2023年12月 8日 (金)

11月の米国雇用統計は過熱感の解消に向かう労働市場を反映

日本時間の今夜、米国労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の前月差は昨年2021年から着実にプラスを記録していましたが、直近の11月統計では+199千人増となり、失業率は前月から▲0.2%ポイント低下の3.5%を記録しています。まず、USA Today のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を思いっ切り長めに10パラ引用すると以下の通りです。

November jobs report shows economy added 199,000 jobs; unemployment at 3.7%
Hiring picked up in November as striking auto workers and actors returned to the fold, and businesses continued to largely shrug off high inflation and interest rates.
Employers added 199,000 jobs and the unemployment rate fell from 3.9% to 3.7%, the Labor Department said Friday.
Economists had estimated that 186,000 jobs were added last month, according to a Bloomberg survey.
The resolution of strikes by the United Auto Workers and Screen Actors Guild was expected to boost payroll gains by 38,000 after dragging down the total by a similar amount in October, Goldman Sachs said. Barclays forecast a slightly bigger bump of 46,000.
Meanwhile, employers reportedly brought on fewer temporary workers this holiday season, curtailing hiring in retail as well as transportation and warehousing, according to Oxford Economics.
Still, the number of employees working for small businesses, and their hours, declined by less than usual this fall, according to Homebase, which makes employee scheduling software.
More broadly, job growth has slowed from an average monthly pace of about 300,000 early this year to still solid 200,000 recently. Economists predict monthly gains will downshift to about 40,000 by next summer and average just 55,000 for all of 2024, according to a survey last month by the National Association of Business Economics.
Nearly half of those economists say there’s a 26% to 50% chance of recession in the next year while a quarter believe a downturn is probable. The forecasters recently have lowered the odds amid a resilient economy.
But activity is slowing as low- and moderate-income households deplete their COVID-related stimulus checks and other savings. Credit card debt hovers at an all-time high, largely because of swiftly rising prices, and delinquencies have climbed.
Inflation has cooled to 3.7% since hitting a 40-year high of 9.1% last year due to pandemic-related supply snags and worker shortages, but it’s still above the Federal Reserve’s 2% target. And although the Fed since July has paused its aggressive interest rate hikes to fight the price surge, its key rate remains at a 22-year high of 5.25% to 5%.

よく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルでは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門を、さらに、下は失業率をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。NBERでは2020年2月を米国景気の山、2020年4月を谷、とそれぞれ認定しています。ともかく、2020年4月からの雇用統計からやたらと大きな変動があって縦軸のスケールを変更したため、わけの判らないグラフになって、その前の動向が見えにくくなっています。少し見やすくしたんですが、それでもまだ判りにくさが残っています。

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ということで、米国の雇用は非農業部門雇用者の増加が、ひとつの目安とされる+200千人を2か月連続で下回り、失業率は3%台後半を継続しているものの、4月の3.4%からはジワジワと上昇している印象であることから、人手不足は落ち着きつつあり、労働市場の過熱感も解消されつつある、と考えるべきです。ただ、引用した記事の3パラめにあるように、Bloomberg による市場の事前コンセンサスでは+186千人の雇用増を見込んでいましたので、実績はやや上振れた印象です。先月の統計公表時には、私は「ビミョーな段階に入った」と評価しましたが、半歩進んで過熱感解消の方向に進んでいるといえます。インフレについても落ち着きを取り戻しつつあり、連邦準備制度理事会(FED)は利上げ局面を終え、リセッションを回避してソフトランディングを確実なものとする方向での政策運営に転じた、と考えられているようです。それが日本経済にとっては、円安解消の方向に進む為替相場、という形で実感されているところではないでしょうか。

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下方修正された7-9月期GDP統計速報2次QEをどう見るか?

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は▲0.7%、前期比年率で▲2.9%と4四半期ぶりのマイナス成長で、1次QEから下方修正されています。なお、GDPデフレータは季節調整していない原系列の前年同期比で+5.3%に達し、1次QEの+5.1%から上振れています。まず、日経新聞のサイトから統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

GDP、年率2.9%減に下方修正 7-9月改定値
内閣府が8日発表した7~9月期の国内総生産(GDP)改定値は物価変動の影響を除いた実質の季節調整値が前期比0.7%減、年換算で2.9%減だった。11月の速報値(前期比0.5%減、年率2.1%減)から下方修正した。個人消費などが弱含み、4四半期ぶりのマイナス成長となった。
QUICKが事前にまとめた民間予測の中心値は前期比0.5%減、年率2.0%減だった。成長率への寄与度は内需がマイナス0.6ポイント、外需がマイナス0.1ポイントだった。
速報値では内需がマイナス0.4ポイント、外需がマイナス0.1ポイントの寄与度となっていた。内需の落ち込み幅が広がり、全体を押し下げた。
内需の柱である個人消費は速報値の前期比0.0%減から0.2%減に下方修正した。2四半期連続のマイナスとなった。最新の消費関連統計を反映した結果、食品や衣服などの消費が弱含んだ。
品目別に見ると、衣服などの半耐久財は0.5%減から3.2%減に、食品などの非耐久財は0.1%減から0.3%減に下振れした。
設備投資は前期比0.6%減から0.4%減に上方修正した。マイナスは2四半期連続となる。
財務省が1日に公表した7~9月期の法人企業統計などを反映した。金融・保険業を除く全産業の設備投資が季節調整済みの前期比で1.4%増えた。非製造業が持ち直した。
民間在庫の寄与度は前期比でマイナス0.3ポイントからマイナス0.5ポイントにマイナス幅が拡大した。在庫を積み増す動きが速報値での想定より弱かった。住宅投資は0.1%減から0.5%減に落ち込んだ。公共投資は前期比0.5%減から0.8%減に下方修正した。
国内の総合的な物価動向を示すGDPデフレーターは前年同期比5.3%上昇した。速報値では5.1%上昇だった。名目GDPは前期比0.0%減、年率換算でも0.0%減だった。実額は年換算で名目が595兆円となり、速報値の588兆円から増えた。

いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事となっています。次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2022/7-92022/10-122023/1-32023/4-62022/7-9
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)▲0.1+0.2+1.2+0.9▲0.5▲0.7
民間消費+0.1▲0.0+0.9▲0.6▲0.0▲0.2
民間住宅+0.4+0.7+0.3+1.7▲0.1▲0.5
民間設備+1.8▲0.8+1.8▲1.3▲0.6▲0.4
民間在庫 *(+0.0)(▲0.2)(+0.7)(▲0.3)(▲0.3)(▲0.5)
公的需要+0.1+0.7+0.5+0.1+0.2+0.1
内需寄与度 *(+0.4)(▲0.2)(+1.6)(▲1.0)(▲0.4)(▲0.6)
外需寄与度 *(▲0.5)(+0.4)(▲0.4)(+1.6)(▲0.1)(▲0.1)
輸出+2.2+1.5▲3.6+3.8+0.5+0.4
輸入+4.9▲0.7▲1.5▲3.3+1.0+0.8
国内総所得 (GDI)▲0.7+0.7+1.8+1.6▲0.4▲0.4
国民総所得 (GNI)▲0.2+1.2+0.5+2.0▲0.5▲0.6
名目GDP▲0.3+1.7+2.2+2.6▲0.0▲0.0
雇用者報酬+0.1▲0.2▲1.3+0.2▲0.6▲0.7
GDPデフレータ▲0.3+1.5+2.3+3.8+5.1+5.3
内需デフレータ+3.2+3.6+3.2+2.7+2.4+2.6

上のテーブルに加えて、需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、縦軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率がマイナス成長を示し、在庫が大きなマイナス寄与のほかは、GDPの需要項目のいろんなコンポーネントが小幅にマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、1次QEから下方修正というのは、しかも、ここまでの大きさの下方修正というのは少し驚きでした。特に内需です。我が国でも他の先進国と同じようにインフレにより消費の伸びが鈍化して、前期比成長率▲0.7%に対する寄与度で▲0.1%のマイナス寄与を示しています。ただし、内需寄与度は前期比成長率に対して▲0.6%の大きさなのですが、その大部分は在庫変動です。すなわち、GDP前期比成長率▲0.7%のうち、在庫が▲0.5%の大きさとなっています。もちろん、売れ行き好調で在庫が意図せず減少したわけではないでしょうから、意図された在庫の調整が進んだということになります。ですので、マイナス成長ながら、決してここまで悪い姿ではないと考えるべきです。もちろん、この在庫の寄与を別にしても内需はマイナス寄与ですので、決して楽観はできません。特に、足元でジワジワと円高が進み、ソフトランディングに成功するとしても、米国をはじめとする先進国経済が金融引締めにより減速することが明らかですから、輸出主導の成長は期待できないわけで、内需が消費も設備投資も停滞する中で、景気後退には入らないまでも経済全体として停滞色を強めるおそれは十分あります。何度でも繰り返しますが、内需ではインフレに追いつかない賃上げが日本経済の大きな課題と私は受け止めています。

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最後に、本日、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、財務省から10月の経常収支が、それぞれ、公表されています。各統計のヘッドラインを見ると、景気ウォッチャーでは、季節調整済みの系列の現状判断DIが前月に対して横ばいの49.5となった一方で、先行き判断DIは+1.0ポイント上昇の49.4を記録しています。また、経常収支は、季節調整していない原系列の統計で+2兆5828億円の黒字を計上しています。景気ウォッチャーと経常収支のグラフは上の通りです。

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2023年12月 7日 (木)

3か月連続で上昇し「拡大」の基調判断続く10月の景気動向指数をどう見るか?

本日、内閣府から10月の景気動向指数公表されています。統計のヘッドラインを見ると、CI先行指数が前月から▲0.6ポイント下降の108.7を示した一方で、CI一致指数は+0.2ポイント上昇の115.9を記録しています。CI一致指数の上昇は3か月連続となっています。まず、統計のヘッドラインを報じる記事をロイターのサイトから引用すると以下の通りです。

景気動向一致指数10月は前月比0.2ポイント改善 判断据え置き
内閣府が7日公表した10月の景気動向指数速報(2020年=100)は、一致指数が前月比0.2ポイント上昇の115.9となり3カ月連続のプラスだった。投資財出荷指数や有効求人倍率、鉱工業生産指数の改善が寄与した。投資財はボイラーやコンベア、金型の出荷が増えた。
一方先行指数は前月比0.6ポイント低下の108.7と2カ月連続のマイナスだった。鉱工業用生産財在庫率や東証株価指数、中小企業売上見通しなどの悪化が響いた。定期修理の影響で化学製品の在庫が増えたことなどが影響した。
指数から一定のルールで決まる基調判断は、ことし4月以来の「改善を示している」で据え置いた。

とてもシンプルに取りまとめられている印象です。続いて、景気動向指数のグラフは下の通りです。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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10月統計のCI一致指数については、3か月連続の上昇となりました。3か月後方移動平均の前月差でも+0.34ポイントの上昇となり、加えて、7か月後方移動平均でも0.20ポイント上昇と、7か月連続の前月差プラスとなっています。統計作成官庁である内閣府では基調判断を「改善」で据え置いています。もっとも、CI一致指数やCI先行指数を見る限り、このブログで何度も繰り返しますが、我が国の景気回復・拡大は拡大ながら、その拡大局面の後半に入っていると考えるべきです。もちろん、すでに景気後退局面に入っているわけではなさそうで、さらに、米国経済がソフトランディングに成功するとすれば、そうすぐには景気後退入はしない可能性が高い、と私は考えています。CI一致指数を構成する系列を詳しく見ると、プラスの寄与では、投資財出荷指数(除輸送機械)が+0.30ポイント、有効求人倍率(除学卒)+0.23ポイント、生産指数(鉱工業)+0.18ポイント、などとなっています。逆に、マイナス寄与が大きい系列は、商業販売額(小売業)(前年同月比)▲0.27ポイント、鉱工業用生産財出荷指数▲0.22ポイント、輸出数量指数▲0.14ポイント、などとなっています。
景気の先行きについては、国内のインフレや円安の景気への影響などはともかく、日銀の異次元緩和政策の修正に伴う金利上昇に関してはマイナス要因と考えるべきです。もっとも、3~4四半期とラグが長いので注意が必要です。

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2023年12月 6日 (水)

経済協力開発機構(OECD)による生徒の学習到達度調査(PISA2022)の結果やいかに?

昨日12月5日、経済協力開発機構(OECD)から昨年2022年に実施された生徒の学習到達度調査 (PISA2022) の結果が公表されています。PISAとは、Programme for International Student Assessment の略であり、15歳児を対象に読解力 reading、数学 mathematics、科学 science の3科目について、3年ごとに国際的に調査を実施し、結果は広く公表されており、データもかなり詳細に提供されています。2000年が初回の調査であり、2015年の第6サイクルからコンピュータ使用型の調査に衣替えし、昨年2022年のPISAは第8サイクルに当たります。OECD加盟の先進国23か国をはじめとして、計81の国と地域の15歳の生徒約69万人が参加しています。なお、参考としたソースは、OECDの1次資料と国立教育政策研究所のリポートであり、リンクは以下の通りです。

まず、日本の生徒の位置を確認したいと思います。下のグラフは、OECDのサイトにあるCountry Noteの日本から Figure 1. Trends in performance in mathematics, reading and science を引用しています。

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オレンジの折れ線はOECD23か国平均のスコアであり、日本のスコアは、読解力、数学、科学ともかなり平均よりも上に位置していることが見て取れます。前回のPISA2018では日本は世界で18位だったのですが、今回のPISA2022では3位へと順位を大きく上げて、世界のトップレベルに復帰しています。科目別に参加した国・地域合わせて81の中の日本の順位を見ると、読解力3位、数学5位、科学2位となっていて、OECD加盟の先進国23か国中では、読解力2位、数学1位、科学1位と、まさに世界のトップクラスといえます。
ただし、注意すべき点があることも確かです。というのは、この第8サイクルのPISAは、もともと、2021年に予定されていたのですが、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の影響で1年延期して2022年に実施されています。そして、日本が好成績を収めた背景として、OECDのサイトでCOVID-19による学校閉鎖期間が短かった点が指摘されています。すなわち、日本では、16%の生徒が新型コロナウイルス感染症の影響で校舎が3か月以上閉鎖されたと報告されている一方で、OECD諸国の平均では、51%の学生が同様に長期にわたる学校閉鎖を経験した、"In Japan, 16% of students reported that their school building was closed for more than three months due to COVID-19. On average across OECD countries, 51% of students experienced similarly long school closures." ということのようです。でも、そういった事情を考慮するとしても、私のドメインである大学や高等教育をさて置いても、まだまだ、日本の生徒や中等教育は優秀であるという結論に違いはないものと私は考えています。

最後に、日本人の学力はPISAの結果を見ても優秀ですし、同様の調査である国際成人力調査 (PIAAC)、あるいは、IEA国際数学・理科教育動向調査(TIMSS)などのデータからしても、控えめにいっても、日本人が高い潜在的能力を有していることは明らかです。こういった質の高い労働力がありながら、生産性が低いだの、だから賃金が上がらないだのと、経営サイドは日本経済の停滞について労働者の責任のような見方を示していますが、ハッキリと政府の政策と経営のマネジメントが悪いと考えるべきです。まあ、一部には私の属している大学教育の責任かもしれませんが…

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7-9月期GDP統計速報2次QEの予想やいかに?

先週の法人企業統計をはじめとして、必要な統計がほぼ出そろって、今週金曜日の12月8日に7~9月期GDP統計速報2次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる2次QE予想が出そろっています。ということで、いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下のテーブルの通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、GDP統計の期間である7~9月期ではなく、足元の10~12月期から先行きの景気動向を重視して拾おうとしています。ただし、いつものように、2次QEですのでアッサリとした解説が多く、中には法人企業統計のオマケの扱いも少なくありません。いずれにせよ、詳細な情報にご興味ある向きは一番左の列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE▲0.5%
(▲2.1%)
n.a.
日本総研▲0.5%
(▲2.0%)
7#xFF5E;9月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資と公共投資が小幅に上方改定される見込み。この結果、成長率は前期比年率▲2.0%(前期比▲0.5%)と、1次QE(前期比年率▲2.1%、前期比▲0.5%)からわずかながら上方改定されると予想。
大和総研▲0.3%
(▲1.1%)
内需寄与度は1次速報から上方修正されると予想する。2次速報では、個人消費や設備投資などの民需が振るわず、停滞感が強かったことが改めて示されるだろう。
みずほリサーチ&テクノロジーズ▲0.5%
(▲2.1%)
先行きの日本経済は、外需が抑制される一方で内需が下支えし緩やかなプラス成長に戻るとみているが、その中で大きな焦点となるのが、2023年に盛り上がった賃上げ気運が2024年以降も持続するかどうかである。コストとしての人件費上昇はサービス分野を中心に物価押し上げ要因になることに加え、持続的な賃上げで家計の購買力・消費需要が高まれば、企業からみて価格転嫁をしやすくなり、「賃金と物価の好循環」が実現する可能性が高まる。
(略)
仮に2024年の賃上げ率が2023年以上の高い水準になり、2%物価目標達成の公算が大きくなったと日本銀行が判断した場合には、イールドカーブ・コントロール(YCC)撤廃やマイナス金利解除といった金融政策の修正が来年前半にも実施される可能性が高まる。黒田前総裁の体制から続いた異次元緩和からの転換という点で、大きな節目と言えよう。この場合、先行きの金融政策正常化期待から長期金利は1%を上回る水準に上昇するほか、(米金利の動向にも左右されるが)ドル円相場は1ドル=130円台まで円高が進む可能性もあるとみずほリサーチ&テクノロジーズは想定している。
現時点では、個人消費が力強さを欠く中で企業の価格転嫁姿勢に慎重姿勢が残り、2%物価目標の達成は難しいとの見方がメインシナリオであるが(輸入物価上昇の影響が剥落する2025年度以降のコアCPI前年比は2%を下回る水準まで鈍化する可能性が高いと予測している)、2024年春闘の帰趨が賃金・物価の持続的な上昇が実現するかどうかの大きな分岐点になることは間違いない。年末頃からスタートする賃金交渉の行方に注目したい。
ニッセイ基礎研▲0.6%
(▲2.2%)
12/8公表予定の23年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.6%(前期比年率▲2.2%)と予想する。1次速報の前期比▲0.5%(前期比年率▲2.1%)とほぼ変わらないだろう。
第一生命経済研▲0.5%
(▲2.1%)
12月8日に内閣府から公表される2023年7-9期実質GDP(2次速報)は前期比年率▲2.2%(前期比▲0.6%)と、1次速報の前期比年率▲2.1%(前期比▲0.5%)から僅かに下方修正されると予想する。
伊藤忠総研▲0.3%
(▲1.1%)
7#xFF5E;9月期の実質GDP成長率(2次速報)は前期比▲0.3%(年率▲1.1%)と1次速報から上方修正される見通し。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.4%
(▲1.6%)
2023年7#xFF5E;9月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、前期比▲0.4%(前期比年率換算▲1.6%)と1次速報値の前期比▲0.5%(年率換算▲2.1%)から上方修正される見込みである。
三菱総研▲0.5%
(▲2.1%)
2023年7-9月期の実質GDP成長率は、季調済前期比▲0.5%(年率▲2.1%)と、1次速報値から据え置きを予測する。
明治安田総研▲0.5%
(▲2.0%)
先行きに関しては、物価上昇率のピークアウトに伴う実質所得の増加などにより個人消費は回復に向かうと予想する。設備投資は計画が強いことから、向こう1~2年というタームではある程度堅調な推移が見込めるものの、機械受注などの先行指標の動向を確認する限り、少なくとも年内は軟調な推移が続く可能性が高まっている。輸出は、インバウンド需要の回復が一定程度下支えとなるものの、米国景気の減速や中国景気の回復の鈍さが足枷となり、冴えない推移が続くとみる。これらを踏まえれば、日本の景気は緩やかな回復にとどまると予想する。

上のテーブルを見れば明らかな通り、7~9月期のGDP統計速報2次QEは、1次QEと比較してもほとんど変更なく、消費や投資といった内需が振るわずに停滞した印象であり、情報修正されるとしても、下方修正されるとしても、その修正幅はわずかであろうと予想されています。ただし、足元の10~12月期については物価上昇のピークアウトを背景にプラス成長に回帰することを予想するシンクタンクがいくつかあります。もっとも、プラス成長を記録したとしても、それほど力強い成長を示すわけではなかろう、というのが緩やかなコンセンサスであると私は受け止めています。
下のグラフは、みずほリサーチ&テクノロジーズのリポートから引用しています。

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2023年12月 5日 (火)

COP28における日本の存在感や役割はどうなっているのか?

広く報じられているように、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)がアラブ首長国連邦(UAE)のドバイにて、11月30日から12月12日までの予定で開催されています。今回のCOPでもっとも注目されている点のひとつは、グローバル・ストックテイクという世界全体の進捗を評価する5年に1度の機会です。2016年11月の IGES Working Paper "Empowering the Ratchet-up Mechanism under the Paris Agreement" によれば、次の4つのポイントで評価されます。

  1. The global stocktake should first clearly recognise the necessity of reducing net global CO2 emissions to zero to stabilise global temperatures at warming thresholds of 1.5℃ and 2℃ above pre-industrial levels. Following this, the global emissions trend, the speed of emissions reduction, and the status of structural changes in key sectors should be examined in terms of whether these parameters are heading to net zero-emissions as soon as possible in the second half of the 21st century.
  2. The global stocktake should comprise two phases: a) technical dialogue phase; and then b) political decision-making phase, with an aim to facilitating mutual learning and promote political momentum toward climate action.
  3. The technical dialogue should be conducted to translate the best available information and science into actionable knowledge for Parties, with a view to informing Parties when they plan their successive NDCs.
  4. The political decision-making phase should be at the ministerial level and develop political decisions on actions based on technical work. This will contribute to ensuring the level of political attention and political will in raising ambition in NDCs as well as the global response based on the outcome of the global stocktake.

ただ、こういった専門的かつ技術的な議論は国内では希薄であり、Climate Action Network International から「化石賞」と認定された、などというニュースが取り上げられているのがせいぜいなところのように見受けられます。要するに、水素とアンモニアを化石燃料と混焼するのがグリーンウォッシュとされているわけですが、どこまで詳細に報じられているのか、私にははなはだ疑問です。

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私はしばしば気候変動や地球温暖化の問題では、学生諸君に対して貧富の格差と関連した理解を求めています。上の infographic は OxFam のサイトから引用しています。OxFamは世界の富裕層トップ10%が二酸化炭素排出の50%に責任があり、50%から90%の中間層が43%に責任がある一方で、下層50%はわずかに8%にすぎない、と主張しています。当然ながら、気候変動の影響は所得下層ほど大きいわけであり、富裕なCO2排出者が支払いの責任を負うべきである "make rich polluters pay" と提唱しています。私は一理あると受け止めています。

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2023年12月 4日 (月)

USB Billionaire Ambitions Report 2023 では相続による億万長者の増加を報告

先月11月の下旬だと思うのですが、USBから Billionaire Ambitions Report 2023 が明らかにされています。私なんぞの庶民の世界とはまったく異なる価値観の億万長者 billionaires の世界が垣間見えます。以下の章構成となっています。

Section 1
The next generation has its own ideas
Section 2
Heirs surpass entrepreneurs
Section 3
Anticipating a USD 5.2 trillion wealth transfer
Section 4
Conclusion

注目すべきは、第2章と第3章のタイトルです。第2章は、相続人が起業家を超える、とタイトルされ、第3章は、5.2兆ドルの資産相続が見込まれる、とされています。すなわち、リポートの序文から第2パラを引用すると以下の通りです。

Foreword
Against this backdrop, the 2023 report finds that the heirs to billionaires are gaining prominence. Indeed, the new billionaires minted during this year's study period accumulated more wealth through inheritance than entrepreneurship. That's a theme we expect to see more of over the next 20 to 30 years, as more than 1,000 billionaires pass an estimated USD 5.2 trillion to their children.

要するに、「億万長者は起業家精神ではなく、相続による資産蓄積から生まれる」 "accumulated more wealth through inheritance than entrepreneurship"、とリポートしています。最後のセンテンスでは、「今後20~30年間で1,000人超の億万長者が5兆2000億米ドルを子供たちに贈与する」 "next 20 to 30 years, as more than 1,000 billionaires pass an estimated USD 5.2 trillion to their children" と推計しています。不平等が拡大する世界で、相続により不平等が世代を越えて受け継がれるわけであり、まさに、下に引用する 2012年の「米国大統領経済報告」Economic Report of the President, February 2012 p.177 Figure 6-7 The Great Gatsby Curve の世界そのままです。

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Great Gatsby Curve とは、見て明らかな通り、縦軸には世代間の所得弾力性 Intergenerational earnings elasticity、すなわち、世代を越えて貧富が継承されやすい度合いを取り、横軸はジニ係数、すなわち、不平等の度合いとなっています。不平等と世代を超えて貧富が継承される度合いは強く正の相関を示しています。そして、これも見れば明らかな通り、左下に位置するスェーデン、フィンランド、ノルウェイ、デンマークといった北欧各国では不平等も世代を超えた貧富の継承もともに小さく、右上のスペイン、米国、英国、イタリアなどのラテンないしアングロサクソン諸国では、これらがともに大きくなっています。日本はこれらの中間よりも不平等と世代を超えて貧富が継承される度合いがともにやや大きい方の部類にも見えます。そして、繰り返しになりますが、USBのリポートでは、「今後20▲30年間で1,000人以上の億万長者が5兆2000億米ドルを子供たちに贈与する」と推計しているわけです。世界の不平等の是正が強烈に必要だと考えるのは、私だけではないと思います。

最後に、下のテーブルは、少し見にくいのですが、USB のリポート Billionaire Ambitions Report 2023 p.41 からアジア太平洋圏の億万長者 billionaires の推移 Wealth tracker - APAC を引用しています。日本では、2022年に27人だった億万長者が、2023年には38人と+81.5%増となり、資産総額は120.5兆米ドルから147.8兆米ドルに+22.7%もの増加を見せています。我々庶民のお給料が長らく減少を続けている中で、億万長者は着実に資産を増やして、それを子供に相続させているわけです。

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2023年12月 1日 (金)

利益が積み上がる法人企業統計とそれなりに堅調な雇用統計

本日、財務省から7~9月期の法人企業統計が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率など、10月の雇用統計が、それぞれ公表されています。法人企業統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は前年同期比+5.0%増の367兆7350億円だったものの、経常利益は+20.1%増の23兆7975億円に上っています。そして、設備投資は+3.4%増の12兆4,079億円を記録しています。季節調整済みの系列で見ても原系列の統計と同じ基調であり、売上高と経常利益は前期比プラスを示しています。GDP統計の基礎となる設備投資については前期比+1.4%増となっています。また、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して2.5%となり、有効求人倍率も前月から+0.01ポイント上昇し1.30倍と、いずれも改善を示しています。まず、日経新聞のサイトから各統計のヘッドラインを報じる記事を引用すると以下の通りです。

7-9月の設備投資3.4%増、自動車けん引 法人企業統計
財務省が1日発表した7~9月期の法人企業統計によると、全産業(金融・保険業を除く)のソフトウエアを含む設備投資は12兆4079億円で、前年同期と比べると3.4%増えた。輸送用機械などで生産体制の強化が進んだ。伸びは4~6月期の4.5%から縮んだ。
設備投資は瞬間風速を示す季節調整済みの前期比では1.4%伸びた。2期ぶりのプラスとなった。非製造業が2.4%増えた一方、製造業は0.4%減った。
経常利益は前年同期比20.1%増の23兆7975億円だった。7~9月期として過去最高を更新した。
設備投資の業種別では製造業、非製造業とも前年同期比でプラスを確保した。輸送用機械が16.8%、化学が6.0%プラスだった。生産体制の強化や能力増強に関連した投資が進んだ。鉄鋼は8.5%減、業務用機械は9.0%減でいずれも落ち込んだ。前年からの反動が出た。
非製造業はリース資産の購入があった物品賃貸業が39.2%増えた。娯楽施設の改修や新設投資がみられたサービス業は12.0%伸びた。
経常利益を業種別にみると、非製造業が40.0%の増益で全体を押し上げた。
発電用の燃料価格が下落した電気業が増益に転じた。新型コロナウイルス禍からの回復に伴う新規出店や客数増加のあった卸売業・小売業は17.1%上向いた。
海外経済の減速などを受けた製造業は0.9%減少した。パソコンやスマートフォン向けの需要が弱まった情報通信機械は60.7%の減益だった。業務用機械も41.3%マイナスだった。
売上高は5.0%増の367兆7350億円となった。供給制約の緩んだ輸送用機械が17.2%伸びた。価格転嫁の進んだ食料品なども増収だった。
財務省の担当者は「景気が緩やかに回復している状況を反映した」と分析した。先行きについては、海外景気の下振れや物価上昇の影響を注視したいと述べた。
10月の求人倍率1.30倍、10カ月ぶり上昇 失業率は改善
厚生労働省が1日に発表した10月の有効求人倍率(季節調整値)は1.30倍で前月から0.01ポイント上昇した。10カ月ぶりに前月を上回った。新型コロナウイルス禍で落ち込んだ飲食・サービス業の需要が回復して求人が増えた。
総務省が同日発表した10月の完全失業率は2.5%で前月に比べて0.1ポイント下がった。2カ月連続で改善した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。10月の有効求職者数は0.3%減少した。有効求人数は前月比横ばいだった。
景気の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月比で1.8%マイナスとなった。原材料費や光熱費が上がった影響を受けて製造業は10.6%、建設業は6.2%それぞれ減少した。宿泊・飲食サービス業は新型コロナからの消費持ち直しを背景に2.2%増加した。
完全失業者数は175万人で前年同月比で3万人減った。就業者数は6771万人で16万人伸び、15カ月連続の増加となった。男性は6万人、女性は10万人いずれも増えた。仕事に就かず職探しもしていない非労働人口は4062万人で33万人減った。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、いくつかの統計を並べましたので、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上高と経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影を付けた部分は景気後退期となっています。

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ということで、法人企業統計の結果について、3つの要因が作用しています。すなわち、第1に、製造業、特に、自動車産業における半導体部品などの供給制約の緩和、第2に、金融引締めに転じている先進各国をはじめとする海外景気の動向、そして、第3に、インフレないし物価上昇の動向、の3点です。いずれにせよ、売上高にせよ、営業利益や経常利益にせよ、名目で計測される統計ですので、インフレによる水増しの影響は無視できません。ですので、数量ベースの増産や設備投資増などにどこまで支えられているかは不明です。少し産業別に詳しく見ると、7~9月期の前年同期比で見て、供給制約が緩和された輸送機械が売上高でも経常利益でも大きな増収・増益となっています。また、食料品も値上げの浸透から増収・増益に転じています。他方、石油・石炭が売上高で大きな減収となっているのは、数量ベースというよりもエネルギー価格の動向に起因するものであろうと理解すべきです。また、政府からの補助金の影響が現れたのが電気業であり、昨年2022年は10~12月期まで営業利益も経常利益も赤字でしたが、今年2023年に入って1~3月期には黒字に転じ、7~9月期まで3期連続で営業利益も経常利益も黒字を計上しています。設備投資はやや低退色を強めているように私には見えます。上のグラフを見ても理解できるように、売上高はリーマン・ショック直前のサブプライム・バブル期のピークには達していませんが、経常利益はとっくに過去最高益を突破しています。企業サイドからすればカッコ付きで「体質強化」といえるのかもしれませんが、従業員や消費者のサイドから考えれば、企業利益ばかり溜め込まれるのが、どこまで現在の日本経済に好ましいのかどうか、もちろん、日本経済がかつての高度成長期のように右肩上がりの拡大基調であればまだしも、トリックルダウンはほぼほぼ完全に否定され、経済成長なしに賃金も上がらない中で、企業部門ばかりが利益を積み上げるのが経済社会的に見ていいのかどうか、疑問と私は考えています。


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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金、最後の4枚目は人件費と経常利益をそれぞれプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。人件費と経常利益も額そのものです。利益剰余金を除いて、原系列の統計と後方4四半期移動平均をともにプロットしています。見れば明らかなんですが、コロナ禍の中でを経て労働分配率が大きく低下を示しています。設備投資/キャッシュフロー比率もようやく底ばいから上昇し始めたところです。他方で、ストック指標なので評価に注意が必要とはいえ、利益剰余金は伸びを高めています。また、4枚めのパネルにあるように、デフレに陥った1990年代後半から人件費が長らく停滞する中で、経常利益は過去最高水準を更新し続けています。繰り返しになりますが、勤労者の賃金が上がらない中で、企業収益だけが伸びるのが、ホントに国民にとって望ましい社会なのでしょうか、それとも、現在の経済社会は誰にとって望ましくなるようになっているのでしょうか?

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続いて、雇用統計のグラフは上の通りです。いずれも季節調整済みの系列で、上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。よく知られたように、失業率は景気に対して遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人数ないし新規求人倍率は先行指標と見なされています。なお、影を付けた部分は景気後退期を示しています。失業率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前月から横ばいの2.6%と見込まれ、有効求人倍率に関する日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスも、前月から悪横ばいの1.29倍と見込まれていました。実績では、失業率も有効求人倍率もわずかながら改善しましたが、予測レンジの範囲内でしたし、総合的に見て、「こんなもん」という気がします。いずれにせよ、足元の統計は改善がやや鈍い面もあるとはいえ、雇用は底堅いと私は評価しています。季節調整済みのマクロの統計で見て、昨年2022年年末12月から直近の10月統計までの期間で、人口減少局面に入って久しい中で労働力人口は+36万人増加し、非労働力人口は▲45万人減少しています。就業者は+23万人増の一方で、完全失業者は+4万人しか増加しておらず、これには積極的な職探しの結果の増加も含まれていると考えるべきです。就業者の内訳として雇用形態を見ると、正規が+11万人増の一方で、非正規が+10万人増ですら、わずかながら質的な雇用も改善しているといえます。先進各国がソフトランディングに成功すれば、我が国の雇用も悪化することは考えにくいのではないかと思います。ですので、問題は量的な雇用ではなく賃金動向です。

最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週12月8日に内閣府から7~9月期のGDP統計速報2次QEが公表されます。私はほとんど1次QEから変更ないものと受け止めています。

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2023年11月30日 (木)

経済開発協力機構(OECD)の「経済見通し」やいかに?

日本時間の昨日11月29日、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し2023年11月」OECD Economic Outlook, November 2023 が公表されています。もちろん、pdfの全文リポートもアップロードされています。ヘッドラインとなる世界経済の成長率は、昨年2022年の+3.3%から、先進諸国でのインフレ抑制のための金融引締めなどにより、今年2023年+2.9%、来年2024年+2.7%と、やや減速するものの、さ来年2025年には+3.0%と、成長率が回復し、景気後退に陥ることなくソフトランディングに成功するというのがメインシナリオとなっています。まず、OECDのサイトからG20諸国の成長率のグラフを引用すると以下の通りです。

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G20諸国と世界経済とでは成長率はほとんど同じとなっています。日本は、グラフにありませんが、今年2023年+1.7%成長の後、来年2024年+1.0%成長と減速するものの、さ来年2025年は+1.2%と潜在成長率近傍から少し上振れとはいえ、足元の2023年に比べれば、やや成長が減速するものと見込まれています。リポート p.24 では日本経済について、"In Japan, where monetary policy has remained accommodative, growth is projected to increase to 1.7% in 2023 before moderating to 1% in 2024 and 1.2% in 2025 as the positive contribution from net exports fades and macroeconomic policies begin to be tightened. Wage growth is projected to strengthen gradually, with inflation settling durably at 2% in 2024-25." と指摘しています。すなわち、純輸出の寄与が低下(fade)し、マクロ経済政策が引き締められ始める(begin to be tightened)ため、成長率が鈍化(moderating)する、というシナリオです。引き締められ始めるのは、あくまでマクロ経済政策(macroeconomic policies)ということで、決して、金利引上げに前のめりな日銀の金融政策だけではない点が示唆されています。そうです。財政政策も引締め気味に運営される可能性がある、ということなのでしょう。加えて、インフレ率は2024-25年に2%で落ち着く(settling durably)と見込まれています。いや、国内の多くのエコノミストは日銀物価目標の2%よりも、またまた下回る可能性が高いと考えているのではないでしょうか、という気が私はしています。
そして、リポートでは政府や中央銀行の経済政策については以下の5点を強調しています。

  1. Monetary policy needs to remain restrictive in most advanced economies until inflation declines durably (p.33)
  2. Fiscal policy needs to ensure debt sustainability while responding to new priorities (p.35)
  3. Emerging-market economies need to ensure macroeconomic stability (p.42)
  4. Trade policies should focus on expanding trade as well as enhancing resilience (p.44)
  5. Reforms are needed to strengthen the climate transition (p.47)

最初の金融政策については "restrictive" というのは判りにくい表現なのですが、インフレ抑制の観点から金利の引下げ余地は限定的である、という趣旨です。まず、金融政策はインフレ抑制に重点を置くべき、というスタンスなのだろうと私は受け止めています。第2点目の財政政策については、サステイナビリティの観点から「バラマキ」はダメ、ということなのでしょう。3点目は新興国ではマクロ安定化政策の重要性を、4点目は先進国と新興国を通じて貿易拡大の重要性を、それぞれ指摘し、最後の5点目の構造改革では気候変動の視点を強調しています。

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目を国内に転じると、本日、経済産業省から10月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が、また、内閣府から11月の消費者態度指数がそれぞれ公表されています。IIP生産指数は季節調整済みの系列で前月から+1.0%の増産で、商業販売統計のヘッドラインとなる小売業販売額は、季節調整していない原系列の統計で前年同月比+4.2%増の13兆6480億円を示した一方で、季節調整済み指数は前月から▲1.6%の低下を記録しています。統計の基調判断は、鉱工業生産指数は「一進一退」、商業販売統計の小売業販売額は「上昇傾向」と、それぞれ据え置かれています。消費者態度指数は、前月から+0.4ポイント上昇し36.1を記録しています。基調判断は「改善に向けた動きに足踏み」で、コチラも前月からの据置きとなっています。グラフは上の通りです。

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2023年11月29日 (水)

国際決済銀行(BIS) による BIS Paper "Inflation and labour markets" やいかに?

先週11月24日に国際決済銀行(BIS)から BIS Paper "Inflation and labour markets" が公表されています。もちろん、pdfによる全文リポートもアップロードされています。公表はつい最近なのですが、このリポートの内容は今年2023年3月16-17日に開催された新興国中央銀行副総裁による国際会議 "Inflation and labour markets in the wake of the pandemic" の結果を取りまとめたものです。新興国の中央銀行副総裁による会議ですから我が国における注目は決して高くなかった上に、ロシアによるウクライナ侵攻という要素が薄かったもの注目度を上げなかった要因だろうという気がしますが、せんしんこくにくらべてた新興国のインフレにつてい、今回のコロナ禍における特徴をよく取りまとめているという気がします。まず、BISのサイトからペーパーの概要を引用すると以下の通りです。

Inflation shot up in both emerging market economies (EMEs) and advanced economies (AEs) in the wake of the Covid-19 pandemic. While labour market developments were not a key source of the surge, they could become important for the persistence of inflation and, thus, the path of disinflation. Despite this, there is comparatively little work on how labour market developments affect inflation in EMEs, quite in contrast to a substantial body of work in AEs. Instead, attention has mostly focused on other inflation drivers, for instance exchange rates. To fill this gap, the Bank for International Settlements dedicated its annual meeting of emerging market Deputy Governors to the topic of "Inflation and labour markets in the wake of the pandemic". The meeting was held in Basel 16-17 March 2023.
The current volume contains a background paper by BIS staff as well as contributions by the participating central banks. Using the responses to a survey of EME central banks, the BIS background paper analyses the structure of labour markets in EMEs, wage formation and the relationship between wages and inflation. While there are important parallels, there are also notable differences across countries, both within and between regions. For example, a few countries feature strong unions and collective bargaining, while these are mostly absent from others. Such parallels and differences are also apparent in the central bank contributions, which dig deeper into individual country cases.

この論文集にはアルファベット順で、アルゼンティン、ブラジル、チリ、中国、コロンビア、香港、など20か国の中央銀行副総裁がリポートを寄せています。その中で、p.85 から中国のリポート "Labour market and inflation: the case of China" に着目すると、日本と同じでフィリップス曲線が年を経るごとにフラットになっていくのが観察されています。

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上のフィリップス曲線のグラフはリポートから p.92 Graph 6 Relationship between China's inflation and growth を引用しています。明らかに年を経てフィリップス曲線がフラットに変化して行き、かつ、横軸であるy切片も小さくなっています。本来であれば、縦軸はGDP成長率ではなく、GDPギャップ、すなわち、統計から観察される実績GDPと潜在GDPの実績に対する比率、とすべきであろうと思いますが、第1次アプローチとしては実績の成長率でOKでしょう。おそらく、年を追ってフィリップス曲線の傾きがフラットになり、縦軸のy切片が小さくなってきているという意味で、同じことが多くの先進国、日本も含めての多くの国に当てはまっているのだろうと思います。加えて、このリポートで強調されているように、中国の場合は都市と農村の間で、また、産業間や地域間での労働移動の増加が大きく、少なくとも短期には労働市場のタイト化は、先進国や他の新興国に比べて、賃金上昇やインフレに対する大きな圧力にはなっていない可能性が高いと私も考えています。

最終的な結論を得るまでには至りませんが、ノーベル経済学賞も受賞したフェルペス教授らによる垂直のフィリップス曲線や自然失業率、などという仮説はほとんど意味をなさず、むしろ、フィリップス曲線は水平かもしれない、という仮説が出てくる可能性が示唆されているのかもしれません。そうなったら、中央銀行はその昔の日銀が主張するように物価に対する政策手段を持たない可能性すらあります。

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