近時点ではコシヒカリは5000円を超えており、コメの猛烈な価格上昇が見て取れると思います。

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2025年7月17日 (木)

1500億円を超える赤字を記録した6月の貿易統計

本日、財務省から6月の貿易統計が公表されています。貿易統計のヘッドラインを季節調整していない原系列で見ると、輸出額が前年同月比▲0.5%減の9兆1625億円に対して、輸入額は+0.2%増の9兆95億円、差引き貿易収支は▲1531億円の赤字を計上しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから最初の4パラだけ引用すると以下の通りです。

6月の米国への輸出額3カ月連続減 関税で車落ち込む
財務省が17日発表した6月の貿易統計速報によると、輸出額は前年同月に比べ0.5%減の9兆1625億円だった。米国向けが11.4%減の1兆7071億円と3カ月連続で減少した。自動車の輸出が落ち込んでおり、トランプ米政権の関税政策の影響が大きい。
米国向けの自動車輸出は台数が3.4%増、輸出額が26.7%減だった。日本車メーカーが関税の影響を和らげるため、価格を下げたり、低価格の車種を優先して輸出したりする傾向が続いたとみられる。
中国向けの輸出は4.7%減の1兆5513億円だった。非鉄金属や半導体製造装置、自動車などの輸出額が減った。欧州連合(EU)向けの輸出は3.6%増の8241億円で自動車の輸出額が増えた。
世界全体からの輸入額は9兆95億円と0.2%増えた。3カ月ぶりに増加した。アイルランドの医薬品や中国のスマートフォンなどの輸入が増えた。

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。なお、5ぱらめめ以降は年半期の1~6月期の計数の報道ですので省略しています。続いて、貿易統計のグラフは下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+3500億円余りの貿易黒字が見込まれていたところ、実績の▲1500億円を超える赤字はやや下振れした印象です。季節調整済みの系列でも、6月は▲2355億円の赤字を記録しています。いずれにせよ、私の主張は従来から変わりなく、輸入は国内の生産や消費などのために必要なだけ輸入すればよく、貿易収支や経常収支の赤字と黒字は何ら悲観する必要はない、と考えています。固定為替相場制度を取っていた1950-60年代の高度成長期のように、「国際収支の天井」を意識した政策運営は、現在の変動為替制度の下ではまったく必要なく、比較優位に基づいた貿易が実行されればいいと考えています。それよりも、米国のトランプ新大統領の関税政策による世界貿易のかく乱によって資源配分の最適化が損なわれる可能性の方がよほど懸念されます。すなわち、引用した記事のタイトルのように、トランプ関税で日本の輸出が減少して貿易収支が赤字の方向に振れることではなく、貿易を含めた資源配分の最適化ができなくなってしまう点が問題と考えるべきです。
本日公表された6月の貿易統計について、季節調整していない原系列の前年同月比により主要品目別に少し詳しく見ておくと、まず、輸入については、原油及び粗油が数量ベースで+12.3%増ながら、金額ベースで▲17.6%減となっています。石油価格が大きく下落している商品市況を反映しています。さらに、エネルギーよりも注目されている食料品は金額ベースで+3.3%増となっており、輸入総額の前年同月比伸び率が+0.2%増にとどまっている中で、高い伸びとなっています。特に、食料品のうちの穀物類は数量ベースで+11.5%増、金額ベースでは▲1.7%減となっています。原料品のうちの非鉄金属鉱は数量ベースで+38.8%増、金額ベースでも+4.7%増を記録しています。輸出に目を転ずると、輸送用機器のうちの自動車が数量ベースで+6.5%増となったものの、金額ベースでは▲7.3%減となっています。自動車輸出における数量ベース増の金額ベース減は明らかに、日本のメーカーあるいは輸出商社の方で関税分を負担して自動車価格に上乗せせず、販売台数の維持・拡大を図っていることを表していると考えるべきです。どこまでこういった関税負担がサステイナブルであるかは私には不明です。電気機器も金額ベースで▲3.2%減となっている一方で、一般機械が+1.7%増とプラスの伸びを示しています。輸出だけは国別の前年同月比もついでに見ておくと、中国向け輸出が前年同月比で▲4.7%減となったにもかかわらず、中国も含めたアジア向けの地域全体では+1.7%増の堅調な動きとなっています。他方で、米国向けは▲11.4%減と大きく落ち込んでいます。ただ、西欧向けは+12.6%増となっています。いうまでもありませんが、今後の輸出については、米国トランプ政権の関税政策による撹乱が懸念されます。

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2025年7月16日 (水)

毎日新聞が本気で参政党の批判を始めたらしい

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毎日新聞「今の憲法にはあるのに? 参政党の創憲案で消された私たちの『権利』」を読みました。上のテーブルは毎日新聞のサイトから引用しています。
私は、日本の大手メディアが外国の政党は平気で「極右」と呼ぶのに対して、国内の政党については遠慮しているのではないか、という疑念を持っています。また、毎日新聞については、かつての「よいデフレ論」などで私はやや不正確な経済報道が目立った印象を持っている一方で、大昔のロッキード事件の報道などには優れた部分があったことも記憶しています。
いずれにせよ、私は参政党を真っ向から批判しようとしている毎日新聞を応援します。

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米国が国際開発援助(ODA)を大きく縮小するとどうなるのか?

世界的に権威ある医学の学術誌の Lancet に "Evaluating the impact of two decades of USAID interventions and projecting the effects of defunding on mortality up to 2030: a retrospective impact evaluation and forecasting analysis" と題する論文が掲載されています。要するに、現在の米国のトランプ政権が進めようとしている国際開発援助が最近20年で死亡率にどれくらいの影響を持ったかを分析し、さらに、その将来分析を行ったペーパーです。まず、引用情報は以下の通りです。共著者は15人ほどに上りますので省略しています。

続いて、Lancet のサイトから Funding を除く Summary を引用すると下の通りです。これだけでかなり長いです。

Summary
Background
The US Agency for International Development (USAID) is the largest funding agency for humanitarian and development aid worldwide. The aim of this study is to comprehensively evaluate the effect of all USAID funding on adult and child mortality over the past two decades and forecast the future effect of its defunding.
Methods
In this retrospective impact evaluation integrated with forecasting analysis, we used panel data from 133 countries and territories- including all low-income and middle-income countries (LMICs)-with USAID support ranging from none to very high. First, we used fixed-effects multivariable Poisson models with robust SEs adjusted for demographic, socioeconomic, and health-care factors to estimate the impact of USAID funding on all-age and all-cause mortality from 2001 to 2021. Second, we evaluated its effects by age-specific, sex-specific, and cause-specific groups. Third, we did several sensitivity and triangulation analyses. Lastly, we integrated the retrospective evaluation with validated dynamic microsimulation models to estimate effects up to 2030.
Findings
Higher levels of USAID funding-primarily directed toward LMICs, particularly African countries-were associated with a 15% reduction in age-standardised all-cause mortality (risk ratio [RR] 0.85, 95% CI 0.78-0.93) and a 32% reduction in under-five mortality (RR 0.68, 0.57-0.80). This finding indicates that 91 839 663 (95% CI 85 690 135-98 291 626) all-age deaths, including 30 391 980 (26 023 132-35 482 636) in children younger than 5 years, were prevented by USAID funding over the 21-year study period. USAID funding was associated with a 65% reduction (RR 0.35, 0.29-0.42) in mortality from HIV/AIDS (representing 25.5 million deaths), 51% (RR 0.49, 0.39-0.61) from malaria (8.0 million deaths), and 50% (RR 0.50, 0.40-0.62) from neglected tropical diseases (8.9 million deaths). Significant decreases were also observed in mortality from tuberculosis, nutritional deficiencies, diarrhoeal diseases, lower respiratory infections, and maternal and perinatal conditions. Forecasting models predicted that the current steep funding cuts could result in more than 14 051 750 (uncertainty interval 8 475 990-19 662 191) additional all-age deaths, including 4 537 157 (3 124 796-5 910 791) in children younger than age 5 years, by 2030.
Interpretation
USAID funding has significantly contributed to the reduction in adult and child mortality across low-income and middle-income countries over the past two decades. Our estimates show that, unless the abrupt funding cuts announced and implemented in the first half of 2025 are reversed, a staggering number of avoidable deaths could occur by 2030.

Summary をさらに短くすれば、要するに、最近20年間で米国国際開発庁(USAID)の資金援助により、under-five mortality=5歳未満児死亡率の32%減少をはじめとして、all-cause mortality=全死亡率の15%減少がもたらされています。そして、現在のトランプ政権による国際援助の大幅な資金削減により、2030年までに全年齢層の死亡者数が14百万人余り以上増加し、そのうち5歳未満の乳幼児の死亡者数は4.5百万人余りに達すると予測されています。すなわち、USAIDの資金提供は過去20年間において、低所得国および中所得国における死亡率の低下に大きく貢献してきましたし、したがって、最近トランプ政権から発表され実施された急激な資金削減により、2030年までに回避可能な死亡者数が驚くほど多くなる可能性がある、という結論です。下のグラフは、Lancet のサイトから Figure 1 Rate ratios from the fixed-effect Poisson models for the association between specific causes of death related to USAID focus areas and USAID funding per capita per year を引用しています。

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「アメリカ・ファースト」を掲げて大統領選挙に勝利したトランプ米国大統領は、米国に関税の壁を張り巡らせようとしているだけではなく、こういった人道的な国際貢献も無視して政策を進めようとしています。日本の参議院選挙でもよく似たスローガンを掲げている政党や候補者がいます。外国や外国人に対する政策も十分考慮して参議院選挙で投票する必要を訴えておきたいと思います。

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2025年7月15日 (火)

最近の経済報道から

最近、気になった経済報道2本です。

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まず、Bloomberg のサイトから、Global FX Reserves Sift from Yen to Swiss Franc と題するグラフを引用すると上の通りです。記事については、国際通貨基金(IMF)のデータによれば、今年2025年1~3月期に世界の外貨準備が日本円からスイス・フランに大きくシフトした、という内容です。解説的に、「外貨準備における円からの急激なシフトは、継続的な貿易赤字や経済成長の鈍化といったファンダメンタルズの弱さから、円が安全資産としての魅力を失っているとの見方を支持する」とも指摘しています。

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次に、朝日新聞のサイトから 世帯収入に占める税負担の割合 のグラフを引用すると上の通りです。見れば明らかであり、所得が低い家計ほど消費税の占める割合が高く、逆に、所得の高い家計ほど消費税額が大きい、という特徴が読み取れます。所得に応じて累進的に課税される住民税や所得税と異なり、消費税の逆進性が浮き彫りにされています。さらに、記事では「わたしたちの給与からは、社会保険料も引かれている。」と指摘し、年収700万円台の平均的な世帯では社会保険料の「負担額が年約74万円で、3税の合計よりも多かった。」と付け加えています。なお、引用中の「3税」とはいうまでもありませんが、グラフにある消費税+住民税+所得税です。この記事は参議院選の投開票に際しての消費税のあり方について考える3回シリーズの第1回目の記事となっています。たぶん、明日と明後日に続くんだろうと期待しています。

私は総務省統計局の課長職を務めましたので、毎月の頻度で役所の記者クラブにおいて統計を記者発表してきました。しかし、この2本の記事の特徴は、いずれも役所から記者クラブに公表された内容そのままのキャリーではありません。シンクタンクや大学などの有識者に取材した結果をそのまま記事にしているわけでもありません。キチンと公表資料を基にメディアにおいて計算してグラフ化しています。そういったメディアの独自調査に基礎をおいている点をまず評価すべきですし、内容についても、とても重要なポイントを取り上げていると私は考えています。

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2025年7月14日 (月)

2か月連続で前月比マイナスを記録した5月の機械受注

本日、内閣府から5月の機械受注が公表されています。機械受注のうち民間設備投資の先行指標であり、変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月から0.6%減の9135億円と、2か月連続の前月比マイナスを記録しています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

 

5月の機械受注0.6%減、2カ月連続マイナス 基調判断は据え置き
内閣府が14日発表した5月の機械受注統計によると、設備投資の先行指標とされる船舶・電力を除く民需(季節調整済み)は前月比で0.6%減の9135億円だった。2カ月連続でマイナスとなった。製造業が1.8%減、非製造業が1.8%増だった。
基調判断は「持ち直しの動きがみられる」と据え置いた。QUICKが事前にまとめた市場予測の中央値は1.3%減だった。
製造業は1.8%減の4485億円だった。4月に大型案件があった反動で、造船業の内燃機関が落ち込んだ。
自動車・同付属品は7.1%減と2カ月連続でマイナスだった。内閣府の担当者は「米国の関税政策による明確な影響は確認できないが、自動車は4、5月と水準が低下しており、今後の動向を注視する必要がある」と指摘した。
非製造業(船舶・電力を除く)は1.8%増の4793億円だった。電子計算機などが好調で金融業・保険業が押し上げた。
民需(船舶・電力除く)について毎月のぶれをならした3カ月移動平均は0.7%増でプラスを維持した。

 

包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

 

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比▲1%を超える減と見込まれていました。実績の▲0.6%減はやや上振れした印象ながら、前月比マイナスはマイナスですし、大きなサプライズはありませんでした。いずれにせよ、3月統計で前月比+13.0%増を記録した後の4月▲9.1%減、5月▲0.6%減ですから、3月の大幅増の反動の要素もあります。また、この統計では発注が取り消された場合、その取消しが生じた月で調整することになっていますので、あるいは、ひょっとしたら、トランプ関税による発注取消しがここ何か月かで生じている可能性は否定できません。3か月後方移動平均で見ればまだ+0.7%増だということですし、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いています。5月統計を業種別に季節調整済みの前月比で見て、製造業が▲1.8%減であった一方、船舶・電力除く非製造業は+1.8%増となっています。1~3月期のコア機械受注は前期比で+3.9%増の2兆7632億円でしたが、4~6月期見通しでは▲2.1%の減少に転ずると見込まれていますので、4~5月統計は先行きの受注見通しに沿った動きと見ることも出来ますが、トランプ関税次第では下振れする可能性も十分あります。
日銀短観などで示されたソフトデータの投資計画が着実な増加の方向を示している一方で、機械受注やGDPなどのハードデータで設備投資が増加していないという不整合があり、現時点ではまだ解消されているわけではないと私は考えています。人手不足は見込み得る範囲の近い将来にはまだ続くことが歩く予想されますし、DXあるいはGXに向けた投資が盛り上がらないというのは、低迷する日本経済を象徴しているとはいえ、大きな懸念材料のひとつです。かつて、途上国では機械化が進まないのは人件費が安いからであるという議論が広く見受けられましたが、日本もそうなってしまうのでしょうか。でも、設備投資の今後の伸びを期待したいところですが、先行きについては決して楽観はできません。特に、繰り返しになりますが、米国のトランプ政権の関税政策や中東の地政学的リスクなどにより先行き不透明さが増していることは設備投資にはマイナス要因です。加えて、国内要因として、日銀が金利の追加引上げにご熱心ですので、すでに実行されている利上げの影響がラグを伴って現れる可能性も含めて、金利に敏感な設備投資には悪影響を及ぼすことは明らかですどう考えても、先行きについては、リスクは下方に厚いと考えるべきです。

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2025年7月11日 (金)

レジ袋の禁止や有料化はプラスチックゴミ削減に有効なのか?

世界的に権威ある学術誌 Science に "Plastic bag bans and fees reduce harmful bag litter on shorelines" と題する調査論文が掲載されており、レジ袋ゴミが25-47%減少したと報告されています。まず、論文の引用情報は以下の通りです。

New York Times の記事 "Banning Plastic Bags Works to Limit Shoreline Litter, Study Finds" を見ると、Ocean Conservancy という団体と協力して 45,067 地点の海岸清掃=shoreline cleanups のデータを収集したそうです。レジ袋の禁止や課税=plastic bag bans and taxes といった形で、何らかのレジ袋政策=plastic bag policy がある地域ではない地域に比べて清掃の際に収集されたレジ袋のゴミが25-47%減少したと報告されています。論文から、レジ袋政策の発動をはさんだ期間のレジ袋ゴミの量を比較した Fig. 2. The effects of bag policies on plastic litter を引用すると下の通りです。

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レジ袋ゴミの減少は、あくまで、清掃の際に回収されたゴミに占めるレジ袋の割合=as a share of total items collected at cleanups が25-47%減少したということですので、絶対量としてのレジ袋ゴミの減少がもたらされているかどうかは、私が読んだ限り不明というしかないのですが、動物に絡まった影響= Entangled animals についても、レジ袋政策により統計的に有意に減少しているという結果も Fig. 5. Entangled animals で報告されています。

今まで、私は授業で環境省のサイトにある「レジ袋有料化 (2020年7月開始) の効果」を使ってレジ袋削減を定量的に学生諸君に説明していたのですが、コチラも使うことを考え始めたいと思います。

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2025年7月10日 (木)

大和総研リポート「新たな相互関税率の適用で日本の実質 GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少」

広く報じられている通り、トランプ米国大統領は日本の石破総理大臣あてに書簡を発出し、新たな対日相互関税率を25%に設定すると通知しています。この関税の影響につき、大和総研「新たな相互関税率の適用で日本の実質 GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少」が分析しています。私が見た限りで、25%関税のファースト・インプレッションをリポートしたシンクタンクはたくさんあるのですが、7月8日の米国の公表から2日を経て、現時点で定量的な分析を明らかにしているリポートはこれだけだと思います。たった1枚ペラのリポートです。したがって、リポートから分析結果のテーブルとグラフ 図表1: トランプ関税が日本経済に与える影響 (2025年7月8日時点) を引用しておきます。

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3か月連続で伸びが鈍化する6月の企業物価指数(PPI)

本日、日銀から6月の企業物価 (PPI) が公表されています。統計のヘッドラインとなる国内物価は前年同月比で+3.2%の上昇となり、4月の+4.1%、5月の+3.3%から3か月連続で上昇率が鈍化したものの、まだ高い伸びが続いています。まず、ロイターのサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

国内企業物価指数6月は前年比+2.9%、伸び鈍化3カ月連続
日銀が10日発表した6月の企業物価指数(CGPI)速報によると、国内企業物価指数は前年比2.9%上昇した。伸び率は3カ月連続で鈍化し、10カ月ぶりに3%台を割り込んだ。最も押し下げに寄与した品目は石油・石炭製品だった。
前月比では0.2%低下し、2カ月連続のマイナスになった。ロイターがまとめた民間調査機関の予測中央値は前年比2.9%上昇、前月比0.2%低下だった。
燃料油価格定額引き下げ措置による補助金支給額が増加した影響から、ガソリン・軽油・ジェット燃料等各油種が前月比マイナスに寄与した。石油・石炭に次いで、電力・都市ガス・水道では、事業用電力が燃料費調整の影響で、都市ガスが原料費調整の影響で価格が下落した。
押し上げに寄与した品目では、非鉄金属はプラスチック被覆銅線や銅・貴金属展伸財が関税発動を前にした米国での駆け込み需要や中東における地政学リスクの高まりを受けた国際商品市況の上昇を受けて値上がりした。農林水産物では、コメ、豚肉、鶏肉が上昇した。
CGPIを構成する品目515品目のうち、上昇したのは376品目、下落は113品目となり、差し引き263品目となった。5月の244品目と比べると増加している。
日銀の担当者は、「地政学リスクを含めた、国際商品市況の動向、関税賦課等コスト変動分の反映を含めた企業の価格設定行動、世界的に景気減速懸念が強まる中での需要動向、政府による電気・ガス料金やガソリン・コメ価格等の負担軽減策の影響を注視していく」とした。
企業物価指数は、企業間の財・モノの価格動向を示す指標。企業向けサービス価格指数とともに、企業間で適切な人件費配分や価格転嫁ができているかのバロメーターとして、賃金・物価の好循環の実現を目指す日銀が注視する指数の一つ。

インフレ動向が注目される中で、やや長くなってしまいましたが、いつもながら、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業物価指数(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率をプロットしています。また、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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ヘッドラインとなる国内企業物価の前年同月比上昇率について、引用した記事にある通り、ロイターによる市場の事前コンセンサスは+2.9%でしたし、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.8%でしたから、実績の+2.9%はほぼジャストミートした印象です。ただ、これでも日銀物価目標の+2%を大きく上回っていることが事実です。高止まりしている要因は、引用した記事にもある通り、銅・貴金属展伸財が米国のトランプ関税発動を前にした駆込み需要による商品価格の上昇です。もちろん、引き続き、コメなどの農林水産物も高い上昇率を示しています。ただ、引用した記事にもある通り、燃料油価格定額引下げ措置が5月22日から発動され、ガソリン・軽油などが前月比で下落しています。また、対ドル為替相場は5-6月には安定的に推移しています。5月+0.2%の円安の後、6月は▲0.1%の円高です。私自身が詳しくないので、エネルギー価格の参考として、日本総研「原油市場展望」(2025年7月)を見ておくと、「原油価格は50ドル台後半に向けて下落する」と見込んでいますが、他方で、「中東情勢が再び緊迫化する場合、原油価格は140ドル程度まで急騰するリスクも。」と指摘しています。円ベースの輸入物価指数の前年同月比は、今年に入って、4月▲7.3%、5月△10.3%、6月▲12.3%と連続して下落しており、国内物価の上昇は政策要因も含めた国内要因による物価上昇であることは明らかです。
企業物価指数のヘッドラインとなる国内物価を品目別の前年同月比上昇率・下落率で少し詳しく見ると、まず、農林水産物は5月の+43.5%から6月は+43.9%と高止まりしています。これに伴って、飲食料品の上昇率も5月の+4.7%から6月は+4.5%と高い伸びが続いています。電力・都市ガス・水道は5月の+6.4%から、6月は+3.5%と上昇率を縮小させていますが、依然として高い上昇率が続いています。

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2025年7月 9日 (水)

インテージ「2025年上半期、売れたものランキング」やいかに?

やや旧聞に属するトピックながら、先週月曜日の6月30日、インテージから「2025年上半期、売れたものランキング」が明らかにされています。金額ベースですので、令和の米騒動にためにコメがトップに来ています。まず、インテージのサイトから調査結果の[ポイント]を4点引用すると下の通りです。

 

[ポイント]
  • 1位は米。前年同時期比184%。社会現象ともいえる価格高騰が要因。8位にも米飯類が入る
  • 2位~4位は化粧品。おしろいはUVケア、美容液は高価格帯の商品が寄与。インバウンドも
  • 上位15位までに食品・飲料は過半数の8つ。値上げの影響も、新しい需要をつかんだ商品あり
  • 販売苦戦ランキング1位・オートミール、2位・検査薬。コロナ禍で売り上げを伸ばしたものが入る

 

一応、念のため、上半期とはいいつつ、データは5月分までだそうです。ということで、コンパクトによく取りまとめられている印象です。続いて、インテージのサイトから 2025年上半期の金額前年比・上位ランキング を引用すると下の通りです。

 

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繰り返しになりますが、インフレを考慮せずに金額ベースということになれば、米の金額がトップとなります。インフレを考慮して数量ベースにすると、逆に、米は前年比マイナスの可能性もあると私は考えています。ついでながら、8位にもパックご飯などの米飯類が+15%増でランクインしています。興味深いところで、2位~4位は化粧品、5位は医薬品が入っています。いずれもドラッグストアで販売されているものだけに、インバウンドの影響は否定できませんが、コロナ禍の初期には口紅など化粧品カテゴリー全体が大きく落ち込んだので、それらが復活しつつあるとの見方もできます。続く6位の玩具メーカー菓子とはいわゆる食玩のことなのだろうと思いますが、ポケモンやドラえもん、あるいは、ワンピースや名探偵コナンなどのアニメを中心とする知的財産権に基づくIP商品は、もはや日本の競争力の中核をなしているとすらいえそうです。また、私は不勉強にして知らなかったのですが、7位のココアは腸活需要を取り込んでいるようです。はい、勉強になりました。

 

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続いて、インテージのサイトから 2025年上半期の金額前年比・下位ランキング を引用すると上の通りです。ワースト1位のオートミールはコロナ禍の時期に健康需要を取り込み大きく伸びた一方で、今になって反動が出ているようです。コロナ禍前の2019年と比較して大きく伸びていますので、特に、最近売上げを減少させているという印象もない気がします。特に、私の関心を引いたのはワースト5位の新ジャンルです。税制改正により価格が引き上げられ、価格弾力性が大きいことから売上げを減らしています。アルコール飲料は押し並べて価格の影響が強いんだろうと想像しています。

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