2023年3月 7日 (火)

労働政策研究・研修機構(JILPT)のディスカッションペーパー「職業の自動化確率についての日米比較」の試算結果をどう見るか?

10年前のオックスフォード大学研究チームの研究成果 "The future of employment" から人工知能(AI)などの発達によって自動化される、というか、代替される職業に関する関心が高まっています。これに基づいて、先月2月28日付けで労働政策研究・研修機構(JILPT)から「職業の自動化確率についての日米比較」と題するディスカッションペーパーが公表され、かなりあからさまに試算していたりします。こういったマイクロな労働関係は私には専門外なのですが、とても興味ある分野ですので、簡単に取り上げておきたいと思います。まず、参照すべき労働政策研究・研修機構(JILPT)とオックスフォード大学のペーパーへのリンクは以下の通りです。なお、Frey and Osborne のワーキングペーパーは2017年にジャーナルに収録されています。Technological Forecasting & Social Change 114, 2017, pp.254-80 です。中身が違うのかどうかについて、私はチェックしていません。査読が入っているのであれば、多少とも修正はされているのだろうと想像するだけです。

そして、私の興味の対象である 日米における職業12(13)カテゴリー別自動化確率と就業者割合 をJILPTのディスカッションペーパーから引用すると以下の通りです。

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大雑把に理解できなくもないですが、やや疑問あるのは、第1に、日米間で自動化確率に差があるのは当然ですが、総計での差が▲0.035であるにもかかわらず、カテゴリー別に見て、どうして、ここまで大きな差があるのか、という点です。いわゆるボリューム・ゾンで、日本の就業人口割合が10%を超えるカテゴリーを見ると、サービス職業従事者、販売従事者、事務従事者、生産工程従事者ではその差が▲0.1を超えており、▲0.2を超えているカテゴリーすらあります。にもかかわらず総計での確率の差が▲0.035という結果です。やや不思議な気がします。第2に、なぜかすべてのカテゴリーで日本の自動化確率が米国を下回っています。ディスカッションペーパーでは「同じ職種でも日本の方が,職務の遂行において,総じて知覚と巧緻性,創造的知性,あるいは社会的知性のいずれかについて米国より高い水準が求められることを意味している」(p.17)と指摘していますが、経営者団体から盛んに指摘される日本の労働者の生産性の低さは、アレは何だったのだろうか、という気がしますし、何よりも、日本では非正規雇用がこれだけ多いにもかかわらず、自動化確率が低いのは、大きな疑問です。

私の直感では、上のいずれの点においても、特に、第2の点については、客観的に計算された労働政策研究・研修機構(JILPT)の試算結果が正しいと考えています。ついでながら、ちょっとしたご縁もあって、労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究者の中には何人か私と面識ある人もいて、このディスカッションペーパーは労働政策研究・研修機構(JILPT)の研究者が書いたものではありませんが、それなりに高い研究能力が認められます。ですから、日本の労働者はほぼほぼすべてのカテゴリーの職種で米国よりも総じて高い水準を維持しているにもかかわらず、低い賃金しか支払われていない、というのが私の直感に従った解釈となります。

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2023年3月 6日 (月)

木曜日に公表される昨年2022年10-12月期GDP統計速報2次QEの予想やいかに?

先週の法人企業統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、今週木曜日の3月9日に昨年2022年10~12月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。1次QEは小幅なプラス成長でしたが、大きな改定幅ではないものの、上方改定を予測するシンクタンクが多くなっている印象です。でも、下方改定を予想するシンクタンクもあったりします。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である2022年10~12月期ではなく、足元の今年2023年1~3月期から先行きの景気動向について重視して拾おうとしています。ただ、2次QEですので法人企業統計の「オマケ」的な扱いのシンクタンクがほとんどです。例外は、みずほリサーチ&テクノロジーズと東京財団政策研究所であり、みずほリサーチ&テクノロジーズについては下のテーブルに引用しただけではなく、実は、もっと長々と足元から先行きの見通しについて言及されています。また、東京財団政策研究所のナウキャスティングについては、もはや、昨年2022年10~12月期からすでに今年2023年1~3月期に視点が移っていたりします。ですので、正確にいえば2次QE予想ではないのですが、一応、テーブルに収録しています。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.2%
(+0.6%)
n.a.
日本総研+0.2%
(+0.9%)
実質GDP成長率は前期比年率+0.9%(前期比+0.2%)と、1次QE(前期比年率+0.6%、前期比+0.2%)から小幅に上方改定される見込み。
大和総研▲0.0%
(▲0.0%)
2次速報では、民間在庫の減少がGDPを下押ししたものの個人消費や輸出は底堅く推移し、実態としては、GDP成長率が示すよりも景気の回復基調は強かったことが改めて示されるだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ+0.4%
(+1.5%)
先行きもサービス消費やインバウンド需要の回復が継続する一方、欧米を中心とした海外経済の減速が逆風になり、回復ペースは緩やかに。1~3月期は年率+1%弱の成長にとどまると予測。
ニッセイ基礎研+0.3%
(+1.0%)
3/9公表予定の22年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.3%(前期比年率1.0%)となり、1次速報の前期比0.2%(前期比年率0.6%)から上方修正されるだろう。
第一生命経済研+0.1%
(+0.4%)
22年10-12月期はプラス成長とはいえ伸びは僅かなものにとどまり、7-9月期の落ち込み分を取り戻せない。景気の持ち直しのペースが鈍いものにとどまっていることが改めて確認される見込みだ。
伊藤忠総研+0.2%
(+0.8%)
10~12月期の実質GDP成長率(2次速報)は前期比+0.2%(年率+0.8%)と1次速報から小幅上方修正される見通し。個人消費が持ち直しインバウンド需要も回復しているが、財の輸出減と設備投資の停滞で成長ペースが期待されたほど高まっていない姿は変わらず。
三菱総研+0.1%
(+0.2%)
2022年10-12月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.1%(年率+0.2%)と、1次速報値(同+0.2%(年率+0.6%))から下方修正を予測する。
明治安田総研+0.3%
(+1.0%)
先行きはエネルギー関連や食品など、生活必需品の価格高騰が個人消費の下押し圧力となる状況が続くとみられる。1月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数、コアCPI)は前年比+4.2%と、前月から+0.2%ポイント上昇幅が拡大し、約41年ぶりの高い伸びとなった。今後は高めの賃上げや、政府の物価高騰対策が個人消費の下支え役になるものの、食品メーカーによる値上げトレンドが予想以上に長期化するリスクがあり、2023年度前半にかけての個人消費はいったん厳しさを増す展開を予想する。
海外経済の動向を見ると、中国は、すでに都市部を中心に感染者数がピークアウトしたとみられるものの、不動産市場の低迷が続くことで、景気回復ペースは緩慢なものにとどまる可能性が高い。米国では、インフレの高止まりに、累積的な利上げの影響の波及が加わることで、今後大方の予想以上に景気が悪化するリスクがある。日本経済の方向性は米国経済の動向に大きく左右される。米国経済が減速度合いを強めるようであれば、日本も年度前半に景気の山を付ける可能性が否定できない。
東京財団政策研n.a.
(n.a.)
モデルは、2023年1-3月期のGDP(実質、季節調整系列前期比)を、0.18%と予測。※年率換算: 0.72%

上のテーブルの通り、ということで、繰り返しになりますが、私の印象としては法人企業統計からして小幅な上方改定、ということなのですが、下方改定を予測するシンクタンクもあります。ただ、下方改定されるとしても、設備投資と在庫の下方改定が主因と私は見ており、設備投資はともかく在庫調整が進むのであれば、経済の姿としてはそれほど悲観する必要はありません。その意味で、上のテーブルに引用した第一生命経済研究所の見方は、ちょっと見当違いかもしれません。
ということで、成長率については、上方改定にせよ、下方改定にせよ、小幅にとどまるということですので、2次QEから目を転じて、上に引用した各シンクタンクのリポートから、2点だけ興味深いトピックを指摘しておきたいと思います。第1に、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから、日銀の総裁・副総裁の交代に関連して、金融緩和の方向性は不変としても、今年2023年4~6月期に長期金利目標が撤廃され、来年2024年10~12月期にマイナス金利が解除されると予想しています。第2に、これは上のテーブルに引用しておきましたが、明治安田総研のリポートでは、2023年度前半に景気転換点を迎える可能性について言及されています。要因としては見ての通りで、国内の食料品などの値上がりに伴う消費停滞に加えて、米国経済の減速次第では、「日本も年度前半に景気の山を付ける可能性が否定できない」と結論しています。果たしてどうなのでしょうか?
下のグラフはのリポートから引用しています。

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2023年3月 3日 (金)

堅調に推移する2023年1月の雇用統計をどう見るか?

本日は、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が公表されています。いずれも1月統計です。失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.4%を記録し、有効求人倍率は前月から▲0.01ポイント悪化して1.34倍となっています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月求人倍率1.35倍、求職増で低下 失業率2.4%に改善
厚生労働省が3日に発表した1月の有効求人倍率は1.35倍(季節調整値)と、前月から0.01ポイント低下した。2年5カ月ぶりに前月を下回った。有効求職者数は178万1603人で前月から0.6%増え、有効求人数は256万2353人で0.1%減少した。物価高を背景に収入を増やそうと転職を希望する人が増え、求職者1人当たりの求人数を示す求人倍率が低下したとみられる。
総務省が同日発表した1月の完全失業率は2.4%と前月比0.1ポイント低下し、2020年2月以来の水準となった。失業率の改善は2カ月ぶり。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人、1人当たり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど職を得やすい状況となる。新型コロナウイルス禍で2020年9月に1.04倍まで落ち込み、その後は上昇傾向にある。22年8月以降は1.3倍台で推移する。
景気の先行指標とされる新規求人数は93万9104人と前年同月比4.2%増えた。業種別では、コロナの感染拡大下でも訪日外国人など客足が堅調だった宿泊・飲食サービスの伸びが大きく、27.0%増加した。原材料の高騰で生産を減らした製造業は4.0%減少した。新規求人倍率は2.38倍で2カ月連続の横ばいだった。
就業者数は6689万人で前年同月比43万人増えた。6カ月連続で増加した。完全失業者数は21万人減少して164万人となった。非労働力人口は65万人減って4161万人だった。休業者数は219万人で30万人減少した。

続いて、雇用統計のグラフは下の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.5%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、これまた、前月から横ばい1.35倍と見込まれていました。ともに前月から横ばいと予想されていましたが、実績では、失業率はわずかに改善し、有効求人倍率は市場予想からやや下振れしました。総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計はやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロ統計で見て、労働力人口が前月から+12万人増加し、就業者が+18万人、雇用者も+12万人増加する中で、非労働力人口は▲22万人減少しています。失業者が労働市場から退出して非労働力人口化するわけではなく、逆に、非労働力人口から職を得て雇用者・就業者になるわけですので、失業率の低下の要因としては好ましいと私は考えています。マイクロに産業別の雇用を見るため休業者数に着目すると、昨年2022年12月統計では前年同月から+42万人増と、やや増え方が大きくなっていたのですが、直近で利用可能な本日公表の今年2023年1月統計では▲30万人減となっていて、産業別では、宿泊業・飲食サービス業の▲9万人減が目立っています。また、引用した記事にもあるように、雇用の先行指標とみなされている新規求人数でも宿泊業・飲食サービス業では前年同月比で+27.0%増と大きく伸びており、さらに、+27%の内訳では、パートタイムの+24.2%増に対してパートを除く常用雇用は+32.6%増ですから、質的な中身もいいと考えるべきです。新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染状況に応じ、また、インバウンド観光客の水際対策の緩和や国内旅行でも全国旅行支援など、一連の旅行に関する需要の増加が感じられる統計となっています。

最後に、日本時間の本日夜に米国雇用統計も公表される予定となっています。コチラは2月統計です。夜遅くになっても、本日中に取り上げたいと思います。

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2023年3月 2日 (木)

いよいよ企業収益が停滞し始めた2022年10-12月期法人企業統計をどう見るか?

本日、財務省から昨年2022年10~12月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+6.1%増の372兆5850億円だったものの、経常利益は▲2.8%減の22兆3768億円と8四半期ぶりのマイナスを記録しました。そして、設備投資は+7.7%増の12兆4417億円を記録しています。季節調整済みの系列で見ても原系列の統計と同じ基調であり、売上高と設備投資は前期比プラスながら、経常利益はマイナスとなっています。ただ、GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+0.5%増にとどまっています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

法人企業統計、経常益8期ぶりマイナス 22年10-12月
財務省が2日発表した2022年10~12月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)の経常利益は前年同期比2.8%減の22兆3768億円だった。マイナスは8四半期ぶり。製造業が15.7%の大幅減で全体を押し下げた。物価高や世界経済の減速が影を落とし、企業業績の拡大にブレーキがかかった。
経常利益の額は10~12月期として過去最高だった前年を下回ったものの2番目に高い水準となっている。
主要業種をみると、製造業は化学が26.9%の減益だった。石油・石炭は赤字に転落した。原材料価格の上昇が響いている。化学は研究開発費もかさんだ。情報通信機械は海外需要の減少を背景に34.4%の減益だった。
非製造業は5.2%の増益だった。新型コロナウイルス禍からの回復基調を保っている。政府の「全国旅行支援」の補助効果があり、運輸業・郵便業は93.7%増と目立って伸びた。
非製造業でも一部の業種は電気料金の高騰が響き、減益となった。22.9%減の情報通信業は電力消費量の多いデータセンターの経費が膨らんだ。サービス業も11.8%減少した。
売上高は6.1%増の372兆5850億円だった。業種別では製造業が9.2%増。輸送用機械関連が13.6%増えた。非製造業は4.9%増で、電気料金の高騰を背景に電気業(44.8%)の売上増が目立った。
設備投資は全体で7.7%増の12兆4417億円と7期連続のプラスだった。デジタル化や省人化などで旺盛な投資が続いているとみられる。非製造業で8.6%、製造業で6.0%伸びた。
製造業は化学(26.2%)や金属製品(56.4%)が大きく増えた。脱炭素やデジタル関連の投資が旺盛だ。非製造業は新規出店が進んだサービス業で21.9%伸びた。
財務省は今回の法人企業統計について「緩やかに持ち直している景気の状況を反映している」と説明した。先行きについては「物価上昇などの影響を注視する」と、コスト高が企業経営を圧迫するリスクに懸念を示した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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ということで、法人企業統計の結果について、海外景気に依存する割合の高い製造業と内需に基礎を置く非製造業で少し差が出始めた気がします。すなわち、今年2022年に入って1~3月期から内外で物価上昇が進み、日本を除いて先進各国は軒並み金融引締めに転じています。従って、海外経済の停滞から製造業に逆風となる一方で、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大防止のための行動制限がなく、5月のゴールデンウィーク明けからは5類の季節性インフルエンザと同じ分類に見直されると決定されていることから、水際規制の緩和に伴うインバウンドの復調も合わせて、非製造業には追い風となっています。ですから、前年同期比で見る限り、売上高については増収が続いています。引用した記事にもあるように、物価上昇による名目の売上増という面があります。数量ベースの増加にどこまで支えられているかは不明です。他方で、経常利益は製造業と非製造業で明確な差が出ました。非製造業では+5.2%の増益でしたが、製造業では▲15.7%の大きな減益を記録しています。季節調整済みの系列で見ても同様で、季節調整済みの系列の経常利益では、非製造業が前期比+16.5%となったのに対して、製造業は▲23.7%と大きく落ち込みました。このあたりの産業別の跛行性については、キチンと把握しておく必要があります。同時に、上のグラフを見ても理解できるように、売上高はリーマン・ショック直前のサブプライム・バブル期のピークには達していませんが、経常利益はとっくに過去最高益を突破しています。企業サイドからすればカッコ付きで「体質強化」をいえるのかもしれませんが、従業員や消費者のサイドから考えれば、企業利益ばかりが溜め込まれるのがどこまで現在の日本経済に好ましいのかどうか、もちろん、日本経済がかつての高度成長期のように拡大基調であればまだしも、トリックルダウンはほぼほぼ完全に否定され、ほとん経済成長なしに賃金も上がらない中で、企業部門ばかりが利益を積み上げるのが経済社会的に見ていいのかどうか、疑問とする意見もありそうな気がします。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍の中でを経て労働分配率とともに設備投資/キャッシュフロー比率が大きく低下を示しています。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準をすでに超えています。繰り返しになりますが、勤労者の賃金が上がらない中で、企業収益だけが伸びるのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのでしょうか、それとも、現在の経済社会は誰にとって望ましくなるようになっているのでしょうか?

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最後に、本日、内閣府から2月の消費者態度指数が公表されています。2月統計では、前月から+0.1ポイント上昇し31.1を記録しています。指数を構成する4指標のうち、2指標が上昇しています。すなわち、「雇用環境」が+0.8ポイント上昇し38.0、「収入の増え方」が+0.6ポイント上昇し36.2、他方で、「暮らし向き」が▲0.8ポイント低下して27.0、また、「耐久消費財の買い時判断」も▲0.5ポイント低下し23.0を記録しています。「雇用環境」も「収入の増え方」も改善しているにもかかわらず、「暮らし向き」が悪化しているのは明確に物価上昇が原因です。たぶん、「耐久消費財の買い時判断」についても、いく分なりとも物価上昇の影響が見られると私は考えています。統計作成官庁である内閣府では、消費者マインドの基調判断について、先月1月統計で「弱い動きがみられる」と修正し、今月2月統計ではそのまま据え置いています。

なお、本日の法人企業統計を受けて、来週3月8日に内閣府から2022年10~12月期のGDP統計速報2次QEが公表される予定となっています。私は1次QEから設備投資を中心として小幅に上方修正されるであろうと考えていますが、大きな修正ではなかろうと予想しています。この2次QE予想については、また、日を改めて取り上げたいと思います。

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2023年3月 1日 (水)

日本の賃金について考えるニッセイ基礎研究所のリポート「生産性向上が先か、賃上げが先か」やいかに?

一昨日、今週月曜日の2月27日に、日本の生産性と賃金に関してニッセイ基礎研究所から「生産性向上が先か、賃上げが先か」と題するリポートが明らかにされています。まあ、何と申しましょうかで、シンクタンクの数ページのリポートで日本の賃金を語り尽くせるわけもないのですが、少なくとも途中までの分析は秀逸であり、ほぼほぼ私も合意できる内容ですので、簡単に見ておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから 名目賃金の国際比較 を引用しています。いわゆるバブル経済崩壊の1990年を起点としていますので、特に差が際立っているとはいえ、国際比較すると我が国の賃金がほとんど伸びていない、というより、やや減少すら示している点が確認できると思います。このあたりは、同様の指摘が相次いでいて、「韓国にも抜かれた」といった論調があるのは広く知られているとおりかと思います。もっとも、リポートでも指摘していますが、この間、我が国はデフレでもありましたので、実質賃金で見ると、2倍を超えるような大きな差なはない、とはいうものの、数十パーセントの開きが生じていることは確かです。

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そして、経営サイドからは「生産性が伸びないから賃金が伸びない」と言った反論がなされる場合が多いのですが、それを否定するのが上のグラフであり、リポートから 労働生産性(時間当たり)の国際比較 を引用しています。国際比較をすると、時間当たりの労働生産性は名目賃金ほどの乖離がない点は明らかです。米国には及びませんが、我が国の時間当たり労働生産性は欧州先進各国と大差ないと感じるのは私だけではないと思います。イタリアを上回ってすらいます。そして、ここまでの分析は、リクルートワークス研究所のサイトでも同様の結論となっています。

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そして、時間当たりの労働生産性がそれほど差がないにもかかわらず、賃金では大きな差を生じている原因として、上のグラフの通り、リポートでは 労働生産性(時間当たり)の要因分解 を示して、労働時間減少の寄与が大きいからである、と指摘しています。まったくその通りです。そして、別の表現をすれば、上のグラフでは黄色っぽい労働投入量の削減による生産性向上となっていて、緑のGDP=付加価値の拡大を伴わないからである、との指摘です。特に、家計消費と設備投資の停滞を考慮し、家計消費の拡大のためには賃上げが必要、との結論です。生産性向上と賃上げの「ニワトリとタマゴ」の関係では、我が国の生産性の伸びは先進諸国と比較しても遜色ないのであるから、賃上げが欠けている、という結論は十分に受入れられるものです。ただ、1点だけ忘れるべきでないのは。労働投入の削減、すなわち、労働時間の減少がいわゆる「働き方改革」などによってもたらされているわけではない、という事実です。下のグラフは、やや古いんですが、2013年に開催された厚生労働省の雇用政策研究会の資料「正規雇用労働者の働き方について」から引用しています。左のパネルが 年間総実労働時間の推移(パートタイム労働者を含む)、右が 就業形態別年間総実労働時間及びパートタイム労働者比率の推移 となっています。横軸の始点である平成6年はバブル経済崩壊後の1994年、最終データのある平成24年は2012年です。このグラフに収録された20年近くの間に、左のパネルに示されているように、正規と非正規を合わせた年間の総実労働時間は1900時間超から1800時間弱に▲100時間あまり減少しましたが、右のパネルから正規=一般労働者の総実労働期間がまったく減少していないのが見て取れます。他方で、パートタイム労働者の比率は10%強から25%近くに上昇しています。すなわち、賃金が上がらないのは、労働時間が減少しているからであり、労働時間が減少しているのはパートタイム労働者などの非正規雇用が拡大しているからである、と結論されるべきです。ですから、ニッセイ基礎研究所のリポートは、前段の 労働時間の減少 → 賃金が上がらない、は十分に分析されているのですが、後段の 非正規雇用の拡大 → 労働時間の減少、にまで分析が及んでいません。私は、ニッセイ基礎研究所のリポートにあるように、特に現在のような高インフレ下では、需要サイドで 賃上げ → 付加価値拡大、もとても重要だと思いますが、供給サイドで 非正規雇用の拡大 → 労働時間の減少、にも目を向けるべきであり、賃上げほかの手段による需要拡大とともに、何らかの非正規雇用への歯止めが必要だと考えています。ただ、こういった「非正規雇用歯止め」論は支持がないのだろうということは自覚しています。でも、同じように長期のトレンドに抗している反グローバリズムも一定の支持を得ているわけですし、非正規雇用歯止め論も主張し続けるべきだと私は考えています。

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2023年2月28日 (火)

大きな減産となった鉱工業生産指数(IIP)とインバウンドで堅調な伸び続く商業販売統計をどう見るか?

本日は、月末閣議日ということで、経済産業省から鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも1月統計です。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から▲4.6%の減産でした。商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+6.3%増の13兆150億円でした。季節調整済み指数では前月から+1.9%の増加を記録しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

1月の鉱工業生産4.6%低下 3カ月ぶりマイナス
経済産業省が28日発表した1月の鉱工業生産指数(2015年=100、季節調整済み)速報値は91.4となり、前月から4.6%下がった。低下は3カ月ぶり。中国・上海市がロックダウン(都市封鎖)されていた22年5月(88.0)以来の低水準となった。半導体不足で自動車工業が落ち込み、半導体産業の設備投資の先送りで生産用機械工業も振るわなかった。
新型コロナウイルス流行前の19年平均(101.1)を下回る水準となった。生産の基調判断は「弱含み」を維持した。
生産は全15業種のうち、12業種で低下した。普通乗用車や駆動伝導部品といった自動車工業は前月比で10.1%のマイナスだった。半導体不足を受け、米国や中国向けの輸出が減少した。大雪の影響で工場生産も滞っていた。
半導体製造装置などの生産用機械工業は13.5%のマイナスだった。国内外で設備投資を延期する動きがあったという。スマートフォンの需要低迷を背景に、メモリ半導体といった電子部品・デバイス工業も4.2%のマイナスとなった。
残る3業種は上昇した。汎用・業務用機械工業はコンベヤーで国内大型案件が成立し、5.1%のプラスだった。無機・有機化学工業・医薬品を除いた化学工業は3.9%上昇した。新製品発売を受け、頭髪用化粧品などが伸びた。
主要企業の生産計画から算出する生産予測指数は2月に前月比8.0%の上昇を見込む。企業の予測は上振れしやすく、例年の傾向をふまえた経産省の補正値は1.3%のプラスとした。部材供給不足の緩和で、生産用機械工業や輸送機械工業が伸びるとみる。3月の予測指数は0.7%上昇となっている。
経産省の担当者は今後の見通しについて「コロナ感染の拡大状況や物価上昇の影響に加え、企業が先送りした投資計画が2~3月に実施されるか注目する必要がある」と話した。
小売販売額6.3%増 1月、11カ月連続でプラス
経済産業省が28日発表した1月の商業動態統計速報によると、小売業販売額は前年同月比6.3%増の13兆150億円だった。11カ月連続で前年同月を上回った。インバウンド(訪日外国人)の復調や飲食料品の価格上昇などが寄与した。
業態別でみると、百貨店は前年同月比14.4%増の4764億円と大きく伸びた。スーパーは3.1%増の1兆2989億円、コンビニエンスストアは4.1%増の9924億円、ドラッグストアは4.9%増の6479億円だった。
一方、家電大型専門店は1.2%減の4184億円、ホームセンターは1.7%減の2462億円とマイナスだった。
小売業販売額の季節調整済みの指数は108.7で、前月から1.9%上昇した。経産省は基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向にある」に引き上げた。

とてつもなく長くなりましたが、的確に取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは下の通りです。上のパネルは2015年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期を示しています。

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まず、引用した記事にはありませんが、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、鉱工業生産指数(IIP)は予測中央値で▲2.7%、下限で▲4.2%の減産でしたので、実績の▲4.6%減は加減を下回って、少しサプライズだったかもしれません。統計作成官庁である経済産業省では生産の基調判断を「生産は弱含んでいる」で据え置いています。先月の下方修正を維持した形です。欧米先進国ではインフレ抑制のために急激な金融引締を進めており、海外景気は大きく減速していますので、これも含めて内外の需要要因の方が大きいと私は考えています。例えば、経済産業省の解説サイトでは、昨年後半からの精算動向について、7-8月は「部材供給不足の影響が緩和」して増産、9-10月は増産の「反動」により減産、11-12月は「化学工業(除.無機・有機化学工業)や食料品・たばこ工業などが堅調」であり増産、と要因を解説しています。1月には、「自動車工業や生産用機械工業を始めとして多くの業種」で減産となっています。他方で、製造工業生産予測指数を見ると、足元の2月は+8.0%、3月も+0.7%の増産と、それぞれ予想されています。もっとも、上方バイアスを除去すると、2月の予想は前月比+1.3%となります。産業別に1月統計を少し詳しく見ると、減産寄与が大きいのは自動車工業の前月比▲10.1%減、寄与度▲1.45%、生産用機械工業の前月比▲13.5%減、寄与度▲1.23%減、電子部品・デバイス工業の前月比▲4.2%減、寄与度▲0.25%、などとなっています。逆に、生産増の寄与がもっとも大きかった産業は汎用・業務用機械工業の前月比+5.1%増、寄与度+0.37%、化学工業(除、無機・有機化学工業・医薬品)の前月比+3.9%増、寄与度+0.17%、石油・石炭製品工業の前月比+6.6%増、寄与度+0.06%、などとなります。

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続いて、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売業販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのままを、それぞれプロットしています。影を付けた部分は景気後退期を示しています。小売業販売額は新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の感染拡大による行動制限のない状態が続いており、外出する機会にも恵まれて堅調に推移しています。今年のゴールデンウィーク明けにはCOVID-19が感染法上の5類に分類されるようですから、小売業をはじめとする商業販売の上では、インバウンドも含めて追い風といえるかもしれません。季節調整済み指数の後方3か月移動平均でかなり機械的に判断している経済産業省のリポートでは、1月までのトレンドで、この3か月後方移動平均の前月比が+0.6%の上昇となり、引用した記事にもある通り、基調判断を「持ち直している」から「緩やかな上昇傾向」に引き上げています。他方で、消費者物価指数(CPI)との関係では、今年2023年1月統計では前年同月比で+4%超のインフレ率となっており、小売業販売額の1月統計の+6.3%の増加はこれを超えていて、実質でも小売業販売額は前年同月比でプラスになっている可能性があります。通常は、インフレの高進と同時に消費の停滞も生じるのですが、国内需要ではなく海外からのインバウンドにより小売業販売額の伸びが支えられてい可能性があります。ですから、国内消費の実態よりも過大に評価されている可能性が否定できません。他方で、最近まで石油価格の上昇に伴って増加を示していた燃料小売業が、1月統計の前年同月比では+0.7%の増加にまで縮小しています。おそらく、数量ベースではさらに停滞感が強まっている可能性が強いと私は考えています。

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2023年2月27日 (月)

リクルートによる1月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給やいかに?

今週金曜日3月3日の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートによる9月のアルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の調査結果を取り上げておきたいと思います。参照しているリポートは以下の通りです。計数は正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、以下の出典に直接当たって引用するようお願いします。

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まず、いつものグラフは上の通りです。アルバイト・パートの時給の方は、前年同月比で見て、昨年2022年11月+2.3%増、12月+3.3%増の後、今年2023年1月も+2.9%増と順調に伸びています。ただし、足元でやや伸びが鈍化している上に、+4%を超える消費者物価指数(CPI)の上昇率には追いついておらず、実質賃金はマイナスと想像されますので、もう一弾の伸びを期待してしまいます。でも、時給の水準を見れば、昨年2021年年央からコンスタントに1,100円を上回る水準が続いており、かなり堅調な動きを示しています。10月には最低賃金が時給当たりで約30円ほど上昇しましたので、その影響も出た可能性はあります。他方、派遣スタッフの方は昨年2022年11月+1.8%増、12月+2.0%増の後、今年2023年1月も+2.2%増と、伸びを加速させていますが、こちらも消費者物価指数(CPI)の上昇率を下回っています。
まず、三大都市圏全体のアルバイト・パートの平均時給の前年同月比上昇率は、繰り返しになりますが、1月には前年同月より2.9%、+32円増加の1,142円を記録しています。職種別では、「フード系」(+52円、+5.0%)、「製造・物流・清掃系」(+37円、+3.3%)、「専門職系」(37円、+2.9%)、「販売・サービス系」(+27円、+2.5%)で上昇を示した一方で、「事務系」(▲13円、▲1.1%)、「営業系」(▲73円、▲5.7%)、では減少しています。「フード系」では過去最高額になっています。なお、地域別では関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。
続いて、三大都市圏全体の派遣スタッフの平均時給は、1月には前年同月より+2.2%、+35円増加の1,602円になりました。職種別では、「クリエイティブ系」(+87円、+4.8%)、「製造・物流・清掃系」(+53円、+4.0%)、「IT・技術系」(+78円、+3.7%)、「営業・販売・サービス系」(+37円、+2.6%)、「オフィスワーク系」(+4円、+0.3%)、「医療介護・教育系」(+4円、+0.3%)、とすべてプラスとなっています。「営業・販売・サービス系」、「製造・物流・清掃系」、「クリエイティブ系」、「IT・技術系」の4職種では過去最高を記録しています。なお、地域別でも関東・東海・関西のすべての三大都市圏でプラスとなっています。

基本的に、アルバイト・パートも派遣スタッフもお給料は堅調といえますが、物価上昇を下回っていて実質賃金は減少していると考えるべきです。加えて、日本以外の多くの先進国ではインフレ率の高まりに対応して金利引上げなどの金融引締め政策に転じていることから、世界経済が景気後退の瀬戸際にあることは確実であり、雇用の先行きについては下振れ懸念が払拭されていないと考えるべきです。

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2023年2月24日 (金)

+4%台の上昇続く消費者物価指数(CPI)をどう見るか?

本日、総務省統計局から1月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は、季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比で+4.0%を記録しています。報道によれば、第2次石油危機の影響がまだ残っていた1981年12月の+4.0%以来、41年ぶりの高い上昇率だそうです。ヘッドライン上昇率も+4.0%に達している一方で、エネルギー価格の高騰に伴うプラスですので、生鮮食品とエネルギーを除く総合で定義されるコアコアCPI上昇率は+3.0%にとどまっています。というか、エネルギーと生鮮食品を除いてもインフレ目標の+2%を超えています、というべきかもしれません。まず、日経新聞のサイトから統計を報じる記事を引用すると以下の通りです。

日本の消費者物価、1月4.2%上昇 41年4カ月ぶり伸び
総務省が24日発表した1月の消費者物価指数(CPI、2020年=100)は変動の大きい生鮮食品を除く総合指数が104.3となり、前年同月比で4.2%上昇した。第2次石油危機の影響で物価が上がっていた1981年9月(4.2%)以来、41年4カ月ぶりの上昇率だった。円安や資源高の影響で、食料品やエネルギーといった生活に身近な品目が値上がりしている。
上昇は17カ月連続。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(4.3%)は下回った。消費税の導入時や税率の引き上げ時も上回り、日銀の物価上昇率目標2%の2倍以上となっている。
調査品目の522品目のうち、前年同月より上がったのは414、変化なしは44、下がったのは64だった。
生鮮食品を含む総合指数は4.3%上がった。81年12月(4.3%)以来、41年1カ月ぶりの上昇率だった。生鮮食品とエネルギーを除いた総合指数は3.2%上昇し、消費税導入の影響を除くと82年4月(3.2%)以来40年9カ月ぶりの伸び率となった。
品目別に上昇率をみると、生鮮を除く食料が7.4%上昇し全体を押し上げた。食料全体は7.3%だった。食品メーカーが相次いで値上げに踏み切っており、食用油が31.7%、牛乳が10.0%、弁当や冷凍食品といった調理食品は7.7%伸びた。
エネルギー関連は14.6%上がった。都市ガスは35.2%、電気代は20.2%の上昇だった。
宿泊料は2022年12月のマイナス18.8%からマイナス3.0%となり、指数全体を押し下げる効果は小さくなった。政府が観光支援策「全国旅行支援」の割引率を縮小した影響が表れた。

なにせ今一番の注目の経済指標ですのでやや長くなりましたが、いつものように、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者物価(CPI)上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIと生鮮食品とエネルギーを除くコアコアCPI、それぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフはコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。寄与度はエネルギーと生鮮食品とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1ケタの指数を基に私の方で算出しています。丸めずに有効数字桁数の大きい指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。統計局の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。

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まず、引用した記事にもあるように、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+4.3%の予想でしたので、実績の4.2%の上昇率はほぼほぼ予想通りと考えられます。もちろん、物価上昇の大きな要因は、基本的に、資源とエネルギー価格の上昇による供給面からの物価上昇と考えるべきですが、もちろん、円安による輸入物価の上昇も一因です。すなわち、コストプッシュによるインフレであり、日銀による緩和的な金融政策による需要面からのディマンドプルが主因となっている物価上昇ではありません。CPIに占めるエネルギーのウェイトは1万分の712なのですが、1月統計におけるエネルギーの前年同月比上昇率は+14.6%に達していて、ヘッドラインCPI上昇率に対する寄与度は+1.17%あります。このエネルギーの寄与度+1.17%のうち、電気代が+0.75%と大きな部分を占め、次いで、都市ガス代の+0.35%などとなっています。加えて、生鮮食品を除く食料の上昇率も高くなってきていて、昨年2022年10月統計+5.9%、11月統計+6.8%、12月統計+7.4%に続いて、今年2023年1月統計でも+7.4%の上昇を示しており、ウェイトがエネルギーの3倍超の1万分の2230ありますので影響も大きく、+1.66%の寄与となっています。統計からしても、値上がりの主役はエネルギーから食料に移ったと考えるべきです。1月統計の生鮮食品を除く食料の前年同月比上昇率とヘッドライン上昇率に対する寄与度を少し細かく中分類で見ると、+17.9%の上昇を示したハンバーガーをはじめとする外食が+5.9%の上昇率で+0.27%の寄与、+9.9%の上昇を示したからあげをはじめとする調理食品が+7.7%で+0.27%の寄与、+10.0%の上昇を示した豚肉(国産品)をはじめとする肉類が+7.6%で+0.19%の寄与、+11.5%の上昇をを示した食パンをはじめとする穀類が+8.1%の上昇率で+0.17%の寄与度、+16.1%の上昇を示したポテトチップスをはじめとする菓子類が+7.0%の上昇で+0.17%の寄与、などとなっています。私も週に2~3回くらいは近くのスーパーで身近な商品の価格を見て回りますが、ある程度は生活実感にも合っているのではないかと思います。繰り返しになりますが、ヘッドライン上昇率とコアCPI上昇率は1月統計で、どちらも+4%ですから、エネルギーの寄与度が+1.17%、生鮮食品を除く食料による寄与度が+1.66%ですから、これだけで+3%近い寄与となります。それ以外の寄与は+1.5%ほどなわけです。
ただし、現在のインフレ目標+2%を超える物価上昇率は長続きしません。すなわち、おそらく、今年2023年1月統計で+4%が続く可能性は十分あるとしても、その後、急速にインフレ率は縮小します。引用した記事にもある通り、日本経済研究センター(JCER)によるEPSフォーキャストでは今年2023年1~3月期+2.95%、4~6月期+2.51%の後、7~9月期には日銀のインフレ目標を下回って+1.82%まで上昇幅を縮小させると予想されています。他にも、ニッセイ基礎研究所のリポートによれば、「23年1月のコアCPIは前年比4.2%と41年4ヵ月ぶりの高い伸びとなったが、2月には電気・都市ガス代の負担緩和策が実施されることから、一気に3%程度まで伸びが低下する可能性が高い。」と日本経済研究センターのESPフォーキャストと同じように物価上昇率は高止まりしつつも鈍化するという見方をしています。加えて、引用した記事の最後のパラにあるように、「全国旅行支援」が宿泊料に及ぼす影響も無視できず、需給や通貨供給ではない政府による物価の撹乱が大きいといえます。

最後に、現在の物価上昇がなぜ家計へのダメージ大きいかについてグラフを追加しておきます。以下の通りです。上のパネルは購入頻度別消費者物価上昇率、下は基礎的・選択的支出別消費者物価上昇率です。見れば明らかなように、購入頻度が高くて、基礎的な生活必需品である品目ほど物価上昇率が大きくなっています。ですから、平均的な家計では+4%を上回る物価上昇の実感を持っている可能性が高いと考えるべきです。

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2023年2月22日 (水)

企業向けサービス価格指数(SPPI)はそろそろピークアウトするのか?

本日、日銀から1月の企業向けサービス価格指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+1.6%を記録し、変動の大きな国際運輸を除くコアSPPIも+1.5%の上昇を示しています。サービス物価指数ですので、国際商品市況における石油をはじめとする資源はモノであって含まれていませんが、こういった資源価格の上昇がジワジワと波及している印象です。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格、1月1.6%上昇 23カ月連続プラス
日銀が22日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2015年平均=100)は107.4と、前年同月比1.6%上昇した。23カ月連続でプラスだった。観光振興策「全国旅行支援」の割引率縮小やインバウンド(訪日外国人)需要の回復を背景に、宿泊サービスが全体を押し上げた。
機械修理サービスも価格が上がった。光熱費や人件費の上昇を転嫁する動きがみられる。新聞広告も旅行関連の出稿需要の高まりで押し上げられた。
タンカーなどの国際運輸は下落した。海運市況の悪化や円高傾向が影響した。
調査対象となる146品目のうち、価格が前年同月比で上昇したのは98品目、下落したのは16品目だった。

コンパクトによく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価指数(SPPI)のグラフは下の通りです。上のパネルはヘッドラインのサービス物価(SPPI)上昇率及び変動の大きな国際運輸を除くコアSPPI上昇率とともに、企業物価(PPI)の国内物価上昇率もプロットしてあり、下のパネルは日銀の公表資料の1ページ目のグラフをマネして、国内価格のとサービス価格のそれぞれの指数水準をそのままプロットしています。企業物価指数(PPI)とともに、企業向けサービス物価指数(SPPI)が着実に上昇トレンドにあるのが見て取れます。なお、影を付けた部分は、日銀公表資料にはありませんが、景気後退期を示しています。

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上のグラフで見ても明らかな通り、企業向けサービス価格指数(SPPI)の前年同月比上昇率の2022年中の推移は、2022年6月に上昇率のピークである+2.1%をつけ、その後も、7月と9月は+2.0%を記録しましたが、10月+1.8%、11月+1.7%、12月1.5%、そして、本日公表された1月統計では+1.6%と、ジワジワと上昇幅を縮小させ始めているように見えます。もちろん、前年同期比プラスは2年近い23か月の連続となっていますし、石油価格の影響の大きい国際運輸を除くコアSPPI上昇率は昨年2022年9~11月に3か月連続で+1.5%まで拡大した後、1月でもまだ+1.5%を記録しています。すなわち、上昇幅が縮小し始めたと判断するのは早計かもしれませんが、他方で、少なくとも上昇率がグングン加速するという段階は脱したといえそうです。しかも、ヘッドラインSPPI上昇率は日銀の物価目標に届かない+1%台半ばですから、私の見方からすれば高止まりしているとすら表現しかねます。もう何度も指摘されている点ですが、基本的には、石油をはじめとする資源価格の上昇が円安と相まってサービス価格にも波及したコストプッシュが主な要因と考えるべきです。もちろん、ウクライナ危機に起因する資源高の影響に加えて、新興国や途上国での景気回復に伴う資源需要の拡大というディマンドプルの要因も無視できません。
もう少し詳しく、SPPIの大類別に基づく直近1月統計のヘッドライン上昇率+1.6%への寄与度で見ると、引用した記事にもある通り、機械修理や宿泊サービスなどの諸サービスが+0.71%と大きな寄与を示し、ほかに、石油価格の影響が強い外航貨物輸送、鉄道旅客輸送などの運輸・郵便が+0.32%、リース・レンタルが+0.32%、などとなっています。また、寄与度ではなく大類別の系列の前年同月比上昇率で見ても、特に、運輸・郵便が+2.0%の上昇となったのは、エネルギー価格の上昇が主因であると考えるべきです。ただし、この上昇率も昨年2022年12月の+2.5%からはいくぶん縮小しています。もちろん、資源価格のコストプッシュ以外にも、リース・レンタルの+4.1%、広告の+2.8%の上昇など、ヘッドライン上昇率を超える上昇幅を示している項目は、それなりに景気に敏感な項目であり、需要の盛り上がりによるディマンドプルの要素も大いに含まれている、と私は受け止めています。ですので、エネルギーなどの資源価格のコストプッシュだけでなく、国内需要面からもサービス価格は上昇基調にあると考えていいように私は受け止めています。

最後に、本日公表された企業向けサービス価格指数(SPPI)だけでなく、幅広く物価動向について一般的に考えると、第1に、私はクルーグマン教授がニューヨーク・タイムズで述べているように、一貫して Team Transitory の一員、すなわち、高インフレは一時的とみなしています。第2に、物価上昇が中小企業の価格転嫁を認めないという大企業の過酷な取引慣行によって阻害されるのは好ましくないと考えています。例えば、朝日新聞NHKで報じられているように、中小企業庁では「価格交渉促進月間(2022年9月)フォローアップ調査の結果について」と題して、中小企業10社以上から名指しされた発注元150社の実名を公表しています。こういった点を考え合わせると、あるいは、下請けに対する価格転嫁の受入れ拒否などの不当な取引慣行によって物価が上昇しないのも、日本経済の弱点のひとつかもしれません。ただし、これは企業担当者や経営者の気持ちの問題ではなく、価格転嫁のシステムに関して制度的な裏付けが必要です。

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2023年2月21日 (火)

第一生命経済研究所のリポート「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」やいかに?

昨日2月20日に第一生命経済研究所から「花粉の大量飛散が日本経済に及ぼす影響」と題するリポートが明らかにされています。やや、際物っぽい気もしますが、今年の花粉飛散で苦しんでいる身としては切実なものもあります。まあ、何と申しましょうかで、それほど真面目に考えるべき分析ではありませんが、まあ、面白半分に取り上げておきます。

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まず、リポートから 1-3月期の家計消費と前年7-9月期の気温の関係 の散布図グラフを引用すると上の通りです。決定係数が極めて低いので、基本的に無相関なのですが、順相関か逆相関か、といわれれば、一応、夏季の気温とその半年後の家計消費の間には負の相関関係が観察されています。そして、この相関関係は、時間をさかのぼって因果関係となることはない、という絶対的な真理により、夏季の気温から半年後の家計消費への因果関係は考えられなくはないものの、その逆はあり得ません。家計消費が半年前の夏季の気温の原因となることは絶対にありえません。当然です。

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続いて、リポートから 1-3月期の消費支出と前年7-9月期の平均気温の相関関係 のグラフを引用すると上の通りです。保健医療に正の相関があるのは、「あるいは」という気を起こさせます。また、通常の食料や被覆及び履物と負の相関があるのは、花粉飛散による外出手控えが関係している可能性もあり得ます。

まあ、何と申しましょうかで、バックグラウンドに理論モデルがほぼほぼ存在せず、単純な回帰分析の計測で終わっているわけですので学術論文にはなり得ませんが、十分に遊び心は感じられます。

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